増殖“日記小説”  日記 1 2 3 4 5 6 7 "New"       2023.06.25 05:48 更新


日記 1

 

1996年12月4日水曜日

先日、鮟肝を玉葱と昆布を、一緒に甘辛く煮た。  一日経つと味が浸みておとなしくなり、ねっとり濃厚なふくやかな、期待以上の仕上がりに出来た。  今度はもう少し味付けを薄くして、生臭さを抑えつつ素材の本来の響きに、どれだけ出会えるか?、迫ってみるのだ。  湯引きで薄皮を剥き、ぬめりなどを前もってとばすと 、上手く行くかな?。  頭の芯がツンとする、キリリ!と冷える夜ふけ、”三毛ねこ”が来た。  =(・。.・)=『……∂∇∋〜*』話しかけ る。  "メルシャンの小鉢"に、冷たい牛乳をたっぷり入れる。  元気な嬉しい音を起てて舐めていたが、しばらくすると何処かへと静かに音もなく帰って行った。  外から帰ると 、甘い鈴やかな苺の香りがした。  果物は食前に食べると体が悦ぶらしい。

1996年12月5日木曜日

低気圧の強風で歩きにくい。  傘を窄め木の葉が雨に打ち付けられ、風で滑空・クルクル舞い・飛翔する中を進む。  雨に降られると、黒と白のや薄茶の三毛、茶と黒灰の斑が来ない。  きっと足が濡れるのが嫌いなんだな。   しぶとく救っておったPCの棘、"wininet.dll"に始まった憂鬱が取り払われた。  あっけなく救済されたので、拍子ぬけしちまったぞ!。  "○海、小浜"の焼き印が綺麗な小鯛の笹漬け の小さな樽の蓋。  コーヒーカップのコースターにしたら、サイズと厚みと保温が絶妙であるので嬉しい。  集めようっと。

1996年12月7日土曜日

午後の柔らかい暖かさの、遠慮のない一途なキラキラした横殴りの陽射しの潮騒が満ちる頃、気持ちが風に呼ばれ引っ張られる。  ポケットの中身を指先で当たり“ギア”を確かめ“空手形の狩猟”の超越的意欲に余裕を浮かべて、 バイシュクルで川の方に向かう。  首筋が川風で擦られ切られ、両の耳が“ボー、ボー”渦で包まれると、きっと臓物が驚いて収縮し屹立する。  体の芯が更新され、背から 侵攻意欲が興る。  『フーッ……!、シーッ……!。』川面から這上がる些かメタンが散らかった、いつも変わらぬ清潔な泥の匂いをいっぱい吐いて吸う。  ずっと向こうの山が蒼く、前から射す陽がヒリヒリ頬で反射する。  真っ赤なめくるめく"○"の憧れに向かって推進する。  寡黙に優しい心の広いちょっと意地悪な兄ちゃんのように、憎い渇いた破笑を返してゆっくりと後退 する。  "パリ!、パリ!"とからだじゅうが弾け、末端がいちめんにジン!、ジン!"ヨロコビを発表する。  いつものように川面が冷ややかなキリッとした憂愁で覆われる頃に帰還する。  橋を越え小石や砂礫と冷たい水との届かない囁きを確かめ、斜面を駆け上がる。  全身が熱い、頬を擦る風が火照った頬を冷却してくれる。  鼻が ヒリヒリする。  高台に立って振り返ると、竹箒となった梢に 真っ赤な葉っぱの忘れ物が置かれた木立。  忘れ物越しに、黒々とした雲に囲まれた熾き火の"○"が、暗藍のシルエットの編み笠を伏せた、その斜面にまさに『ズイッ!!……』と落下するのに出会う。  寒いものが一斉に降りてきて寂しくなる。

1996年12月9日月曜日

モニターの壁紙(ディスクトップの背景)をモノクロの、凛とした眼差しで遙か遠ざかる憧れを見てるような、横顔の立て膝で壁に寄りかかる女性の写真にし た。  今のところディスクトップの中に寡黙に棲んでいます。  巣箱の上に立ち上がりこちらを懸命に覗こうとする“黒と茶の斑”に“、剣先さきいか”をあげたら、低いゴロゴロした甘ったるい声で子を呼んだ。  『ゴロ、ゴロ、〜♪、ニャー!』   白と黒の鼻筋が縦に黒い毛、両掌にちょうどすっぽりほど。  足先が白い、小さいふんわり軽いのが、たちまち尻尾をぴらぴら立てて跳んでき た。  『……!?』じっと見上げるので睨めっこになっちまった。  困ったことなので“むんにゃ”は、引き下がる。  休みの日は、どうしても、“メルシャンのおまけ”の小鉢の牛乳が無くなることがないように 、よく見てて継ぎ足す。  一本(1リットル)が我々のお腹に収まった。  口の周りに牛乳の滴を引っかけ、惚けてる顔は牛のようだぞ!。

1996年12月11日水曜日

いつもは目が覚めるとすぐに起き出す。  目覚ましは“YANOS STARKER/ ENCORE ALBUM/ DC-8117”であったり、“Ofra Harnoy/ SALUT D'AMOUR/ 60697-2-RC” 、Schubert: String Quintet; Boccherini, Casals / Harnoy, et al であったりした。  今は“J.S.BACH/6 SUITES A VIOLONCELLO SOLO SENZA BASSO/ M.FUJIWARA/ CO-4483,4”の、雨上がりの森をいそいそ散歩するような、湿ったくぐもった"ぐずった、嘆願"の響きを愛用している。  自分が生きていることを知る一時は大切なので、できるだけ水を浴びた ような驚きを、最小にするため人工的な響きは避けたい。  そのまま"黄泉の国"へ何の問題もなく戻れるような、くすんだ何処かにたちどころに吸い込まれ失せるような響きがいいのである。  律動や躍動、拡散、合奏、物語、肉声などの類は適さない。  止めどなく筋となって愁雨に煙る淡碧の靄の川面に刺さる、絶望のけだるい窓辺で聴く響きなどがいいので ある。  網膜に白い眩しい光輝がひとすじでも飛び込むと、『カチッ!』とスイッチが入り覚醒するため、夢の続きを見ることは不可能になる。  この場合は改めて新しい"赤さび号の兄ちゃんとの永い航海"に出掛けることにな る。  至福の愉しみなり。  起き出さないでいると鼻風邪をひくことが多い。  なぜだ!?。  "ドネガルハット!?"そっくり、バイシュクルのベルを取り付けた。  約2.5cmの光沢メタルの"○"で凛とした打撃音に、控えめな余韻をやや永く曳くので 好きだ。

1996年12月14日土曜日

左手で巻くフライリールは光沢のほとんど無い銀粉と黒の、気負った飾りを排した簡素な外観の超軽量マグネシウム合金(RYOBI 255MG, 〃 355MG)である。  スプールの端のちょっとこころもち反り返ったところや、岩にぶっつけたり砂礫にロッドを置いた時にどうしても付いてしまう細かい無数の傷、外郭部分の塗装がすり切れて剥がれて下地塗装や、地金を曝している痕跡がいとおしい。  ほどよい重さとしなやかさ、滑りがあるライン(≒φ1.0mm)の先端にリーダーが接続され、ティペット(鈎素≒φ0.13mm)に結ばれフライ(毛針)に繋がります。  リーダーはロッドの撓りで空中に放り出され形となって見える推進波( 縦波)を、無駄なくラインからフライに伝える重要な役割があります。  このためほぼφ1.0〜0.13mmの緩やかなテーパーになっています。 "ブレイテッドリーダー(TIEMCO、mainuk UK)"はスチールヘッド用テーパーの7.5〜11フィートと7.5〜18フィートのスタンダードテーパーがあり、ネイルノットあるいはサージェンスノットでラインと接続します。  ティペットを7フィートほど繋げます、標準は4フィートですが 、太さとともに機転と戦略の閃きで長さは、はなはだ変化します。  アクアマリンの透明度、侵攻速度や深さ、渦流の程度により長さと、シンカー(≒φ1.0〜3.0mm鉛のガン玉)を打つ位置と数、重さは変えるべきです。  しかしこれに寄りかかったり過信は禁物です。  明らかに必要悪!?の異形物であり、これの排斥と恩恵は一体。  “理性もまた奔走する一種の情熱”なので、これを御すること自体が 、矛盾そのものなので苦悩は深まるばかりです。  この"ブレイテッドリーダー(TIEMCO)"は細い繊維を網に編んだ構造であり、いわゆる巻癖が皆無なんで、苛立ちから解放してくれます。  巻癖による弛みが皆無、ラインの先端の鮮やかな黄や橙の発砲スチロール蛍光色インジケーターを 、てきめんに正直に『ピク!、ピク!』波動させるので、その素直さしなやかさに感服 する。  足先の白い全身の細かい毛が風でそよぐ、黒と白の島からなる生き物。  小屋の屋根で朝陽を浴び、母親の体を枕にして、鼻を半分埋めて幸せな眠りに落ちている。  昨日はぶら下げたロープと狩猟の真似を して遊んだので、"……"の夢でも見るのかな!?。  耳を微かに想いだしたように『……、ピッ!』動かしてる。

1996年12月15日日曜日

"艶消しの銀色"と"やや反り返った"ところに実力を隠した、安物っぽさが感じられる大好きなフライリール。  RYOBI 255MG, 〃 355MGは、池袋の**スポーツで手に入れた。  しばらくして予備!?を急きょ足し、手元に4個がころがっている。  気に入ったのは"超軽量"だからでもある(本当はこれがきっかけ)。  フライフィッシングのとって付けたような、自分から剥離した借り物のスタイル全般が 、軽薄に感じられ、なじめずにいた。  小気味よいせいせいするこの圧倒的な“パーン!”と突き抜けた皮膚感に 、妙に引っかかったからで ある。  胸のあたりに下げる“前垂れ”型のフライボックスホルダーギアを、カーターさんが忍野のクリークでヤマメと遊んだ時の記事で見て以来、『これだぁ!……』と心に決め探索、沈潜するがそれっきりで ある。  シャフトに揺るぎが全くなく吸い付いていて、怖いぐらいである。  赤の透き通った○に埋め込まれた“斜のスペード”マークを見るまでは、日本製であることに気が付かない。  これのお陰で脳天を射す真夏の疲労も、2日目からできる右の人指し指と親指の冬のあかぎれも癒やされ、楽しく濃密な我を忘れる時間を過ごせたのだ。  金メッキのマシンカットの冷ややかな光沢の精巧な"Marryat"は外出したことの記憶がない、心曳かれることがない。  HLKT!のシールが貼り付 いて剥がすことができない"Martin"は、大きな誰はばかることのない明るい“カラ!カラ!”の叫び声(ラチット音)が楽しい。  板金の打ち抜きの呆れるほどの徹底したシンプルさ合理性に感心する。  手元のタイプにはドラッグ(逆巻時のブレーキ)機能がないが、むしろ心を開き豊かにしてくれる頼もしいやつだ。  最初に手に入れた物だが、ずいぶん永く書棚に置き去りのままなので、惚れ直した勢いできっとこんどは一緒に出掛けるか……。  ABU社(EF扱い)の"Diplomat156"は、手すりドラッグの白い。  全体が艶を抑えた重厚な黒であり、静謐な端正さに覆われた、精緻が滲み出た外観で ある。  類まれな精巧なドラッグメカニズムは静穏であり、不躾な雑音で自然を汚すことが皆無である。  長時間の格闘を待ち望む摩擦機構は、抗力が滑らかに調整ができ、長時間の酷使にへこたれが全くない。  このドラッグ調整つまみは、親指と人差し指に角張った手触りと、ねっとりした思慮深い反射を返してくれる。  これらが全てに行き届いていて 、簡素な黒の布袋でも同じであり。  しなやかな黒いポケットに吸い込まれ、たちどころに安堵で大人しくなっちまう。  まさに釣り具の"SUNマシン"で ある。  ギアとかボールベアリングがなく、ドラッグが唯一のメカニズムであるフライリールは掌の無二の友人である。  バットの後方でロッドの重みと、天秤のバランスを取る重要な役目も ある。  とびきり頑丈な創り・加工・仕上がりであり。  のめり込んでいた頃の連日の手荒い酷使を潜ってきて、寡黙に書棚で休んでいる。  明るいアイボリーピンクのダブルテーパーのライン(#5-DT-F)が巻かれたまま、バッグに投げ込まれる瞬間まで眠る。  岩に必ずぶっつけるラインローラー部にひびが入って、凹んでおる"(む)"を元気付けるため、…… 友達が地図と独自の感で日本代理店の本店を探し訪ねて、綺麗な袋に入った純正部品を入手、手渡してくれた。  『……!』 今想いだしても体が固まり息を止めてしまう。  ほうれん草のお浸しの赤い根っ子の部分、,仄かな甘みと同じように忘れられない。

1996年12月16日月曜日

大好きなフライリール(RYOBI 255MG, 〃 355MG)は、書棚から憎い"例の銀色"で荒野へと気持ちを曳く。  これを掌にとり指先で挨拶を交歓する。  書棚やレコード、CD棚に囲まれ息を潜めていると、荒野の葦の枯れ葉や砂礫をきらきらそよがせる心地よいノイズ、山奥のせせらぎに突然出現する明るい白い砂地、深い淵を油のようにゆっくりのたうち棲むアクアマリンの自信に満ちた尊厳が、つぎからつぎへと顔を出し消える。  漁から帰ったばかりの漁師のような悠々とした肩つきになり、他人の視線を意識しない憧れを見る眼差しになれるのである。  いつもの表情であるが、心は開かれ気まぐれな朝日のように意欲に溢れている。  フライ(ニンフ=羽虫の幼虫)を巻く。  針先は常に痛みを感じずに指先に刺さり、血が滲むようでなければいけない。  砂礫にもまれた後にこ そ、そうでなければならない。  水に濡れても敵に苛立ちや欲望を掻き立て、引きつけるようでなければならない。  ホワイトラビットの“ピン!”としたしなやかな“生きた”弾力が重宝する。  顔や姿を覚えられるその前に変身する機転も 、忘れてはならない。  軽くてもいけないし、重さが"不自然"であってもいけない。  "不自然"さはむしろ敵の 苛立ちや欲望、葛藤を救済しつつ弾劾する器量がもっとも肝要であり、しかもつねに刻々と進化させにゃいかん。  難しくて面白いのだぁ!。  ここで君は、はたと思い出すだろう。  『(ねこと女はどちらも呼んでも来ないが、呼ばない時にきっとあらわれる)』これなんだよ!。  釣りは哲学なんだ。  君の顔に余裕と奥行きをじわじわと溢れさせ、“漁から帰ったばかりの漁師のような悠々とした肩つきや、潮風に吹かれた他人の視線を意識しない憧れを見る眼差し”をもたらし人生を豊かにするだよ。   “GAMAKATU DRY LIGHT #12 F11 3F”に糸を巻き付ける、巻初めを5cm程垂らしておく。  背骨の部分に4重ほど巻く、下巻(≠舌巻)である。  右指で“StoneflyYellow”とか“イエローウール+ホワイトラビット”の情熱があるマテリアルを糸と一緒に摘み頭(アイ)の方から、撚りを掛けながら少しずつ繰り出し巻き込む。  尻尾まで来たら垂らした糸と結び完了である。  一重に仕上げるときれいになる。  フライボックスに未練がない達人は、写真フィルムの筒に入れてポケットに忍ばせ る。  現場で人目が無いときに“ニシン油”とか“バナナエッセンス”、“∂∠♭Θ∋£”などの妖しい(≠怪しい)添加液をポケットからさり気なく慇懃に取り出し、“資料を収集するための実験”を行なうことは、哲学の原点は経験であるので 、いっこうに”だんない”のである。  ねこのフラストレーションを救済する“ねこじゃらし”(じゃれ猫フラ○○○)を見つけた。  黄や赤などの原色の羽の尻尾を持つ毛玉で目や口が付いている。  50cmほどのちょうどワカサギの釣り竿そっくり 、よく撓る“じゃらしロッド”に調節可能の1.5mのラインで垂らす。  子猫の高さになるように木の枝に竿をセットした。  果たして気に 入ってくれるかな!?。  『ウフフッ……!』愉しみ。

1996年12月17日火曜日

薄雲が靄のようにたなびく晴天である、南風が吹きちょっとした散歩で汗ばむ。  これで風邪が快方に向かうといいなぁ!。  寝入り端でもたもたすると咳が襲う、もたもたしてはいかんのだが、どうすればいいのやら!?。  冬は両腕を頭の上に置く"宇宙飛行士"が出来ないので、"黄泉の国へ航海する"型でのストレッチがきっぱり定まらず眠るのに神経が疲れる。  こんな時は窓の下に東と南にわかれて植わっている樹木や草の名前と花、葉っぱの形を端から順に挙げていくが、たいてい5,6本しか数えた記憶が無い、瞬く間にあちら側へ入り込んでしまう。  いたずらにイメージが跳躍せず 、しかもほどよく集中できる使いでのあるいい方法だ。  “足先の白い全身の細かい毛が風でそよぐ黒と白”、珍しく昼のいつもの定刻に来ない。  昨宵は仕掛けた“ねこじゃらし”をすぐに見つけて目を輝かして早速遊んでいた。  背を低くして後ずさりし全身をバネにして跳びかかったり、両の手で引っ掻いたり押さえ込んだり、くわえて首を振ったり、小屋(本箱の二階のある巣箱!?)の屋根に運び上げたり夢中になってい る。  その度にロッドが撓みその先に付けた鈴が“チリ!、チリ!”鳴る。  首につ けないで鈴が鳴る!。  朝に近い頃にガラス戸を『ドンッ!、ドンッ!』ぶつ者がいたが、『ハハァ……!』すぐに誰だか解かっちゃったぞ。  “鼻白ちび”ちゃん珍しい友達ができて有頂天になり 、発散しすぎて疲れたのかな!?。  日付けが変わる頃に“ルアー”は、巻き上げるようにし“鼻白ちび”ちゃんやその友人(=ДζΨΠ∀)が寝不足にならないようにしよう。   砂ぼこりと草の匂いが地を這う通り雨が上がった夜空を歩き、"モスバ○○○"の向かいに"おでんセット" を食べに出掛ける。  うどんがメインであり小鉢に盛ったご飯との取り合わせが、不思議と云うかやはりと云うかゆっくりと充実した“フーッ!!”息を吐くあっぱれな時間であっ た。  汁は竹の柄の柄杓で残らず平らげた。  あとで舌を焼いてヒリヒリするのに気がつき無念なり。  これではコーヒーの味が分からんにゃ……!?。

1996年12月20日金曜日

天が高い寒い夕方、下北沢で電車を降り急な木製階段を出て起伏のある軒先がひしめく喧噪の坂道を、"いっぱいの空手形"を数えながらゆっくり歩く。  新しい第二の希望がしめやかに地から這い上がり、“ワッ!”と歓声がするが、もちろん聞こえない。  パチンコ屋!?の横から緩やかな傾斜の薄暗い階段を二階に登る。  椅子などを脇にどかした濃い赤のカーペットに、膝を抱えて腰を降ろす。  入り口で水割りのコップを貰い 、ざわざわ勝手な話をめいめいが交わしているうちに密室は、だんだん暖かくなる。  ぼくらの頬に朱が射しかかる、聞き覚えのある“あの響き”が低い天井、床に満ち渡る。  健康優良児である坊主刈りのどっしりした"電気弦大将"(春……文)が 、ぶつぶつ云っている。  『…… ボーカルは、未だ来ないのか!?……』と云ってるらしい(ンッ!、一緒じゃないの…!?)。  “丸くて眩しい”涼しい黒目のお方は、ぼくらを焦らしていっこうに出現しない。  ずいぶん待たせた、仲間の序奏もとうとう停止した。  期待が頂点に登った頃、物陰から臆しながらパンツをちょっと引っ張り上げるようなしぐさで、いつも以上の爆発した頭の不機嫌な頬のふくよかな笑顔があらわれた。  珍しくぴっちりしたボトム、黄と赤、緑、……の横縞のセーターをパンパンに着込んでいたぞ!。  この前は、トナカイやお星さまが賑やかなやはりボッテリのセーターだっ た。  日比谷野音の時と同じサラサラの肩と胸先が突っ張った薄物とふんわりしたロングの巻スカート、鉢巻きを期待していた皆は落胆した。  鼻筋が通った“キリッ!”としたいつもの眩しい視線は、健在であっ た。  華奢な肩と手足に意外な腰の豊饒を身近に感じた。  しかし日本青年館などで見せた堂々としたふてぶてしさが影をひそめていた。  ちょっと憂いと湿りを曳きずる気持ちよく伸びる凛とした突っ張った自在なヴォイスは、いつも以上に生気を迸りつつ暖かく。  波動を弛まず直立姿勢で四方に放射し続けた。  ぼくらは、心を奪われ体がくらくらした、ぼんやりした憧れと郷愁、脳髄を直撃するうち奮える"ヴォイス"のたなびく優しい新しい時空に漂っ た。  ネオロマンティック西洋音楽(!?)を曳きずるロックの響きの中に直立し肩をそびやかし四肢をくねらせ全開。  涼しい深い翳りの目で詩を詠みつつ言葉を吐き捨てる"カルメン・マキ"は女だが、何かの媒体!?でもあった、ねこであっ た。  何年も前のことだが、からだがジンンジンする寒い日。  くっきりした冬の夜空に置いてきた誰にも細部を語らない思い出だ。  何回か同じ密室(="マ○○カ")に通ったが甦るのは、ひとつのそよぎになってしまった。

1996年12月22日日曜日

いつものようにやわらかな横殴りの一途な眩しい陽射。  キラキラの潮騒の一斉照射の始まる昼下がりは、落ち着きがなくなる。  直視出来ない沸騰する黄昏の前のめくるめく白黄、移ろいの数時間で衰退することが分かっている。  だから曳かれる、゛○゛に向かって出掛けたくなる。  燦たる落日の中に長い影を曳き、後ろ姿を見せて歩む少し前のこの時刻は、けだるい“EROICAの、……Adagioの ような大陸的な爛熟の静謐の光輝に溢れるひとときである。  不思議と目に見える黄昏始めるものの物陰から、新しいむずむずする身動きを始める衝動が潜んでいて、油断するとすっかりそれに絡みつかれる。  人生混沌の秘密が分泌され、その後ろ姿を見せる頃がそうであろうと想わせる。  それに眼をそらしやり過ごすことができない。  “Wilson1 のやや深めのシェルのしっかりした軽量のバスケット・シューズ”を穿く。  全方向から足先が締め付けられ、下半身から胃のあたりがせいせいと する。  とたんに血と体液がジンジン"そよぎ"はじめ喚起力が湧き起こる、麻薬のようだ!?。  背筋がピンとなり、耳のうしろが氷解し涼しくなる。  今日はいつもより白黄が高くある頃に、棲み家を飛び出す。  楓や桜、銀杏、スズカケノキが澄んだ青空に、自棄でそびえる引き締まった風を吸い、額に嬉しい斜光を浴びて森や植え込み、垣根の海をかき分け推進する。  丘陵の西斜面を緩やかなゆっくりした斜に削った、冬枯れの木立の天蓋に覆われた長いトンネルを滑走する。  落ちているのに気持ちは、狩猟の獲物にいっぱいつまった“空充足”があり、心は喝采を叫び、どこかに跳び出し不在である。  目がいきいきと澄み、脳裏にざわざわと発想が勝手に湧き興る気配がする。  鼻がヒリヒリする、渇いた川風を吸い橋を越える。  五差路を周到に機転を効かせて、すばしこく半周する。  誰一人知る人はいないので、無数の機関の活動音や足音、会話が総体となった響風がのべつたゆたう。  人工の森や岩礁は、死にかかった“そよぎ”の失せた荒野であり海で ある。  従ってそのとうりの遠くの憧れを見る眼差しで、ガラスや石、鉄鋼で造られた構造物の階段を降り、動物の群をすり抜けて侵攻する。  しかし突然、無言で語りかけたり笑顔を返す気配があると怯え る。  京木綿(豆腐)、三つ葉、ワタリ蟹、小鯛の笹漬け、あんきも、カプチーノ・ドーナツ、ベーコン・クッペ、チョコレート・ドーナツ、なまり(節)、"本場"さぬきうどん(ゆで玉)、なかおち(マグロ)、舞い茸、牛乳、……を持って 、辛うじて未だ暖かい陽を背に受けて棲み家に戻る。  画面の中に"友人"の言葉を見つけ出す。  再び陽がまさに西の山に没する頃、例によって誰ひとり人物と会わずに北から帰る。  濃い黄のマグカップ、小さいカレンダー(moon calendar)、〃(GARDENER'N CALENDAR)、“CARRAPICHO/ FIETA DE BOI BUMBA/ BVCP-978/ 中南米”、“KALI RACINES VOL.3/ NOEL/ 8426605-2/ 中南米”、MANU DIBANGO/  LIVE 96-PAPA GROOVE/ INT845.272/ AFRO POP 、“WASIS DIOP/ NOSANT/ 526565-2/ AFRO POP”、ALI FARKA TOURE/ Radio Mali/ WCD044/ AFRO POP ♪ ♪。  "メルシャンの小鉢"に"特濃4.3"を継ぎ足して置く。 朝見たが夜更けに出現しない"友人"を恨む、が今窓を開いて見たら"特濃4.3"が少し減っていたので安心する。

1997年1月5日日曜日

赤の“FUJIYA”のミルキー・キャンデー(ペコちゃんの)の四角の掌サイズの宝箱に入れているカゼぐすりが残り少ない。  休みが連続するので、安心のためにカゼぐすりを貰いに行く。  何年か前の正月は、熱が出て悪寒が4日ぐらい続き寝たきりで薬も食べものも無く、水を飲むに立ち上がるにも椅子に掴まりフラフラで苦しんだことが、否応なしに毎年この頃に甦 る。  あのときは、風邪にもかかわらずなぜか裸足でいて本格的にディープな風邪に取り憑かれたのだった、体を鍛えているつもりのようなバカな考えに発したことで、休みの間中寝てい た。  電話をすると、“ビルギット・ニルソン”が出てくれた、『オカ……(正確に名前を発声)、番号は……よ!?』と返すので、『……』とちょっぴり弾んで、できるだけ機械的にならないように明瞭にゆっくりと、くぐもった声(だろうな!?)で 、保険証に書き込んであるのと同じ4桁の数字を発表する。  この番号で“宇宙基地”の中できっとコンピューターでなんか、コチョコチョやってるんじゃ!…。  去年は確か、おそるおそる多めに欲しいと無理を申し出ていつもの2倍の日にち分を貰っ た。  しかし今回は、理由は分からない定められているいつもの分量にし、そのことは黙っていた。  歯を磨いて顔を洗って夕闇が降り始めた碁盤目の住宅地の道を斜にジグサグに縫って突っ切る、進むにつれさまざまな樹木の微かな香りと 、土の“夜”の匂いが鼻先を掠める。  闇が侵食した樹木の覆う公園を斜に突っ切り、例のテニス・コートの脇を通り、見上げる立派な樅の大木に守られた白い四角の建物の光輝の扉を押す。  記帳しながら“宇宙基地”の中枢を覗き込み“……”を探す。  ふいに暖かい靄のように仄かな花の香りがして、『…早……のね 。』やや薄い印象の唇にその奧に潜む熱いものと深淵!?をきっと探さずにいられない。  凛とした機知が滲むきキリッとした口元の微笑を眩しく覗き込む。  底の深くねっとりした褐色(チョコレート色)の、やや微かにドラネコ!?のような。  『は…っ!』とする余韻を感じる声を聴くと、カゼぐすりはどうでも良かったことを感じ入 る。

1997年1月6日月曜日

なんど耳にしても、微かな甘美と跳躍の背後に彼方に向かって投げかけるような、寂寥感の印象が後を曳く。  ちょっとしたカゼの兆候などわ霧散するのが分かる。  今日は、『これは抗生物質、……わ解熱剤、こ……』と説明をしてくれない…。     帰りは足どり軽く往復で右回りの、半月の残りの軌跡を辿り帰還する。  夕闇がすっかり降りた、ところどころに真っ暗闇がある静穏な樹木の多い住宅地の人通りのない道の四つ角を、幾つも曲がり碁盤目の道を斜に目的に真っ直ぐに侵攻 する。  真っ直ぐのつもりがどうしても左に進路が傾くのは、心臓や肝臓の配置と関係あるんだろうか!?。  カゼぐすりを飲むと決まって恐い夢を見る、いつも覚悟して眠るがやはり恐いものわ恐いし覚悟は無駄で ある。  のように軽い症状の時はこの夢は出現しない。  いまでもこの謎!?は引き続き探求中である、恐いもの見たさってやつだぁ!。  番号に纏わる想い出は、小3〜4の頃にもある。  薄茶紙のガ……刷りのテスト答案に名前を書かずに、いつも出席番号を得意げに(!?)書いて出してい た。  眼のおっきな額の秀でた頬骨と肩の張った、背の高い背筋をいつもすっと伸ばした濃紺のスーツの○○先…が、『……』と出席番号だけじゃいけないよ!。  名前をちゃんと書くように!、名指しでなく皆に注意してから順に名前を呼んで採点を返してくれ た。  一番好きな○○先…(一番活発に競って手を挙げて発表したし点も良かったんだ)に言われたのがひどく堪え、顔から火が出て顔色がさっと変わった(と思う)。  しかしやはり肩のあたりに一抹の怨みが漂っていたような(!?)気もする、我慢してたんだな……。  南に面したガラス窓に小さな檜の影と眩しい木洩れ日が映っている。  すぐ眼の前である。 ゆっくりとねこがガラス戸に毛先を擦り付けて歩いて行く。  ピンとした口髭が映ってる。   =(・。.・)=おかしい……。  微かな甘美な懈怠が通り過ぎる。

1997年1月8日水曜日

人通りのない静閑な住宅地を東に向かう。  暗闇がそこかしこに潜むあたりを抜けると、温かい明かりがぽつぽつ滲む緩やかな登りの広い通りに出る。  正面に、自動車工場が聳えていた、……街道に面していた。  それは、母屋にくっつけた道路側にせり出した新しい“スタジオ”である。  上が丸くドーム状になった曇りガラス窓に“ポッ!”と優しい明かりが洩れる厚い木製の扉と、そっくりの形の明かり採り窓が道路に面している。  その前の煉瓦を積み上げた植え込みに バイシュクルを立て掛ける。  少し不安な気持ちでスタジオの脇腹に取り付けられた、ちょうどネズミの出入り口のような扉を押し、中にスルリと体を潜り込ませる。  うなぎの寝床!?のように長い天井の高いシェルである。  奧の高い所に自慢の自作スピーカー・システム(ダイヤトーン・ユニット)がぶら下がっている。  掌ほどの厚さの木製のカウンターがスピーカーの下の壁から、ちょうど胸の高さで延びている。  先端はちょっと内側に括れていて張り出している壁との間は、やっと体を横にして通れるように作られている。  そこに電話が乗っかっていて、未だ明るいうちに訪ねたりすると 、“…”が厚手の生成の小さいエプロンを腰骨でキュッと結わえ、腕と顎をのっけてもたれ掛かって、タバコをくゆらせて本を読んでいるのにしばしば出くわす。  エプロンのポケットからアルミ合金のナットをボルトが貫いているデザインを取りだし瞬く瞬間にタバコに火を着ける、真剣に頼んでも二度とやって見せてくれない。  下唇を引き濃い眉毛をピク!、ピク!させ視線をちょっとそらし『ウォッ!、フォッ!、……!』と満足な笑いを浮かべる。  ニクイい野郎だぜいっ!(若いのに錆びたことやるっ…!。 )。  西方の山懐の“…大”から帰ったばかりで、鉤鼻をヒクヒクさせながら濃い眉の痩せた顔でスタジオに入って来ると、真っ直ぐに赤い角の丸い小さなコーヒー・ミルを唸らせ粉砕し、ドリップに柔らかい山をこんもり作って細心の心構えでなコーヒーを炒れ、『フー!、……!』息を吐きながらゆっくり嬉しそうにブラックで口に運んだ。  あの時のブラック・コーヒーの味が忘れられない。  飲んだわけではない、どんな味がしたのだろう!?と気になり、なにかの折りにきっとその光景が脳裏をよぎる。   腰よりやや高い位置ある回転椅子によじ登り、その鞍のような低いたっぷりした丸みに覆われた背もたれに膝を掛け足を組み、スピーカーの真下の壁にもたれ掛かり、“カウント・ベイシー”や“ケニー・ドリュー”、“吉○○奈子”、“ウェザー・リポート”、“アーチー・シェップ”、“……”を聴い た。  濃密な満たされた更新される毎日の従容とした、ちょっと緊張した時間の経過を常に感じ続けることができた。  チャーリー・ミンガスとマリオン・ブラウンの良さを教えて貰った 、N君を連れて行ったこともある。  何でも話してしまいそうな、友人の顔がたくさんあった。

1997年1月9日木曜日

キッチン側はスタジオ用の限りなく白昼に近い水銀のような、眩い乾いた光輝が天井や壁に当たり反射し続けて漂い。  涼やかな静謐な時空を存在させていた。  高い椅子に背を丸め、文庫本に脇目も振らない方いらっしゃった。  若い常連さんが、ある日カウンターに進入し、エプロンがすっかりなじんだ笑顔を見せた。  大きな冷蔵庫をもらってもらった。  遅くなると(11時頃)何か口をもぐもぐさせ腰のあたりをちょっとずりあげるようなしぐさ。  目鼻立ちのきりりとした、微かに鼻で“フンッ!”と言いそうな印象が消えない。  口もとにそれが及んだときに皆が一撃され心奪われる微笑を秘め。  おっとりと奧から仕事場から帰ったばかりの娘が現れる。  『私はスキーに行かないんだ……』とか言っていた。  僕は密かに香○美子の印象が拭いきれないが、本人は吉○小○合に似てると言われたことがあると申すので、そのことがとうとう言えなかった。  ある日、珍しく奧の端の椅子に男と並んで座っていたが、どうも様子が不自然である。  見ると後ろ手に逆間接を男に取られて顔をちょっと歪めていた。  弟は、ちょっと焦っていたが?! 、別にどうこうしようとしないで談笑していた。  翌日はいつもどうりであったが、恐ろしい光景であった。  窓側の木製の壁にもたれ掛けられるように、木のベンチがいわゆる作り付けになっていて、手縫いのかわいい座布団が6コ!?放り出されて並べられてい る。  樫の木!?で作られた小さな机が5コ並べられているが、たいていはくっつけられて3つの島になっている。  その離れ島にいると孤独を噛みしめたりその気分で、話しに埋没している顔見知りたちの後ろ姿が見上げられ る。  外の明かりを落とし大きな島を作って、『美味しいよ!、でも食べ過ぎないように……』と書かれたメニュー・カード等をどけて、カードを切る。  ブラック・ジャックだが 、アイデアにあふれた我々が特に定めた細かいルールがある。  “5……”とか“3・7!?”、“……”などなど。  ある日『オカ……いい手になると“アッ!”と(思わず隠しきれない正直な!?感嘆“!”の)声を漏らすわよっ! 。』とドキッ!とする発表を、頬に力漲らせいたずらっぽい目と、勝ち誇った口をキリッ!と結んで聴かせてくれた。  勝てない訳だ!。  いつも深夜の時間切れまで埋没し、終わりがこころ残りであっ た。  ぼく自身の都合も含めて、いつまでも続くことを渇望したが、…… を契機に遠ざかっていた。  いつかふらっと昼間訪ねてみたら、外観の様子がずいぶん変わっていて、胸を突かれ た。  夜ならどうだったか!?、もう確かめられない。  大事な記憶が消えないようにするため、もう訪ねない……。  何年も ……、ずっと前のことです。  窓を少し開けて皿に牛乳を入れて窓際に置いたら、痩せた白につられて鼻白中(鼻白小もいる)が入ってきて、足下のホットパネル(足温器)を嗅いでなにごとも無かったように、自我を崩さずに冷徹に引き上げた。

1997年1月12日日曜日

夕闇が薄茶の壁や垣根の隅のあたりからゆっくり首をもたげ始め、T字の道に打たれた水が深遠な鈍いあてのない期待を呼び起こす光輝を反射し始める。  天を被うヒマラヤスギや檜、スズカケノキ(プラタナス)、ナギの下に、背丈ほどの細い枝を無数に繁茂させる。  薄いピンクの白い5枚の花弁を広げた小さな花が無数に連なり暗闇に浮かぶ。  ムッとする動物の情熱衝動が分泌するそれを想わずにいられない匂いが、しめやかに漂いゆっくり流れ後頭部を擽る。  これは公園などに 、背丈より少し低いこんもりした半球の茂みをつくる。  夜、暗闇の出現する公園を突っ切って通ると、ちょうど鼻先と高さが同じであるため、その濃厚な動物の匂いの縞に捉えられ 、立ち去りがたい気を起こさせられる。  試しに手折ってみると華奢な枝に粘りがあって、それが容易でないばかりか、チクッ!と刺すものがあり棘があることに気づく。  これは、けっして野山で見かけることがない。  都会の外れに棲むようになったころに遭遇した、いわばある時期の混沌の渦動として消すことができない“そよぎ”をもたらすので ある。  名は、アベリア(学名)、ハナゾノツクバネウツギであることは後で図鑑で知った。  この狂おしい匂いが道を這う頃は、蒸し蒸しする風の行かない夏の夜などである。  午後の激しい陽が沈下してしまった、夕方の湿度が濃くなりはじめる頃にいっそう匂いをきつくする。    日焼けがヒリヒリする肩でふらっと外に出て、夜風を見ようと角を曲がったところで、T字を被う打ち水に、新しい赤い明かりが“ポッ!”と映るその瞬間に出くわす。  日頃、見慣れた景色であるがその明かりは、つい先ほど出現したもので ある。  更に翌日、照明灯が入った“D○○○E”とたっぷりどっしりした、嬉しくなる手書き文字の看板が軒下に取り付けられた。  甘い自我の堅固なリードの囁きがあらゆる隙間にするする入り込む。  柔らかく芯があり煙るようであり、徹底的な膨張と伸びやかな展開がある。  その明かりを訪ねて行くと、鉄の階段の下に、誰かの大工仕事で気が付かない程の素早さで作られた 、小屋を発見する。  木の扉を押して暗闇に入る、更に同じような扉を引いて中に入る。  天に手が届きそうな根元的平安の漂白する異次元界そのものである。  “不思議の国のアリス”の国が出現 する。  眩暈がしそうな塗りたてのペンキと木の匂いに満たされた、理想の空間が出現する。

1997年1月13日月曜日

階段の下に体を屈めて、木の壁にもたれ掛かる。  壁が迫る安住の地に 、果てしない草の海や丘が出現し起伏し霧が湧いた。  初発の感動の後で正気に戻り、優しさと平安に包まれた一人きりの、特別指定席であることにヨロコビがこみ上げる。  カウンターを潜って、混じりけのない真っ黒な見事な口ひげの、寡黙な優しい目の光の鋭敏な“シェップ”が現れる。  見事なほどの静謐、息をせずに"BLUE NOTE"のレコードの真ん中の白と青をくり抜いたコースターを、膝の高さの細長い小さな机に慇懃に置いてくれる。  ちょっと間を置きレモンが微かに入った水 を入れた、絵柄のあるコップを静かにしっかり載せる。  そこで浴びるJAZZは全て瞠目、戦慄の初めて聴くものばかりであった。  恐ろしいものや、カッ…!と後頭部の芯が赤熱するもの、末端神経がザワザワと湧くものの連続であっ た。  アドレナリンが“ピッ!、ピッ!”射出。  ぐったりと壁にもたれ掛かり、時間が昇華するのをぼんやり何時までも眺めていた。  床の扇風機がゆっくり回り“東風”を呼ぶ、汗が背中を落ちる。  “シェップ”青年はカウンターの底で頭を抱え突っ伏して、浄潔の熱病で哲学じゃぁ!。  小さなスピーカーが間断なく一途にボイス・コイルを仄かに赤熱で膨張させ激しく揺さぶり続け 、ほんの僅かを響音に変え、衝動の具体化の嘆きで喘ぐ。  挑戦的な意志力の展開と発散が湧き続け、木製のカプセルの空気をカオスで充たし続けた。  7人が膝を突き合わせて、膝と同じ高さの机に向かい合う。  時々“シェップ”青年が外に出てカチワリを軽々と掴み運びこむ。  奧の人物が席を立つときは、二人が立ち上がり一旦席を離れる。  飲み物を頭上でリレーする。    一日の終わりで始まりである。  黄昏と樹木の影に隠されささやかな冷気が息をひそめ、こっそり忍びより、壁や窓をまさぐって歩き回り始める頃。  明かりが点くのを待って、“巣穴”に頻繁に通うようになる。  CARLA BLEY、JOHN SURMAN、SONNY SHARROCK、JOHN TCHICAI、Maxine Sullivan、Roscoe Mitchell、SUN RA、ARCHIE SHEPP、EVAN PARKER、Julius Hemphill、Muhal Richard Abrams、……、などを叩き込まれる。  フリー・ジャズが少しづつ皮膚に浸透し、次第に日増しになじみ始める。

1997年1月14日火曜日

一杯のコーヒーか水割りで、夕方から一時頃まで連日のように浸透し耽溺した。  “シェップ”が見かねて優しく黙って水割りやコーヒーをさり気なく置いてくれる。  カオスで呆然となっているので何も考えず、何かを感じ!?それを口にしようとするがが、……黙って帰る。  どこからか、たぶん2階だろう、目の黒くて丸い涼しい光の子が 、音もなく現れカウンターに黙ってうずくまった。  きっと深夜であったので、閉店を待ちわびて“シェップ”青年を迎えに来たのだろう。  あとで思いだす度に恥じ入るばかりである。  時々“巣穴”で話題になったレコードを、帰りに黙ってそっと手渡してくれるようになった。  それがきまって“不思議の国のアリス”の“巣穴”の休みの前日であったことを知るのは、ずっと後のことである。  ミンガスを愛する目の澄明なN君が、ねずみ色のフードをすっぽり被り凍てつく長い夜道を歩いて遠くから来ることを知るのや、立派なもみ上げの口元に深い優しさを秘める、チャーリー・ヘイドン(≠デン)とかを粘り強く要求するKさんと 、会話をするようになるのはもう少し後の晩秋である。  星月夜にイブキ(ビャクシン)の黒い影の横に白く浮かぶ納屋!?の二階、二区画の東側にH君とその“…”友達が棲んでいた。  ある日、彼は、『今日、キース・ジャレットのコピーをやったら、バリエーションの方が上手くできてしまった……。』とか云っていた。  “…”友達のピアノがあったが、いつでも聴けると油断!?してて 、とうとう聴かずじまいであった。  いま想うと、……・ジャレットに心動かせなくなりかけて、いたのかもしれない!?。  その二部屋きりの部屋(今はもう無い)に押しかけて、深夜までロックを聴いたり、“……”をご馳走になったことも、その冬のような気がする。   のようにたくさんの、憂愁の燦たる落日の日々が流れた。  “巣穴”に置いてあったレコードのいくつかは、今ぼくの“ねこの棚”で休んでいる。

1997年1月15日水曜日

朝早く濃い緑の袋を持ち、幅広の布帯(?)を襷掛けにした鞄をパンパンにして、ステイションから電車に乗り込む。  漠とした敗北の予感なぞ皆無の、何かしら一点が新しい戦略をしっかり胸にしまって拠点に向かって出発するのだが、不思議と逃走の時のようなぞくぞくするヨロコビが憑いてくる。  そのうち 、忘れ物をしたような一点の憂愁は、きれいにかき消え、ゆっくり鼻に力漲らせてみたりする。  毎度のことである。 乗り換えの駅ビルの○○デパートで人波をかき分け“海苔”とか“カツオ!?”、“……”おにぎりとかいろいろを仕入れ る。  枝路に入り軒先を掠めてゴトゴト走り、小さな箱が終点で行き止まる。  ひきしまった、降りてきたばかりの新しい空気は幾筋の陽を浴び、靄が流され地面から沸き立つものが ある。  しだいに暖かさを増し始める。  形の整った樹木が、あちこちに誰かが“ポン”と置いたとしか思えない具合に配置された広場に、キラキラした一途な黄光が射し静機に活力を照射し する。  豊満な光輝をたっぷり受けて、動機がそこかしこで身震いを始める。  ぼくらも白い広場に長い影をに曳きそれに加わる。  その影に向かって挑戦的作戦を秘めてそれを既に展開しつつある実感を、足や手、頬を撫でる風で感じながら、動くふたつの点となってずんずん真新しい拡がりの奥深く侵攻 する。  格納庫のような灰色の大きな箱を左から回り込むと、天を突く濃い緑のはためく物が目に飛び込み、眩しい南方の海洋風景が出現し潮!?風が髪を撫でて歓迎してくれ る。  中央に段構造の真っ白のコンクリートの大きな箱と、張り出しの半円のステージの“野外劇場”があり、その北の背後と両翼は背の高い常緑樹が防風壁となって囲んでい る。  その野外劇場の正面の南側は遠浅のコバルト色の“巨大なホタテ貝の海”である。  キラキラさざ波の輝きの静穏が目に飛び込んでくる。  これらの眩い広大な突然の“旅体験”は、耳の後ろに漂い続けていた焦燥や憂愁を音を立てて氷解させ る。  思わず駆け出す。

1997年1月16日木曜日

白い石の広場は気が付かないほどの緩やかな斜面にさしかかり、砂漠の中でオアシスに辿り着く感慨でいっぱいになる。  左もしくは右回りで水際を歩いて野外劇場に向かうが、くらくらして距離感を見失う。  海は巨大な円であり、ゆっくりと世界が回転する。  拠点に到着すると正面から射すめくるめく沸騰する白黄が眩しい。  海の向こうの砂浜を行く人物が小さく見える。  腕ほどの太さのスチールのパイプが胸と膝の高さにバーとなって、舞台の両翼に光沢を放ち待ち受けている。  一カ所だけひと一人が擦り抜けられるようになっていて、海に降りるためのものだろう察しが付く。  舞台の前は、屹立する崖であり澱んだ植物生態の覆う冷たいもので充たされていて、近寄って見ると濃い青緑である、おそらく2mほどあるだろう。  鉄格子の奧は、更に深い緑であり何やら機械装置が沈んでいるらしい。  防風壁をよく観察すると見上げる所に、大豆よりちょっと大きい赤い実の房が幾つも、冬陽に光っているのに気付く。  濃い緑のなめし皮質の葉に艶があり、梢のあたりはざわざわと起きあがっていてニコニコ手を振っているように見え、冬であるのに元気な落ち着いた活動が ある。  たぶんモチノキだろう。  乾いたサラサラした光沢のシンメトリックな優雅な端正さの美しい微かに褐色がかった薄緑の葉っぱと、ほど良い空間を胸に抱きその葉の赤い付け根に、たくさんの小さな白い粉を噴いた濃紺の実がたくさん巣くって る。  これはヒメユズリハである。  その幹に沿って、くすんだ明るい褐色の指ほどの太さの蔓が、ところどころに何本も垂直に登っている。  この茂みに足を踏み入れると、たちまち四方からしっかりと絡みつく微かな樹のエーテルや、上から降りてくる無言の息づかいに圧倒され、身じろぎ する。  『ワーン……!。』とした爽快と畏怖が胸をよぎる。  コマドリが 、土色の枝の交錯する明るい茂みの“静かな対話の湧く”所から、渡って来そうである。  バーに寄りかかりロッドを振り下ろす。  緑に澱んで中は見えないが、ふつふつと悠々とした新しい息づかいでぎしぎし音がするように思える。  期待ではち切れそうになる。  両翼の奧の最深部に水車が間断なく飛沫を上げて河を作り続けている。  その音は抜けるような天に吸い込まれて聞こえない。  河は歪んだ円を大きく描き、先でふたつに割れてゆっくり環流している。  ホタテ貝のシェル扇の付け根の出っ張った所(変曲点)に環流が渦流を作る、水面に浮かんだ葉っぱなどをじっと観てるとそれが見え る。  バーの上に跨り頭を高くして遠くの流れを観察する。  その前方にフライをふわりと着水させる。  気持ちもできるだけ挑戦的・戦略的なピリピリする ようなものを排除し、穏やかに振る舞う。

1997年1月17日金曜日

“…”友達の話を聞くときの ように微睡むような表情での真剣さが大切なんや。  水に棲む友人は、ぼくらに見えないものが見える気がするからである。  一日に数本しか吸わないそのタバコに火を着けた瞬間、半日に数回しかない“衝突”があり竿をゆっくり引き込み、手を伸ばすまもなく、『ああ…っ! 。』沖に向かって進水するのを一部始終、その不幸な当人と会話をしながら見たことがあるもんで。(当人は、あっしじゃありません。)  ゆっくり流れる黄やオレンジの発砲スチロールのインジケーターが、止まったような気がする。  息を止めると同時に、バットを強く握り“クイッ!”と鋭く煽る。  黄が吸い込まれラインが姿を表し水を切り裂く、ロッドの先がぶるぶる奮えラインが引き出され る。  河の中で背の青い銀色が、水面を炸裂させて跳ね空を切り、頭を激しく振り鈎を外そうとする。  昨夜、高圧酸素の密室に揺られて、山奥の故郷からここに来たばかりの彼もしくは彼女は、不躾な力の歓迎に怒ってい る。  虚無の充実でひとつの円が完成する、世界が優しく沸き上がる。  ギラギラの照り返しで顔がヒリヒリする。  バーに跨り足を組んで立ち上がり右手でロッドを振り、ふたつに割れてゆっくり環流しているあたりに侵攻 する。  太股のジーンズに押しつけられ水気を吸い取られ身震いする指先から生まれた、無言の幼虫がふんわり水面に降りちょっと間をおいて見えなくなる。  流れで大きSく孤を描くラインを左手で手繰る、幼虫が水底で『食べちゃいや!、……いや!』と云ってるかな!?。  でっちゅう(=熱中)し子供になってるので、インジケーターの微かな動きの変化の瞬間に、恣意が閃くより先に“ドキッ!”とするので右腕を咄嗟に後ろに思いっきり煽 る。  銀色の王はわ0.1秒以下の反射でにせものの幼虫を吐き出す。  空を切ってラインが飛んで来る、これは止められない、頭上を伸びて後ろのモチノキにフライが刺さ る。

1997年1月18日土曜日

当時は、未だ“格闘バレエ通信講座”を受講する遙か前の、アクセルとブレーキを常に懐に忍ばせ定めた目的に一心に直進する鋭い目つきの侵略者を恥じない、有り余る時間を持つ頃であっ た。  動物の衝動のぶつかり合いである釣りの感動のみを信奉しその探求に耽り、“穏やかになることを学ぶ”気持ちが起こるはずもなかった。  “…からだと心のコントロール…”を忘れていた…!。    10時間近く立ち続けたじんじんする足を引きずり、パチパチ弾ける野生を充電して棲み家に帰還し。  静謐の暗闇に“パッ!”と広がる明かりに投げ捨てた汗くさい、後部に鍔のある薄土色のキャップに見覚えのあるフライが撫でつけられたまますっかり乾いて刺さっているのを発見することも ある。  陽が傾く灰色の光が侵食するまで没頭する。  人影がなくなった渚を伝ってふたつの点となって引き揚げる、バキバキする嬉しい疲れが足から這い上がる。  唇はかさかさ、頭のなかは『ゴォ…』と風が吹き荒れた後のように華麗な黄昏がゆっくり錘の ように降りていく。  その夜、空中の河を丸木船で“タプ!、タプ!”たゆたい航海する黄泉の国で汗をかく。  何年も前のことだが、気まぐれな南風がさざ波を起こしその風に乗ってフライを遠くまで運び、見えなくなりそうなインジケーターに眼を凝らして拠点を集中的に攻略。   夢の ようなヒットをしたことや、灰色の大きな箱を左から回り込むと白い石の平原の中にパッと突然出現する眩しいキラキラの海は、いっこうに色褪せない。  時として松林の向こうにその“白い野外劇場”が出現することがあり。  そんな朝はほくほくと、しあわせである。  “ねこつん”は、ムロアジの皮と骨を『バリバリ』音を起て、『ムガオ、ムガオ、……』云いながらすっかり食べた。  よろしい!。

1997年2月12日水曜日 

深い渓を見下ろしゆっくり左手に曲がる。  『ガタンッ!、ゴトンッ!、…!、…!』冷徹とふすぼった欲情を地面に打ち付ける。  よりしっかりと、そして深く、倦まず打ち込む。   不規則な周期性のある振動と音、ぼくらを麻酔し睡の淵に寄せる。  深く切り込んだ渓に木魂する機械音、放たれた途端に脈打ち情念を推し進める。  細長い箱を幾つも連ね、山林をかきわけ縫って推進する。   グングン遠慮なく迫り車窓を掠め風を呼ぶ、みるみる後方に流れる寡黙な痩身の杉群。  流れる杉林のスクリーンに透け、寡黙に必至に追い駆けてくる向こう岸の木立。   遙か下さざ波の銀色をキラキラ反射させ朝靄を沸き起こす。  サラサラと風を誘いながら、渓底に貼り付きながら、寡黙に連鎖を続ける蒼い敷布のような流れ。  石の橋から見下ろすと、蒼い帯が白い砂や砂礫に浸み込まず、ゆっくり縫って行く。   しかし推進のエンジンなどの動きは感じられず、その形は見えない、心地良く惰眠を貪っているようである。  渓底から『ワハハッ、……!』と、歓笑が登ってきそうである。   ゆっくり蛇行する河の北側の急斜面の高いとこ、冷暗の杉林を縫って橙の電車がするすると走っている。  いつもの駅に近づくと、そわそわ落ち着きがなくなる。  電車から押し出され、明るく広々とした渓に向かって、急な石段を転げ落ちる。   くすんだアクアマリンがゆっくり動いているいるように見える。  冷ややかな苔むした岩を、川面に映し蒼く鷹揚である。  頬を撫でる風がさらにヒンヤリと、首筋から背中に入り込む。   あちこちで瀬波がはしゃぎ空を引っ掻き、叩きさまざまな音を弛まず起こす。  すぐさま苔むした岩肌や、両岸からびっしり覆い被さる樹木に吸い込まれる。  “潮騒”を聴きながら、杉林の中を縫って侵攻する。   河に沿って水際に小径が造られている。  始めは崖が迫っている、高い位置の木立のトンネルの中を歩く。  両緑の岩盤に覆われた長壁の足下を、ゆっくり揺るぎない眼に感じられない圧倒的な力で推進する。   白熱の中で不動の静寂に落ち込む。  脳天から陽が刺す夏だと、いつもの切り立った危険な崖の岩盤にずっと立つ男がいる。  そのまま水中に屹立する深緑青の淵に向かって、長い竿を真っ直ぐ下に下ろしている上半身裸の痩身がいる。   おそらく安全な澱みに集まり乱舞する、鮎を狙っているのである。  暫く歩くと急に河原が広くなり、背丈ほどの石がごろごろするあたりに出る。  よく見ると砂礫がほとんどである。   白い山砂が夥しくあたりに侵攻している所に出る。  遊歩道!?にまで溢れている、なぜ!?。  おそらく台風などの洪水ほどの出水で上流から流され、川幅の開けたあたりで流速を落とし沈下させたのだろう。   初めて山の中でサラサラの砂を踏み締めて歩くときは、『おおっ!』思わず声を上げてしまう解放された気持ちにしてくれます。

1997年2月13日木曜日

ヤマメを追って落盤の危険が大きく口を開ける急な崖を幾つもよじ登って深山に分け入る。  頭上に覆い被さる樹木の下を身を屈めて渓流の中を歩いて遡上。  不思議な足下の感触を感じ何だろうとふと見た時に、細かい白や明るい薄茶のサラサラの砂に足がすっかり潜り込んくる。    くすぐったいような『ほう!、ほう!、こんな砂が!?』と感心する。  この夢のような経験は、きっといつまでも残り、ねこの来ない夜更けに開いた本と憂愁の視線の間に、笹をそよがす囁きとともにキラキラの青や銀、ぬめりの緑の光輝で浮かび、常に決まった光景を甦らせる。   この光景はいつの場合でも不思議と変わることがないし、飛躍とか展開、細部への沈潜が不可能である。  どんどん遡上し夥しい樹木と岩、透明な岩清水の大小の滝を乗り越えて行く。   左に曲がったとたん、黒い岩盤が両側にそびえ、天を仰ぐと空が蒼い川となって見える拠点に迷い込む!?。  清潔な淡いけれど華やかな、澄み切った幾筋もの日光が渓間に漲り、明るい林にひめやかな生気に溢れた苔の匂い。   この一年間に体内に集積した酸が抜け出す。  明るい空の下の息苦しい程の植生の猛茂、静穏に圧倒される。  微かな風の音が『かさこそ』聞こえるばかりで、『シーン……!』とした森のそれとも黒い岩盤のそれともつかぬものに、心が奪われ体を捕まれ動けなくなる。   肉体も奥深いはずの気持ちの在処も真っ新に浄化され、新しい知覚が研ぎ澄まされパチパチ弾ける。  仙人がすぐそこに現れても動じないだろう。  足下を覆い、『ズズッ!、……!』と靴が潜り込む感触は、脳裏に不思議な感触と"秩序ある無秩序により、救済される主題"を感じさせるものである。   背丈程の砂岩!?や花崗岩がごろごろ転がっている中を歩く。  清潔に仮死の刹那を弛まず集積している石たちは、晴れた天を瞬きせず凝視し続ける。  全てにひそやかだが、全身的な歓びが満ちている。   巨岩に体を預けると手で感じる感触は冷やかである。  それが反射するものはそのまま自分である、自らの生体波動がそよぐのを認識する。  狂おしい生の氾濫に翻弄される自分が見える。   荒地願望が呑み込まれてしまい、足下がおぼつかずよろよろと前へ踏みだし進む。  巨岩が発する不思議なおっとりした渇いた大らかさが体を抜け、“ぼうっ…”とする。   薄暗いスギや檜の樹体のひしめくあたりから降りてくる、笹をそよがす優しい樹風で目が覚める。  白い砂礫の隙間から囁く瀬音の楽興が、ひときわ大きく感じられる。   漂白の影となって、彼方まで連続するゴロタ石の覆う歩きにくい原を漂う。  引き裂かれた渓から『バシャ!、バシャ!』活発に清水が本流に注いでいるあたりから奧を覗き込む。   『ザワ・ザワッ!……』岩や草木が一斉にこちらを振り向く。  木陰の羊歯の繁茂する糸蜻蛉の休んでいるあたりから、しなやかな肢体の黒い影男が走り抜けそうである。    四方から見えない力で解体される。  天は以外に明るく奧に進むと更に明るくなる予感が襲う。

1997年2月14日金曜日

朝、5時に寝床から“ガバッ”と脱出し、ウエストバッグを開き、仕掛けなどを確かめ準備を整える。  ドアが開き、見覚えのある無精髭・KWさんが近づき、煙草臭い低い声でぶっきらぼうに『おぅ…*、行くぞっ!』という。   いつも、不機嫌と快活、突き抜けた大らかさが混沌としている。  煙草を吸わない僕にとっては、親父を想い出す匂いで、たちまち寛ぎを覚え安堵する。  釣行の緊張感さえも、どこかに行ってしまう。   行く先を教えられぬまま、ドリンク剤を渡される。  朝ボラケの中、ラジオを聴きながらどんどん西に向かう。  いつもの辺りできっと朝陽がサッと射し込み空が色づく。   寝起きの頭が次第に澄明になり、超越的意欲に満ちてくる。  不思議となんの根拠もなく、今日は釣れる!と言う想いが頭をもたげる。  未だ渓の様相でない、開けた河に止まりスタスタと河原に降りる。   小さなタモを取り出し、大石を次々にめくり川虫を掴まえる。  『少ない!、採られた後だ!。』と吐き捨てるように言う。  再びどんどん西に向かう、軒先を掠めとても狭い山道を行く。   やや開けた辺りに着き、虫除けをシュッ!とやられ、山蛭やブヨの注意を聴かされる。  とても冷たい渓に入り込み、驚く程のスピードで歩く。  先行しつつどんどん竿を伸ばす。   後からついていき、澱みや落ち込み、岩陰を攻める。  次第に深山幽谷 の様相を呈し、蜘蛛の巣やとても滑る苔生した岩が続出する。  土砂ですっかり埋まってしまい、その機能を失った堰堤を幾つも迂回し、岩山の木の枝に掴まりよじ登り、明るい開けた広場が出現する。    俄に赤土色の水に変わる、上流で工事をしているらしい。  『おやっ…!』と驚いたり、ささやかな飛沫に虹の架かる滝壺が、すっかり静かであり、生態反応がないことに慣れっこになっていった。   白くてさらさら滑りやすい石を大股でピョンピョン渡り、ゆらゆら青や緑、紫、銀をそよがせる豊饒の光輝の連続。  気持ちも心も 、かさついた脳髄も“パチパチ”帯電し、ずんずん真っ新になってあたりの新緑に融けていった。  背丈の数倍もある岩がごろごろしていて、滑りやすい川の中を山登りする。   『先行の友人が先ほどからずいぶん尺近いイワナを上げている、羨ましく思いながらやっと追いつき魚籠を見せて貰ったら空だった。  何故だ!?……。  あろうことか奴は、食っていたんだ!。』そんな話を交わした。   青く澱む淵に出くわし、足場の殆どない垂直のざらざらした岩肌の20mの壁を見上げ、『この崖を登る。  心配ない!……』と言われた。  躊躇しているとKWさんは蜘蛛のように岩に貼り付き慎重に登ってしまい、上のほうで手を振っている。   『……無理や、……ん!』と叫ぶ。  結局友人は、下りは危険なので大回りしながら下り、入渓場所に近いところまで戻り、遭遇できたことがある。  落胆した彼は、ひとこと『情けない!。』と吐き捨てた。   それから蜘蛛男は、渓流用の地図を手放さなくなり、色鉛筆で道なき沢に制覇した道をどんどん描き込み、休みの度にそれを増やしていった。  時々様子を聞いてみると、ザイルでしか降りられない所しか攻めないとか。   腰の牛革の鞘に入れてぶら下げる山鉈を鍛冶屋で造らせたとか、味噌と米をしっかり持って朝日川連峰へ行く!?……とか 、とんでもなく凄いことを言うようになった。  これまでのように、一緒に山へ行くことは、無くなってしまった。

1997年2月15日土曜日

それより何年か前の、ある厳寒の日、『魚らしい魚を釣る(ように…と…から強い要請!?を受けた)、それは“黒鯛”に決まってる』。  などと嬉しいことを宣いつつ江ノ島に向かって朝早く南下し た。  その頃は、やっこさんは未だメゴチとアナゴしか釣ったことがないのだった。  暫くしてコノシロを釣ったと聴かされたりもした。  (近海ものが自慢の鮨ネタばっか!。 )島の西側の磯の岩の上に跨りじっと夜まで粘って、ゴンズイが釣れた。  みそ汁にして食ったら、旨かったらしい。  後で図鑑を見て死んでもなお強力な、大人を悶絶させる痺れの毒バリがあることや魚名を知り、『オレは、悪運が強いんや!』と支離滅裂なことをのたまっ た。  またある日、夜風があまりに寒く、更に右の長靴の中が濡れていてゾクゾクし始めたので、夜の部を始めて1時間も経たないうちに『……もう帰ろう…。  潮が…だめや!』と頼んだが、『黒鯛を釣るんや!、それまでわ……』と、頑として譲らない。  黙って釣り用の長靴、ぱんぱんの防寒具を着込んだまま、泣きながら窓に顔を押しつけて電車(モノレール)で帰って来てしまっ た。  翌日、夜ドアをドンドン強く叩く者があり、不安を抱えながら顔を出すと『いるか〜……!?。  だ〜〜め、だよぉ〜………、黙って帰ったら……!。』と、陽に焼けた無精ひげでどかどか入り込み、笑顔で車中に置き去りにした釣り道具やらを 、部屋に放り込んでくれ た。  『……!』

1997年2月16日日曜日

南岸の杉林のなかの上り下りのある小径を、スギの落ち葉の匂いを吸いながら鞄を肩に懸けロッド持って走り抜ける。  ライセンスを獲得して取って返し、『はぁ!、はぁ!』つんのめりそうになりながら林の中を走 る。  水面から3m程の岩がせり出した頂上に跨り、『ヒョイッ!』とフライをフワリとできるだけ上流に着水させる。  垂直の岩盤はそのまま水中に没し、最深の淵の水道となって流速と水量を誇ってい る。  人影から最も離れているため、走るアクアマリンの中に黒い影が居座ったり、閃光のように駆けめぐっている。  少し下流のカーブするあたりに岩盤がえぐれていて 、流速の中に一畳半ほどの大きな丸い石が、水没し少し頭を出している。  その石の下流の渦巻きの中に、何かの小魚が無数にわらわらと流れのまま漂っている。  その中に黒い背や銀の腹を時々“キラッ!”と輝かせて乱舞しているものたちがい る。  試しにフライやルアーを投じてみる、初回は追っかけてくるが、それっきりである、しだいに興味!?を捨ててしまう。  だから試しでなく真剣に挑まなければならない。  ”自然に試しはけっして無い”、ことに気付く。  フライがちょうど真下にさしかかるころ、オレンジの発砲スチロールのインジケーターがちょっと止まったように感じられる。  ロッドを鋭く程良く煽る(決して煽り過ぎぬこと、ティペットが切れたり のように上唇に鈎を刺したままその仲間の所に返すはめになるから、さらに後ろの木の枝に刺さったり、銀色のピチピチ踊るやつを空高く放り投げたりして不躾だから。 )これは、言うは 易すく行い難しなんだ。  どの釣り人も皆本物であるほど、瞬時にアドレナリンがピュッ!と射出される特性を持っている、しかも電光石火の正確さだ。  従ってこれが身に付いた頃は、衰え始めたことでもあり、第一考えながら脊髄の反射で動くなんて矛盾だから……。  川底に居座る黒い弾丸が自分であると感じられたら 、きっと自然と身に付くな。  たちどころにラインが一直線に走り出す、ロッドがゴンゴン軋む。  胸が押しつけられ喉元が収縮する。  世界が消える。  やっと遊離した心気持ちと体が元に戻り、ティペットが岩でこすれて切れるのではないか!?……、心配でドキドキ する。  岩肌を掠めて疾走する流速と夥しい質量のアクアマリンと一体となった黒い弾丸は、重い潜水艦である。  時として川底をゆっくりと上流に向かいそのまま直進しいっさいの反射も挨拶もなく、冷徹に尻尾をヒラヒラさせ捕捉から消えることも ある。  張りつめた糸と気持ちは、“ふっと!”解放されきみの顔はちょっと暗く歪み、安堵もする。

1997年2月17日月曜日

しかし誰もいなくなった河原をトボトボ帰る頃、わきたつ思惟は戯れるのも系統だったのもことごとく体内に蓄積され、いつしかこれでよかったんだと感じ、新しい充実の予感を貰った気分で満たされ る。  全身がジンジンする快い疲労に満たされて、白いゴロタ石を横眼で眺めつつ川に沿って心は晴れて、夕闇が降りる新しい期待がもぞもぞする時刻を見捨てて、ひたすら真新しい過去に満たされて帰還 する。  淡くてキラキラした夕方の散歩のため活字から離れ、麦畑の近くを通りかかり、“生き物”の視線を感じて振り返ると、見覚えのある丸顔にコロコロした丸太をくっつけたような姿の小動物が膝をまげずに!?、すたすた歩いているのに出くわす。  ぼくを認めてちょっと立ち止まる。  『(どうかしたのっ)!?……』とすっくと四肢を伸ばしきり、首だけを回転させて一瞥を呉れるだけである。  一切の媚びを排し気まぐれな自己を保ったまま 、近所の散策にもどり脇目もふらず、旅をまっとう する。  徹底して表情を崩さない一瞬である不動の凝視だが、脳裏の奧のほうで”鐘が鳴るような期待”が芽生える。  いつであれ不思議と励まされることに違いはない。  数歩歩いてその”鐘”がずっと地面に近い空気を吸ってる、両手でふわっと支えられる温かいものとの、発作的感傷の端極にある浄白の対等な遭遇であったことに気づく。  窓の下の茂みでムロアジの頭をくわえ、伏せ眼で見上げ首を縮めて『ウウ〜ッ!、ウ……!』唸っているだりかとわ、やはり別”人”に思えるんっ!。

1997年4月28日月曜日 

ぽってりした、やや”∫”の弓の形に反った鞘の縦の縫い目に起てた爪に力を込めて縦に押し開く。 剥いてみると、白い綿のようなシェル!?に包まれた、額の張った賢そうな、背中が独特に窪んだお尻が丸いシンメトリックを拒絶した青 匂い薄緑がこぼれ る。  『ポンッ!……。』と真ん中から手折ることが出来なかった。  成熟しすぎたため鞘の繊維が強くなったためだろうか!?、あるいはもぎ取ってから時が経ち水分が蒸発したためだろうか!?。  あっという間に茹であがる、短時間なので茹であげる頃合いが難しい。  ホクホク、ポロポロの後に、微かにザラッ!?とした余韻を曳く。  そら豆は誰かの顔を想い出させる、きっと何人かで ある。  眩しい眼差しでちょっと首を傾いで”キッ…!”と空を渡るような遠い緑の風音を想わせる視線を返す”ローラ”や、カモシカのように素早い”遙くらら”、……などを想う、お城に棲むってどんなもんだろう!?。    気紛れな南風が吹き始めネコ柳が新芽を膨らまし、宵闇の片隅でネコ達が騒ぎ始め、あたりに緑が侵食を始める頃、にわかに活動を開始するものがある。  ヒシモ(菱藻)が池の水面を覆い具合が悪いので、前の日の夕方に出掛けて竹竿を延ばして水中の蔓を鎌で切り取り、池の真ん中あたりに”着水ポイント”を作っておく。  しかしこんな念の入った準備は希で、神社の裏に回り竹竿の替わりを探し出し、いまいましいヒシモを片側に寄せておく。  褐色の丸い玉が密集する蔓のあちこちに散らす異星の生物の様相のこのヒシの実は熟して堅くなり、枯れてしまっても踏んづけるものを突き破 る。  道端に誰かが投げ捨てたりすると、自転車などのタイヤに食い込み侵攻することや、ゴムボートを浸水、沈没の危機に誘い込む牙であることは、ずっと後で知った。  これは、鬱とした大木が天を衝く○○神社の池にびっしり繁茂している。  池の喉のあたりはびっしりと菖蒲が繁茂しており、足場がなく近づくことができない。  そのほのかに朱がさす水中茎から、白いゆらゆらたなびく根が降りていて、青と赤茶の2種の藻エビや小さいビーズ目玉を見開いた青灰の鯰、棘の歯を隠した暗鬱の目玉が油断のならない鰻が棲んでいるに違いない。  

1997年4月29日火曜日 

ひめやかだけれども鮮やかな後頭部を擽る苔の匂いで、体に溜まった澱が溶解し霧散する。  『ドボンッ…!』静寂を脅かす挨拶に振り向くと、紫の光輝が水面を揺らしてい る。  イタチだろうか?!。  この池の上に楠やモチノキの太い幹がほとんど水平に伸びていて、犇めきあって緑のほかに褐色や赤、黄の葉の枝を四方いっぱいに広げてい る。  その上を大木が天を覆いやや薄暗い気持ちのいい背中がヒンヤリする木陰を作っている。  腹這いになってよじ登ると池の中央に達することが出来る。  下方には、紫の野球帽の引きつった顔と太股が剥き出しの男の子が大木の向こうに隠れてこちらをじっと見てい る。  頭上がサワサワ囁き、黒いアゲハチョウがゆっくり流れていくと、鏡が消え褐色の深淵とそのしがみついた足が交互に表れる。  フワッと降下すれば、刹那の天上の歓喜を潜り抜けられ そうな想いで気持ちが満たされ る。  前に進めなくなって蝉になる。  『……ЖФ¢!?』世界がくるっと回転する。  おびただしい、赤や茶、黄の葉っぱが沈んでいる。  不安とゾクゾクする気持ちで 、心は半ば以上気化してしまい大木になった感慨が襲う。  何本か種類の異なる大木が同じように水面から3〜5mに幹を倒している。  みんながセミやカナブンなどを採ったり木の実を取りによじ登るので、下の方は暗褐色でテカテカになり滑りやすくなってい る。  ほぼ斜めによじ登っていると、両手に体重を預けた時、新しい不思議な『ブルッ!!?』とする歓喜が股の芯のあたりから脳髄に駆け上がるのを覚えた。  それが何であるのか分かるのは、それから何年も経った夏の夜のことで ある。  木登りがにわかに難しく感じられ、不思議であった。  南側が鬱蒼なる大木に覆われていて、つらい炎天での救済の場所である。  小さい頃、使われなくなった山車!?の材木で 、船を作ることに夢中であった兄に連れられて、頻繁に出掛けたことが ある。  ほとんど筏のようなものや、田舟のようなものであったと思うが、その形が思い出させない。  ゙沈没の怖れで頭の中はいっぱいで、楽しかったはずの記憶が辿れないのが無念で ある。  『……いくぞ!。』この声を楽しみに待っていた。  確か池の真ん中にさしかかるあたりで、本当に沈没してしまったため、”危険な遊び”が終わったような気もする。

1997年4月30日水曜日 

レンゲの白やピンク、紫が一斉に出現する畦道を辿り、柳の小さな黄色い花の灌木が倒れ込んでいる対岸に陣を取る。  岸は未だ手つかずである。 田植えの頃には、泥がすくい上げられ杭が新たに打たれ、板で岸が補強され、しばらくは泥の匂いでいっぱいになる。  ムッとする匂いは、嫌らしいものであり、したたかにメタンを含んでいるようだった。  慣れ親しんだものが持つ懐かしさと、安堵・充実もあった。  その頃、彼らはどんどん上流に遡ったり、浅場に出掛けてしまっており、僕らの戦略ははなはだ難しく・乏しい限りであった。  獲物が方々に・てんでに散らばってしまったから、”ヤマ”の起てられない大海の一本釣りの如く、非能率的になってしまい、"解散"となる。  もっとも別の作戦が始まるのだが……。  それまで毒ゼリや木賊が繁茂し冬を過ごし、白や黄の花を開いた灌川(=漑揚水)の遙か上流から、いっきに薄灰碧の水が流れ込み始める。  勢いも無遠慮に勝手に速くなちっまうと、手網でドジョウや鮒、金鮒、ナマズの子を採ることは、困難になる。  朝早く、釣り竿を担いで一目さんに侵攻する。  草の上に座り、”ヒシ”の切れ目に仕掛けを投入する。  すぐに小さな赤い玉浮子が”ピク!、ピク!”波紋を送り始める。  不安と期待で竿をしゃくる、『ブル!ブル!、……!、……!』竿先が引き込まれる。  『かかったっ!』  力を込めて竿を大きく煽り、引っ張り上げ後ろのレンゲの花畑に落とす。  真鮒が口から血を流し、バタバタ身悶えする、金環の目を見開いている。  今度は、玉浮子がスー!と水平に移動し、ズイッ!と引き込まれ見えなくなった。  『……ンッ!?』竹竿を握る手に力を込め、ひどく重い何か、クネクネするものを引き寄せる。  60cm程のウナギであった。  心臓が『ドッカン!、ドッカン!』弾む、手元が震える。  逃げまどうやつをやっと籠に押し込め、蕗の葉っぱで蓋をして急いで帰った。  洗濯用の金タライに放ち、膨らんだ鰓で呼吸するビーズのような小さな目玉や灰緑がかった横腹、ブルブル・ヌメヌメした尾を飽きずに夕方まで眺めた。  食べたかどうか!?は、思い出せない。  生き物が放つ畏怖に襲われ、裏の川に運んだような気もする。  翌日もまたその翌日も夢のような釣りができた。  このミツバチの羽音と、雲雀のスクランブル音楽のほか何も聞こえない。  広々した田圃のまっただ中、僕らの秘密の楽園は、田植えの準備のため、池の浚渫が始まり様相が変貌する。  緑に澄んでいて、ミズスマシやゲンゴロウ、メダカたちの棲みかであった池の水は、薄く灰色に濁り波紋がない、菖蒲の根っこの切れっ端が風で吹き寄せられ、さざ波にたゆたってい る。  地下茎に近い部分の白く薄いピンクが放つ、後頭部を痺れさせる縞のような匂いが風で流れる。  激しく大気が変容する、最強の紫外線とそれを受信する葉緑体が狂おしく喘ぐ。  挑戦的な意志力に満ちた、浄潔の熱病の無音の囁きの中で、太陽光は乱舞跳躍で満ち渡り、空は高く輝いている。  果てしない草の海の向こうに、緑や碧の丘や山が背をもたげ、ゆったりと波打ち、霞が沸き立ち、広大な静寂が立ちこめている。  呆けたような空の碧に漲る田園の朗らかさで足下が危うい。  高い天空を渡る遠い風音と、暖かい微風に和んで、心はそぞろ・気持ちは狂おしい動揺にせかされる。  明朗な空虚が静謐に響きわたる。  西方に聳える碧の山懐に、まっすぐ急ぎたい内なる囁きにそそのかされる。  時々ずっと向こうの方から緑の麦風が渡って来て、青匂い手のひらで頬を優しくなでる。  試しに釣り糸を垂れてみるが、浮子はピクリ!ともしない。

1997年5月1日木曜日

なんだか重くてネバネバした南風が、遥かな地平の彼方から倦まずやってくる。  暖かい風は、強弱や偶のため息のような休みを伴いながら、南東方向の遙か緑の森や黒い家並みの方からやってくる。  稲穂の大海を大きくうねり・波打ち、『ドォ……ッ!、……』と渡って来る白昼、気持ちは所在なく惰眠を貪る。  心は白く焼けた地面で 、狂おしい衝動を喚起し跳躍したがる。  とりわけ、早朝や夕立の通り過ぎた黄昏のひと時、壮大な光景に包まれ否応なく心が開け喝采。  雲は沈痛な壮烈さを満たし 聳える、金や赤紫、突き抜けたコバルトなどに輝き、光輝が原色の影を投げる。  小川に歌が湧き、羽虫が深くしっかりと優しく管を差し入れ、暫し打ち震える、剥き出しの天晴れな交尾。  野ネズミが草のトンネルを素早く駆け抜ける。  徹底的な生の氾濫と展開であるが、ありふれた夕暮れでもある。  超越的意欲を秘めて待ち続けていたが、まさにその雷鳴の尾がこだまし退散したと感じた一瞬に出陣する。  潅川が南から北に走っている、四季を通じてたっぷりの水量、速さを保っている。  雨の後など、上流の山に激しい降雨があった翌日などは特に、薄灰碧の薄く濁った水を道路に溢れさせている。  これの源流!?を訪れたことが一度ある。  幼少の頃、春先だったと思う、朝早く弁当を携え竿を自転車に括り付け、親父と大きなNK川へ出かけた。   なんの前触れもない突然のことであった、今もってそのいきさつ・動機は解らない。  アーチがいくつもある長い橋を渡り、南岸の堤を西に遡った。  流れの横腹を突く形で岸からズイッ !と石積みの山が延びている。  初めて見る珍しい護岸方法である、砂州の流出を妨げるために海岸に突きだしている、テトラの提と同じ形である。  体ほどのゴロゴロ石の斜面を這うように川岸に降りた。  糠を炒ったものに赤土を混ぜて団子を作り、これは!、と思う淀みに投げ入れ魚を集める。  長い竿は重く、キラキラの照り返しで目が痛い。  朝ついたヨモギ餅を食べ、半日がんばったが一匹も釣れなかった。  二人は多くを語らなかった、何を話したか想い出せない。  砂利採取のためだろうか、流れは薄灰色を帯びた不機嫌な碧であった。  魚影を観ることは一度もなかった。  その下を直交する形で小川が走っている。  これの源流を観たとき、とても驚いた、失望に近い感じであった。  そのまま蛇の尻尾のように田んぼと一体となり、減形していた。  この小川は澄みきっており、緑の澄んだ水を満々と湛え、生態反応に満ちていた。  秋になると水量が減り手網で小魚を追うのに好都合であった。  小鮒や泥鰌、イモリ、ザリガニが網に入った、藻海老がビョン!ビョン!跳ねた。   この藻エビは、黒と銀!?、赤!?があったように記憶!?、いずれにせよ少なくとも2種類あった。  竹籠に大鋸屑と一緒にに入れ、持って行くスタイル。  竹籠は長方形、お重箱風に4段ほど重ねるスタイル、最上段は板蓋。  きっと黒鯛釣りに使ったのだろう。  この藻エビを採るためのタモが裏の納屋に立てかけてあった。  鋳鉄風のしっかりした大きな金枠、太くて長い柄、小川で僕らが用いる網とは格が違った。  きっと日頃届かない深みや柳の木の下、えぐれた絶好の住み処に易々と届くに違いない。  最も子供には重くて使える代物ではなかった。  滴で濡れたアーチにキラ !キラ!の金や青の光輝を放射しながら、滔々とたっぷりとゆったりと流れる。   そっと覗くと、赤茶けた砂礫の川底や、澄んだ水が捩れながらゆっくりと流れているのが見えた。  サッ!…*と、目にも留まらぬ速さで、魚影が暗い奥に走った。  きっとシマドジョウ、小鮒だろう。  なんだかとてつもない大物が潜んでいて、頭を出してやしないか!?、到着すると、真っ先にに覗き込むが習慣だった。  トンネルの壁には藻に覆われた田螺が、食指!?を伸ばしていた。  アーチから垂れる止めどない滴は、さまざまな楽響をトンネルに響かせる。  単純な列の気紛れを果てしなく継続し、ドームの反響で余韻と和声を簡単に創る。   その響きで波紋や光輝が揺れるような錯覚を覚える。  あちこちで波紋を湧きたたせ、捩れ次々に渦を生成し飲み込みゆっくり押し流す。  その大蛇は紫にけぶる山懐に吸い込まれる。

1997年5月2日金曜日

屋根付き塀の潜り戸の脇に、大きなコンクリート管が立て掛けてあり、五三竹が生えている。   太くて真っ直ぐな槙の木があり、よく手入れされたきれいな枝を伸ばしていた。  梨の木があったが、数年ほどで切られた。  春先に頼りないヒョロヒョロした筍が突然出現する、 梅雨の頃きれいな緑の幹、しなやかな枝を伸ばす。  毎年、秋に全部り刈り取り、結わえて裏の軒下に保存する。  根本 に近い部分は、節と節の間隔が短く、やや太い。  自然の産物であるから、どれも同じに見えて、ひとつとして同じものがない。  ひとつひとつ吟味しつつ感心する。  当時は、そうは想わなかったが、実に頼もしい贅沢 やもしれぬ。  フライロッドは、8フィート、”黒鯛のかかり釣り”竿やヘラブナ竿は8尺、いずれも2.4m程 が一番使いやすく、長竿を経てたいていこの長さに行き着く。  8尺あるいは8feetは和洋、今昔を越え腕の延長となり、糸を自在に飛翔・励起・励振・引導するに絶妙の長さ。   心と身体にバランスのいい運動を提供する。  これは自然の摂理!?。  フライロッドの場合、この長さだと総重量などにもよるが、総じて腕の撓りで発した横波動は自己の固有振動波長より長く、反射波が還って来ることがない。   従って重さ、鋼性との折り合いが無用であり、振り続けても腕を痛める心配がない。  憂うべきは、皆が魚を追跡し過ぎたため”沖合い”に退いてしまい、遠く に止まるようになってしまっていること。  不本意な”下手の長竿”に甘んじる羽目になったばかりか、軽いことしか自慢できるポイントがないカタログを、眺めさせられる 味気なさ。  黒鯛の懸かり釣りや、フライロッド、へらブナ竿などことごとく、最も感興を感じられるこの長さに落ち着いた。  縄で縛って軒下にぶら下げた束から、これはと 思うやつを引っこ抜き、枝をきれいに払い、尖った処はヤスリで滑らかに。  一本の極上の正宗ができた!、もちろん当時はそうは想わない、密かに釣り竿になる種類の竹が、庭に生えるのが嬉し かっただけ。

1997年5月3日土曜日

川幅6mほどの農業用水・ クリークでは長すぎる竿は、甚だ操作に難儀するのである。  ほどよい長さ、偶然であった。  砂利道に長い影を曳き侵攻し、田圃の”物の怪”の許に馳せ参じる。  ”MCIA”御用達の”極細のゾクゾクするプリプリ、ムッチリのみみず”、この作戦では、役不足であるばかりか 、外道が取りつくので有害ですらある。  3本の轍を覆う農道!?の田圃側の端にバイシュクルを停める。  雨の後の土は柔らかく、バイシュクルはすぐ倒れる。  荷台の大きなのに乗かって田の見回り(主に病気や潅漑状況を視る)に付いて行くのが日課だった頃、『じっとしてるんや!』と言われ放置されたことがある。   荷台に跨り開脚してる脚がどうも痛いと確信し、もぞもぞし始め、スタンドが土に潜り傾き始め降りようにも降りられなくなり、ついに一心に念じた効果は 奏することなく、ゆっくと水田の泥に倒れ込んでしまった。  稲が倒れた跡を見て心が傷んだが双方とも何も申さず、なぜか田圃に隣接している、○槻医院に運び込まれた。   周囲をザラザラの小石を一面に吹き付けたコンクルー柱と、手入れの行き届いた大きな檜数本でぐるり囲み、緩やかな傾斜の門を入ると、見事な蘇鉄が植わっており、屋根に換気用の小屋のようなものがあった。  消毒薬の匂いがツンツンする、ヒンヤリする皮張りのベンチに横たわった。  しかし○槻医院など呼んだことは、殆ど無かったのによく想い出したものだ。  畏敬を込めて”藪(さん)”とよび東方の遠くの贔屓の”村○”さんが休みの時しか行かなかったのだ。  しかし掛かってみるとどちらも冷たい感じで 、夏でも使わない火鉢を引っ込めてなかった。

1997年5月4日日曜日

夏、件のアーチで妙なる響きを奏でていた豊饒のクリークは、水かさを増し滔々と流れその速さを増し ている。  上段のささ濁りの握った灰青が溢れ出し、道路を水浸しにしている。  アーチから垂れていた雫は流れと変容し、さらにトンネルは水没している。  はち切れんばかりの静謐な、したたかな生体反応で満ちあふれる波動に満ち、絢爛たるさざめきが溢れている。  それは、岸辺の草や灌木に蜘蛛が鷹揚に網を巡らせたり、バシャ!とモグラ!?が落ちたりする水音や、鷭が稲元のトンネルを駆けるらしき足音や擦れ音で分かる(ほんまか!?)。  鷭の卵は、野良仕事から持ち帰っ て来たのを、一度!?食べたことがある。   夕陽を映し金色に光る流れに、唐辛子浮子を投じる。  轍の両側の夏草を結んだ罠に気を付けながら(自らの制作の地雷は特に!)、大豆の葉っぱがクルクル巻かれた葉を探す。   葉脈を白く残して食べる、巣にいる青虫 を採る。  小さいバッタはたくさんいる。  これをサッと手で掴み捕まえ、腹から背に釣り針を刺す。  好ましい彼らはいつでも見事な仕事を果たした。  ”チョン!、チョン!、”ツン!”、”……!”微かな浮子の波紋を見逃さ ないようにズンズン歩む。  ずっと渇望と期待を混沌と懐き続け、それで判断を乱さないように言い聞かせながら。  少し前に思いついた新しい工夫を投入するヨロコビが空回りしそうな不安も。   遅すぎず速からずの間合いを図り、『サッ!』と素早く鋭く短くしゃくる。   フワッ〜*と傾く前兆を見逃さずう、まく合わせた時は、きっと上唇に刺さっている。  ズイッ…*っと引き込まれたり、止まったり、横に流れる変化に合わせた時は、喉の奥に。   ブル!ブル!、しなやかな弾力の竿先が小刻みに引き込まれる。  微かに碧みが射したプリプリの銀色・ハヤが宙を舞う、ピチピチの銀が乱舞し悶絶する。  虚無の充実で輝き渡る 、既に歓喜はどこかに消え失せ、殺戮の下手人の心地が背後から襲う。  それを振りきり、超越的意欲をかき立て作戦を実行する。  恍惚となり夢中で何回も流しながら、ずんずんどこまでも侵攻する。   振り返ると遠くの人家の明かりが、黄色く”ぽっ!”と浮かぶ。  夜露でぐしょ濡れのズック靴がヒンヤリするので、鰓から口に草を射した獲物をぶら下げて帰還する。  充実と虚無、殺戮者の寂寥が風に飛ばされる。   真っ赤であった西空は暗灰が侵食している。  肉体はちょっぴり快い疲労を覚え足の筋肉がバリバリする。  気持ちは浄白の甦生があり、心は真っ新にそよぐが一抹の寂寥がちょっぴり吹き抜ける。  また明日この寂寥をこそ確かめに逢いにこようと想いながら、闇を背負って還る。

1997年5月5日月曜日

晩夏、朝早く麦藁帽子の緒を締めて家を飛び出し、別のやや大きい池に駆けつける。  小川というより溝からチョロチョロ水が注いでいるあたりに、いつものようにヨシ(葦)を踏み倒して陣を構え る。  大急ぎで竹ひごの巻枠から仕掛けの先を竹竿に結ぶ、空き缶から極細のゾクゾクするプリプリ、ムッチリのみみずを選び出し釣り鈎に刺し投げ込み、赤、黄、緑の縞模様の唐辛子浮子を見つめ る。  反応がないときは竿先を、水に浸けて波紋のシグナルを送信する、これはきっと卓効が表れた。  しばらくすると赤の浮子がピクピクしはじめる。  ドキドキしはじめる、さっと竿をしゃく る。  5〜8cmの小ブナが掛かる。  つぎからつぎに釣れる。  棕櫚の緒の付いた竹籠に入れ水に浸けて生かしておく。  蓋がなかったので何匹かは飛び跳ねて逃げたかもしれない、当時はそんなことは考えずに没頭し た。  籠が重くなるほど釣れた。  隣で釣っている”ひ……”ちゃんや、”た……”ちゃん達はほとんど釣れなかった。  コツを尋ねられることがなかったのでついにそれを、教えることはなかったし、なるべく知られないようにさえし た。  その軍事機密は、”極小の釣り鈎”と”極細のゾクゾクするプリプリ、ムッチリのみみず”の2点であった。  ……ちゃんは、べそをかきはじめ仕掛けをもって、帰ってしまっ た。  ……んが兄貴を加勢に連れて戻ってきた。  隣に接近し顔色を変えて束になって挑み始めた。  予想どうり状況はなんら変わらなかった。  そればかりか釣り竿を取られた ……ちゃんは、ぐずりだし た。  翌日から彼らは池に姿を表わさなくなった。  一人で、朝から夕方まで池に出掛け倦まず続けた。  籠の獲物はニワトリにあげた。  赤い鶏冠を立てて我先に競って嘴でつつい た。  とてもよろこんで急に動きが活発になる有様を、見るのが楽しみであった。  大ぶりの鮒は跳ね回って逃げたり、餌箱から跳びだしたりするので、元に戻す役割も果たし た。  このニワトリ達は早朝、地面近くの壁に開けた30cm□の”窓”のシャッターを(む)が開けるのを、待ちわび『コッ!、コッ!、……!』催促している。  開けてやると流れるように一斉に首をかがめて”窓”をくぐり、運動場に跳びだして地面をつっついたり、足で引っ掻いたり する。  運動場は背丈の5倍!?ほどの高さの目の大きな金網が巡らされていた。  『バサ・バサッ!』不器用に羽ばたいて2m程の夏蜜柑の枝に跳び上がり、こちらから深淵が覗けない渇いた苛立ちの鋭い金環の目で睥睨し た。  ニワトリは暗くなると目が見えなくなるので、早めに家の中の止まり木に戻り、隅で体を寄せ合って眠った。  遊びから帰った(む)が”窓”のシャッターを落としに網戸を押して中に入り、リンゴ箱の籾殻にくるまっている暖かいのや、羽毛が付いた卵をそう〜っと抱きかかえて退散し た。  何の問題もなく一日が暮れた。 

1997年5月6日火曜日

ある夕方、薪を斧で割っていたら、天から目の前に白い物が『バサバサッ!、ドサッ…!』と降ってきた。  それは一日の円が閉じようとする、まさに夕闇の侵食侵攻と連動した開演のさざめきに似た、期待の満ち汐が覆うひととき 。  不可侵の危うい一瞬を、切り裂く不躾で ある。  中2の時”夕暮れの時は、いい時”という詩を写し、宿題の”好きな詩”の課題に提出したら、『……』と注意された。  『……!?』。  いつもだしぬけに『ギャァ!、……』とオドロオドロした鳥類か!? 。  いつもの一日の充足、ピタリ!と風の静止する、茜に西方が染まる頃。  納得しがたい無遠慮な大声を頭上で発しながら、西方に移動するゴイサギであっ た。  どうも松の木!?にぶつかって墜落し、気が動転しているらしい。  薪は南方の製材所から荷車で運ばれたもの。  山のように積み上げ、ロープで縛り”ギュウ!、ギュウ!”、”ギシ!、ギシ”音を軋ませ 裏の道を通る。  手ぬぐいの鉢巻き、陽に焼けた顔で眠るように、殆ど直立に体を伸ばし梶棒に両肘と顎をくっつけ、後部が地面を擦るスタイル!?で。  裏の道路を日に二回 、ゆっくりした輸送で往復する○○さんが定期的にに置いてくれ た。  お金を払っているところを見たことがない。  きっと年に一度、米などを収めていたのかも知れない。  当時は、掛け売りが多く、自家醸造の醤油を造らなくなった後、  ……さんで貰っていた。  一升瓶と通い帳をぶら下げて行っった。  小麦専用のやや小石が混じる田圃で採れた、小麦2俵を毎年納めた。  凸凹の砂利道を、重い荷物を山のように積んで行くのは 、大変な労苦だなぁ…、といつも気になってい た。  杉や檜の 滑らかな明るい光沢の外皮や皮は、粘りがあり横に折るのに苦心した。  芯を外すと玄翁を握る掌が捻られ、横に滑り地面を掘った。  涼しい気持ちのいい、鎮静の匂いの雰囲気が広がり、充足の気分に満たされ た。  暗くなって危険だからといわれるまで続け た。  たまに輪切りの丸や半円が混じっていて、わけなく粉砕できた、なぜか大人達はこれを歓迎しなかった。  南風にたなびく長く尾を曳くサイレンを毎日聞い た。  たぶんこの製材所!?か、別の製材所が朝夕の始業 ・終業の合図に鳴らすもだろう。  気になり南東方に元を確かめに、いちど自転車で尋ねて行ったことがある。  土砂で濁った川の辺に、塔のようなものに太いパイプが 纏わり付き、窓から木埃が拡散してい た。  人の姿はなかった。  ちょうど風呂小屋の前の空きになっている、小さい方のニワトリ小屋のそばだったので、咄嗟に捕らえて中に入れた。  診たところ怪我などはない ようで ある。  保護者としてせっせとメダカや、ザリガニの小さいのを赤茶の陶器の器にいれてやった。  目の前では食べなかったし、減ってるようでもないので心配になり、苦労して口をこじ開けメダカを5〜6匹押し込んでみたりし た。  ……に『……、まるでブロイラーみたいだなぁ!。』と笑われた。  『……!?』 以前に……は、この小屋の前でウサギを飼っていたらしいことを聞かされたが、その”有名な話し”のことは何も思い出せないのが無念で ある。  嫌なことは反芻しないので、忘却の彼方に後ろ姿や”そよぎ”を没する運命なのら。  犬(ジョンという当時らしからぬ名であった)や、このウサギの末路が幼い子の心の負担にならないよう配慮がなされたためかもしれない 、と今になって想う。  子牛との別れはそれほどでなく、残された親牛の奥から絞り出すような長く尾を曳く、悲嘆の叫びはその大きな潤んだ黒く褐色の眼とともにくっきり蘇る。  活発に動き回るわけでなく、水も飲まないみたいであったので、一人で責任を背負った感じで、密かに得意になっていたが心配でもあっ た。  ある朝、キラキラの陽が長い影を曳く頃、逃げまどうのを両手でしっかり持って小屋から外に出し、地面に置いた。  重かったが羽根の感触から伝わる動物の波動が一切なく、不安な責任の重みであっ た。  一呼吸!?の間があり、虚ろであった目を焦点の定まらぬまま"キラッ!"とさせ、立ち上がりつつ2、3歩歩いたと思ったら、すっくと首をもたげ力いっぱい大きく羽ばたき、2m程の高さの槙の垣根を、何とか乗り越えてふんわり宙に浮かんだ。  どんどん上昇して、隣の麦畑の向こうの瓦屋根、松の木をも越えてまっすぐに遠ざかり視界の外に去った。  それは、10日程前にまさに向かおうとしてた進路であっ た。  悲痛が襲った。  しばらくゴイサギを見たり遭遇するのが気が重かった。 

1997年5月7日水曜日

雨が降り続き水かさが増し、田圃の裸麦の畝の谷底(=溝)にできた川の流れに、ドジョウが遡上する。  日頃、めったに見られない光景であり、いつ見ても”ドキ!、ドキ!”する。  出口で手網で待ちかまえるとたやすく捕まえられるのだが、待ちきれずたくさんの川(畝の谷底)を次から次と探索する。  腹のやや黄がかった、褐色の背をくねらせ雨に打たれて、ニョロニョロ這っている姿を見つけると、愛着とか狩猟本能がごっちゃに一度に出現し頭の中がはち切れそうになる、 のように恍惚とな る。  残酷なちょっとした気紛れで、霧雨の中で浅くなっているわずかの流れのコンクリートの川底を、背を見せて這ってるドジョウに”石”を投げつけたことがある。  『キュッ!……。』と泣き、身悶えして少しの雨水に流されて下流に押し流され た。  血が滲みあたりの流れが”茶”の煙幕で染まりすぐ消えた。  夕闇が迫るまで埋没した。  ふと振り返ってみると、向こうの納屋の前に口を”へ”の字にしたそぼ濡れた防水ガッパの……が、暗い目で無言で霧雨にけぶる夕闇に立ってい た。  忘れてしまいそうな遠い日々である。  ガラス窓の向こうで、『ゴロ!、ゴロ!、……』、『グル!、グル、……』怪しい親交の会話がするので、正体と状況を確かめようと、不意を突き"サッ!"と窓を開けてみるが、『ガサッ……!?』と発したきり、姿がない……!?。

1997年5月8日木曜日 

夜明けは、東方の遠くから響く漁船団の出漁!?のエンジン音のユニゾンで始まる。  それは頭の奥の朦朧とした靄の彼方から、時空を越えて黒い塊が勝手にやってくる錯覚を覚え る。  旺盛な活力、動機、大いなる意欲が犇めき自信に充ち身震いしている。  しばらくして血が巡り始め、とろりとした眩暈の中で、確かめようのない永い息を潜めなければならないトンネルを無事潜り抜けた、朝であるらしいことを識 る。  低く籠もった力漲るものである。  『ドドドッ!、……!』 風もないのに吹き飛ばされ、時々小さくなったりするようだ、地を這うように遙か東方の黒い家並みや田圃の向こうから渡ってく る。  それは息を止めて聴き耳を立てるとこっそり遠ざかり、気を逸らすと足音を忍ばせて近寄ってくる。  ゆだんしていると、そのうち"ふっと"見失ってしまう。  そのうち雨戸を勢いよく曳く音と、いっそう大きくなる『チュン!、……!』沸き立つような、鈴なりの銀を転がすような湧き立つような雀の会話と、『ブル、ブル!……』その微かな羽音が始ま る。  新聞配達の物音はない。  道路に面した離れの外壁に、大人の顔の高さに取り付けられた縦長の”蝉木箱”に昼近い10時に投函される。  後に新聞が厚くなり、縦に折らないでこの箱に投函されるようになったため、斜のふたが持ち上がり遠くからで新聞が”いるかどうか”解るようになり、この些細な変化がちょっと嬉しかっ た。  しかし何故かしばらくして取り外されたため、学校から駆けて帰ったとき風雨で晒され白くなった”蝉木箱”が一番に目に飛び込んでくることはなくなった。  真っ白の障子に白黄の直射が輝き眩しい。  鶏が止まり木から飛び降りてゲートが開くのを待っているらしき囁きが解る。    前頭部が軽い痛みに罹る、狂おしい風が吹きすさぶ風の強い日は荒れ狂った憤怒の悲嘆の波音が伝わってくる。  そんな雨交じりの翌日、納屋から大きな木槌を持って裏の電柱に向かう。  麦畑の畝に脚を架け腰の高さあたりを、力いっぱい振り回わし撲つ、ふらふらしながら5〜6回ほど撲っていると、『いいよ〜〜!』と叫ぶ声がする。  同時に槙の垣根から明かりが”……パッ!!”と溢れ る。 根本に打ち込まれた一撃が木幹を駆け登り、頂点の枝にぶら下がる金属片の果実を”ビリ!、ビリ!”うち振るわせたのである。  アークが散り、気まぐれにその両端をしっかり吸引し隙が閉じたので ある。  昨日の雨風でできた電柱の頂上のヒューズの空隙がくっついたのである。  えらいもんである、しかし当時は、”お約束”の”楽しくて疲れる”西風のいつもの力仕事の置き土産だと思っていた。

1997年5月9日金曜日 

『ゴーッ!、……!』遠くから見たり聴いたりする海は、甚だ大きい一枚板であり敷布のようであり、その悲嘆の声も渚のそれとは全く異なってしまう。  日頃は深い青緑の透きとおったものが白く砕けながら砂礫混じりの砂浜を洗ってい る。  洗いながら還らないものもある。  『プチプチ……!』、『ブツブツ……!』帰還の時のひとりごとが、じつに爽快である。  喪失と充実、侵攻と退却、不安と希望、”絶対矛盾的自己同一”の放つ壮烈が ある。  白い砂浜は小高く隆起しその奥から切り口が半月の楯の凹を水平線に向けて、すべての砂山を挙って押し返している。  高さは15m近くだろう。  人物や動物、潮も静謐に純粋権力で押し返してい る。  梯子を架けるのも容易でない。  ザイルを伝って降りようとするとオーバーハングしてるため足が宙を蹴ることになる。  大回りをして石に穿った立方体のゲートをいまいましくありがたく思いながら潜 る。  ズック靴は役に立たない、砂が遠慮なく入り込み歩きにくい。  珍しい貝を見つけようと1時間以上かけて歩いてきたのだ。  どうしても大きな物、向こうにある物に向かってしまうため、甚だ脚を疲労させ、心も裏側まで皆、地と空に全開してしまい余裕などのない呆けた考えのない生き物になってしまう。  形ある収穫は皆無に近い。  浜に打ち上げられた白い大木や人物に影が無い、足下に丸く黒いものがまとわりついているだけである。  深い緑の黒い帯はザワザワ身震いしながら影を食べ続け る。  白い砂浜をとぼとぼ地平のみを何度も視て漂泊する。  無慈悲な光彩と厳しくぶつかる大気、渚に撲ち付けるエントロピーの喘ぎの轟音に圧倒され飲み込まれてしまって、侵攻の気持ちがあるがその実感が得られない。  『ゴォ……!!、……!』、『ザーッ!!、……!』盛り上がり陸に向かって進行する押し寄せ活動するアクアマリンが叫ぶ。 両耳、頭(こうべ)、体を透過するものは、ことごとく浄白、静寂であり、なにも聞こえないのと同じで ある。  とりあえずの目標はすこしずつ近づいているようであるらしい、んが振り返るととんでもなく旅をしたことに気づく。  自我をくずさず、余裕でしなやかに身をくねらせながら、一歩下がって振り向きざま”ズイッ!”と水平に突き出した暗褐色の枝と黒緑の針葉の林立する黒松が、軽々と優雅におっとり上下左右に全身を撓ませダンスするお姿を確かめて安堵 する。  太極拳!?。  彼方まで黒い帯、長城となって、押し寄せる碧の風に立ちはだかる。  彼らが歌う斉唱は『シュル……、シュル……』であり『サワ……!、サワ……!』、『シ……!、シ……!』であるが、気持ちの中をそっくり”そよぐ”。  "サッ!"と刷毛で掃いた白い巻雲に曳かれて、黒い褐色の破片がゆっくり旋回したり、水平線に向かって滞空したり、そのまま渚に沿って滑空していく。  それがたくさんの時もあり、見つけだすのに難儀する日もある。  トビ(鳶)である。 背筋が無窮の悠々たる励ましで伸びやかになる。  カラカラの喉を助けるため、半月の楯の凹の背後の山の斜面で草を噛む。  やや赤みの射した茎を、手折り根本から皮を剥く。  シャキシャキの成熟しきらないのを探す。

1997年8月12日火曜日

窓を開けて夜気を吸おうとしたら、『ウォー!、……?!』と叫ばれた。  すらりとした身軽な、白に茶のオコジョのようなのや、それにそっくりなのが3者、丸い目をキラキラ輝かせて蛇の ように縺れじゃれあっていた。  その中に、しっとりした柔らかい薄茶の三毛の小さいのがいた。  生まれて一ヶ月ぐらいしか経っていないと思われる。  足取りがしっかりしていない、オコジョの仔だろうか?!。  外壁にスルスルよじ登り、鼻をヒクヒクさせて大きな瞳を見開き人物の深淵を見据える。  視線を決してそらさない。  海へびのようなだんだら模様の、しなやかなよく動く長い尻尾をくねくねさせて、押さえきれない悦びを発動させてい る。  ヤマキの花かつおを差し上げる。  首筋の後ろをつかんで持ち上げると、ふんわり軽くて驚くだろうな!。  目が合った。  『……?!』。  しばらくいたが、尻尾を降ろしてスルスルと降りてしまっ た。  ミルクや”お魚いろいろ”は、入れ替わりに訪ねて来て食する。  親子であっても一緒に皿に顔を突っ込むことも、近づくこともない。  野生に感心する。  カボチャの丸顔を上げてじっと人物を見上げる。  『……?!』 左目が泣いている。  目やにが昨夜かその前かの夜更けに、壁に擦り付けて払い落とそうとしたに違いない、熱い苦悩を滲ませている。  しかし余裕たっぶりの揺るぎない緊張と安らぎが同居する鼻筋、しっかり閉じた口元に感心 する。  3時間ですっからかんになってしまう深鉢にミルクを継ぎ足す。  先回りして見上げた薄茶の三毛の額に、白く垂れてしまった。  でもそうしないとミルクがこぼれるんだよ。  いつもそうなんだ。  個にして世界にそびえる不羈の王たる君は、口を開けて受け止めるなど、有り得ないことなんだね…!。  何であれその弟子たることを一切拒む 、自我を自我と見せないで、しなやかな肢体で歩くありさまは、見るものに鷹揚で対等広大な情熱の鎮静を興す。

1997年8月13日水曜日

出掛けようとしてドアを開けたら、”■”真っ暗の冷気がサッと入り込んできた。  それが白昼であったので、『ドキッ!』とする。  天空をびっしり黒いものが覆っている。  火山の噴火ではないだろうから、急激な寒冷前線の襲来か?!と思いドアを閉める。  出掛けることができなくなり、……とても困る。  長い夢であった、疲れた。  夢の最中に覚醒しつつ、これはそうなんだ、夢だからなーんも心配はいらないんだと。  なんだか命拾いをした ような安堵に包まれつつ、なんか名残惜しいような気がした。  しばらく目的が定まらず、なにもできない……。  時空の渦流を漂白する、根底から何か更新されたような錯覚。  拍手と雷鳴ばかりのイタリア映画の場面と重なる。    背丈ほどある茎がしっかりした夏草がビッシリ茂る中に、誰かが夏草を踏みしだき付けた道を辿る、泡立つような黄の花粉が肩にかかる。  毛のような細かいチクチク痛い棘が茎に一面にある、しぶとい蔓草と共生してい る。  形としては、蔓草がみさかいなくよじ登りすっかり覆っている。  その日陰にすっぽり入り、そよ風が少しでもあると幸せである。  だから陽が傾きかけた、午後3時頃に出撃 する。  線路に架かるゆったりした起伏の流れの頂点で蒼い山嶺が見渡せる。  河原に向かって推進する、耳でビョウビョウ空気が唸る。  見事な桜の植わった堤を進む、幹に瘤があり破裂もある、想うがまま拡げた枝がすばらしい、感心する。  キラキラした水面を眺め、柵のない路肩を走る。  中州の姿は、その成長・変遷・後退にとどまることがない。  半年ほど経てとやっと、自然の力・季節の変遷・雨や風の生業が、くっきりと形として感じ取れる。  同じ季節にはよく似た姿を見せる、その違いは少なくほとんど見過ごすが多くを語る。  脱落してもなだらかな柔らかい草むらを転がる、といつも想う。  水門 から溢れた流れを渡り、暖かい堰堤を歩く、足跡をくっきり。  流れの中程に突き出した堰堤の先端の土台は台風時の大水で抉られている。  撚れながら流れるアクアの深淵を覗き込み、目を凝らすと銀色の大鮒の黒い背がいくつも見える。  ゴロゴロした大きな石で歩きにくい河原にカバンを転がし、携帯用の大きめの折り畳みパイプ椅子でひたひたの流れに腰を降ろす。  くるぶし近くまで足を浸ける。  ササ濁りの透明なアクアマリンは、ピリッとする冷ややかさでなく、さらさらくすぐったい涼しさで ある。  ゆらゆらと光輝が縞となって川底に揺れるのを眺めると、柳の葉っぱのような小魚がわらわらと乱舞したり、”サッ…!”と銀色に身を翻したりしているのが見える。  鮎ではないからハヤの子か、クチボソだろうか?!。  黒い影が素早く閃光のように潜行する。  60mほどの向こう岸に欅の大木が連なっていて、川面にその緑の影を映している。  水草の濃い緑で黒っぽく見えるあたりに、ハヤが『ピッ!…、……!』と跳ねる。  茎の赤い節くれ立った草から白い根が伸びゆらゆら揺れている。  イトトンボが、”スーッ、スーッ”と滑るように散策する。  ゆっくり滔々と下る流れは、生体反応に満ちてい る。  悠々と”ふっ”と足下まで60cmほどの野鯉がやってきて、口ひげをひらひらさせ大きな下付きの口でスポイトのように石や川底を吸引して行く。  時々、小石とかを”パッ!”と吐き出し、砂塵が煙の ように拡がるのでそこにいるのが解る。  ドッシリ精悍な勇姿は、潜水艦を想わせる。  尾鰭が赤みがかっているのがいて有り余る、下半身のバネを感じる。  30〜40cmの細長い赤や黄、青の段模様が鮮やかに描かれた浮子が、12m程先で傾いでゆったりした流れに抗してい る。  

1997年8月18日月曜日

背筋を伸ばし右手は、膝の上で竿を握ったままである。  竿の重量は、受けが支えるので、涼しい深淵な思索顔で半日その姿勢で、塑像となってそよ風になぶられる。  しかしその飄々とした面と裏腹にねばねばした嫌らしい人生の澱が浮き沈みしている。  それを忘れようとして荒地願望に誘われ脱出してきたが、自ら忘れるのではなく、捨棄するためにくっきりさせると思うほかあるまい。   たいていは、兆しがありその直後に不自然な『ツツッ…!』や『ツンッ!…』、『ゆらっ!…』 とした波動で段模様が微かにくっきりと身震いする。  間髪を入れず発止!と右手をちょっと煽るが、はなはだ何か失礼なものがそれを妨げて、向こうに引っ張 る。  竿先がググッと引き込まれる。  戦わなければならい、竿が水面に寝ているのを、『ゴンゴン』引っ張る力に対抗して悲痛な思いで起こす。  『ゴン!、ゴン!、……』、『クイッ!、クイッ!、……”』稲妻に首を振り、潜水するのは平らな”真ブナ”か、…鮒で ある。  クロダイの俊敏さとパワーをやや欠いた感じである。  『ダーッ、……!』と疾走し『ギューン』と引っ張るのは野鯉である。  竿が立てられると、やっと安堵と全身の充実と興奮が訪れ る。  いわゆる”プッツン野郎”にその充実と興奮を発動させるプログラムと必要な起動スピードの資質が備わっているらしい。  通説であり事実とよく附合する。  本人は、笑って否定するが隠し切れぬ色好みであると言う属性がそれをはなはだ困難にしている。  人物の発明による”魚のヌルに触れないで鈎を放つ”システムで、優しく放たれる。  ちょっと休んでから、ブルッ!と身震いひとつしたようなキックがあり、潜水し尾鰭を勢いよく振って深みに往ってしまう。  1.5m程、竿の先を水没させている、風や波でラインが煽られるのを防ぐためである。  目線が水面に近く、膝下が水に曝されているので入水しているような錯覚に襲われ る。  『ツン!、ツン!、……』、『コツッ!、コツッ!……』。  小刻みな挨拶がグラファイトパイプに直に送られてくる。  先ほどの小魚のグループが竿先を突っついているらしい。  小さなさざ波が竿先あたりに弾けて、メダカほどの小魚が小さな弧で遊ぶ。  荒野の夕刻はいつも寂しく危うい、風が凪、水面に黄金の淡泊な眩い光燿が沸き満ち渡るひとときがあり、無慈悲に夢の ような光の饗宴はあえなくうつろう。  あっという間に暗いものが降りてきて、永遠の燦を散らした眩い光燿がことごとく飲み込まれ、青い山裾が暗い無彩色に沈む。  リリアンを一結びしたこぶに、”ヘビクチ”を潜らせただけのラインとの繋ぎ目がつつかれ解かれる脅迫観念に負けて、撤収 する。  あちこちで泡や波紋が興っている。  風で水面が騒ぐと大鯉のジャンプがうるさく興る。  そんな日は、期待ができない。  日に一度、増水で10cmほど水位が上がる、絶好の”時合い”で ある。  ライン切れとかの失策で無為に過ごす羽目にならぬような周到さも欠かせない。  ちょっと涼しさの増した川風に吹かれて、まだ暖かい河から上がる。  夏草を踏んで還 る。  河の中にある中州を歩く。  ”バタバタッ……”、ゴイサギ?!、休息をじゃまされた水鳥が驚いて飛び立つ。  明日こそもっと上手くやろう。  しかし日増しに魚は遠のくので ある。  その厳しさの中に地から這い上がり、頬を撫でる優しさに包まれる。  遠くに灯り始めた山吹の灯明が、きっぱりと新たなる愉しみの在処を滲み出す。  熱気の余韻が漂う、くすんだ死にかけた街の光輝の中に戻る。

1997年8月22日金曜日  

曇りガラスになにやら忍び足で動くものがぼんやり映っている。  ふんわり柔らかそうな身軽な薄赤茶がいるらしいので、そっと窓を開けてみたら、小さい薄茶の三毛ちゃんが深鉢に顔を突っ込んでミルクを飲んでい る。  出来心で長いしっとりした尻尾を触ってみたら、驚いたことにいっこうに無頓着で振り向きもしないし、”ピクリ”とも反射がない。  『……しめしめ…、もしかすると……』。  そっと首根っこを摘んで、深鉢からひっぺがした。  そうしないと顔を突っ込んだきり離れようとしない。  やはりとても軽くて柔らかい毛がくすぐったい。  大人しく別に嫌がる様子もない、頭を思いっきり反らし、四肢をつっぱったり、からだをくねって屈めたり する。  おっとりした顔わ拍子抜けがするもので、薄いピンクの鼻のあたりが濡れている。  毛並みは、真っ新だった。  部屋の中へそっと置いた。  背を低くして、キョトン?!としていたが、部屋の中の隅に沿って走り始め た。  机の上や本棚の裏へ潜り込んだり、耳を寝かして背を低く保ち常に来るべき所作の準備を維持した体制である。  『ミャー!、……!』。  背骨から押し出す ような、長く曳く今まで聴いたことのない、悲しい声で鳴き始めた。  駆けながら母親を呼んでいる……?!。  しかし、鳴き声や挙動に動転の中にもどこか余裕があり、それがせめての救いだった。  大好きなミルクの皿に連れていっても、飲まないので、『悪いことをしている……!』。  すんなり捕獲できたので、速やかに窓の外に放つ。  『ごめんね……!』。  ゆっくり、降りていった。  振り返ることもなく往ってしまった…。  明日も来てくれるだろうか?!……。  ドキドキする、一時の嬉しい喧噪の後に、後ろめたさと指先の柔らかい毛のくすぐったい感触がだんだん薄れ、くっきりした見開いた、『……ン!』 丸い目が脳裏の奥深く食い込んだ。

1997年8月25日月曜日

足下のほうから長く曳きずるような古典的弦楽合奏が聞こえてくる。  『……ン……!』。  今日は、休日であり、すっかり準備が終わっており、弁当を作れば即刻脱出できることにすぐ気がつく。  足をバタバタしたい衝動で躊躇なく、ゆっくり息を吐きながら立ち上がる。  薄緑に白とくすんだピンクの太いストライプが床まで垂れた東のカーテンをおもいっきり曳く、目眩く鮮鋭な真っ新の山吹の光が全身を射 る。  屋根やスズカケ、街路樹、雲がことごとく、”パリ、パリ”音を発てて身震いしている。  すばらしい色価がさざめいている。  一切が眩しい斜光に向かって不動の屹立をしてい る。  その“パリ ッ”とした糊の効いた真っ白の敷布のような、地を這い長い影を曳く光輝が照射され、何もかもが清潔で、静謐で塑像の中にひっそりこもっている。  夏の朝空はのびのびろと広がり澄み渡り、雲に淡い光がもたれかかって溶け合ってい る。  界隈の角を曲がった途端、『ワッ…!ワッ…!』 『…‰、…‰』 歓声や拍手が湧き上がりそうな錯覚が通り過ぎる。  早朝のつかの間は、新聞配達のバイクの音もどこかへ行ってしまって、野鳥の歓びの歌や会話がひとしきり賑やかで ある。  昨夜泣き疲れたであろう風は、しっとりしていてしかもすっかりサラサラでもあって、少年の胸の奥深く吸い込まれるのを待っている。  一筋の弧が垂れるかやつり草の葉先に垂れる銀滴が揺れ る。  一面の飛沫を浴びた草はキラキラの全身発光を漲らせてゆっくり呼吸する。  窓から差し込む一途な白黄の斜光を浴びて、ずんぐりむっくりの携帯用ポットにコーヒーを詰め る。  カリタを広口に乗っけて直に注ぐ、一人用のカリタにいつもの2倍の粉をいれているので時間がかかる。  この上ない歓びのひとときであるのだが、せっかち(≒いらち)な性分が、それに素直に浸るのを妨げ る。  リンゴの皮を”OPINEL”で剥く、芯を取ってタッパウェアーに詰める。  夏のオフ以外は、フィールドに出掛ける時はこれを欠かさない。  フンボルト寒流が蒸発し峰の連なりにぶつかり地に落ちてできた雪を頂くアンデスの青い山並を思い浮かべるゆとりもなく、”アチチッ!”と発しつつ、”ズイッ”と喉に流し込む。  干潟の甘いとろとろから這い出た火華の豊穣がうごめく。  ほろ苦さの奥に潜む七色の花火の炸裂を想う。  永い間、光波を浴びながら結した果実が隠したアルカロイドを、蒼古に海から陸に這い上がった生命体が、まさぐるのを眼前に見 る。  忘れないように前の晩に玄関に揃えた一切の装備の詰まった袋を担いで家を飛び出す。  カバンのチャックを開き、”SUN”のマークとそっくりの鍔の長い”Columbia”のキャップを取り出す。  こんなめんどくさいことをするのは、寝起きのキックされない朦朧とした状態の脳髄で忘れものをしないためである。  脳天に光波が降り注ぐ野外では、帽子なしでは危険で過ごせないのだ。  キャップを忘れ途中で引き返した憂いがかってあったのだ。  珍しく風があったりするとやはり嬉しくなる。  それだけで、まだ眠ったままの遊び心がキックを浴び、希望めいたそそのかしを膚のそこかしが感じ始め 、頭をもたげてくるのをまざまざ実感できる。  だから、本当に充たされた気分なれ、一日が愉しみだぞ……、という気分が膨らみ、しみじみとふつふつ、ムズムズ、愉快なのである。  目の前に岩に当たり迸る飛沫や、キラキラ縞模様の光輝を白い水底に反射しながら流れる渓や、滔々と悠々と捩れて大きな岩を剔る  ササ濁りのアクアマリンの深い淵が浮かんで消えなくな る。  胸が苦しくなる。

1997年8月26日火曜日

いまは、その侵攻作戦のまっただ中にいて、決して引き返すことがないと言い聞かせる。  机の前にぼんやり座り幾度も思い描いた山林や庭が”ギシギシ”音を発てて迫ってく る。  人影のない山間の川沿いの曲がりくねった道を急ぎ足で行く。  軒下にタマネギやトウモロコシが干からびて下がっていたり、白っぽい板塀に農機具が赤錆びを曝して立て掛けてあったりすると、世界がくるっと回った ような、とてもいい気分になれる。  夢のような、どこかで見たような錯覚とも、郷愁ともその双方でもあるような、気が遠くなるような、得難い感覚が興る。  深い渓底のあまり多くない流れを見ながら行く。  もしかしたらと思いながら、つい魚影を探してしまう。  澄み切った水は、情熱の鎮静した静穏そのものの緑の帯水である。  ひんやりした爽快な湿ったものが這い上がってく る。  耳を澄ますと、虫や有象無象の発する生体発表の響音に充ちている。  水は、ゆっくりたゆたい岩に寄りかかり、苔に浸透し、砂礫を転がし無窮の生きざまを曝すが、谷底から湧き上がり、たゆまず興す歓声は、『ザーッ!……』、雨音のような不思議なもので ある。  クラブハウス?!が見えてくると、何もかもが霧散し体も気持ちも狂奔する。  思わずからだが引っ張られ、駆け出したい衝動で頭の中はうわのそらになり地に足が付かない。  玄関の横に用意されたノートに本日のエントリーを書き込む。  連番が”05”なので、既に人物が”4人”渓に入っているか、土間の大きな机のベンチで番茶を飲んだり、タバコをくわえて超越意欲をもって作戦を巡らしたりしているに違いないので、あたりをそれとなく窺う。  顔見知りの飄々とした痩せた男が向こう岸で車のトランクに首を突っ込んでいるのが見える。  いつもそのお方には、圧倒的差でいつも負けているので、敵愾心は湧いてこない。  いちばん気になる存在は、それなりのお決まりのギアに身を固めた、若い痩せて背の高い目の鋭いあんちゃんである。  勢いよく息を吸い込み鼻を鳴らしつつ、胸のポケットから小さなプラスチックのボトルを取り出し、なにやら”シュッ!、……!”とフライ(毛鈎)に吹き付けて、ものの見事に皆の長い沈黙を破るヒットを、鮮やかに目のあたりに見せつけたからで ある。  これは、なんとしてもまねをしないで、超越しなければならぬ……。  あれから、……も経つがまだ果たしていない。  何年も出掛けていない。 

1997年8月27日水曜日

岩づたいに渓に降りる。  緑を水面に映しながら靄が沸き立ち、波紋があちこちで起こり、『ピチッ…!』ヤマメが顔半分を出して閃光で跳ねる。  まだ渓底に陽が差し込まない早朝は何もかもがしっとり濡れていて、橋の下のアーチに生体反応がキラキラ、ゆらゆら揺れて反射しつつ踊ってい る。  8.5フィートのロッドからヘビのようにスル、スルッ!と伸びたラインがふわりと金色に輝く水面に落ちる。  2m先のリーダーのその先のφ0.12mmのハリス(ティペット)の先端に結んだニセものの羽虫やその幼虫(カディス、ニンフの毛鈎)が滑る ように走る。  表面張力で水を押しやり、1cm程の虫が辛うじて没しないで、銀の鏡に黒い影を落とす。  すかさず『パシャッ!』、金の鏡が炸裂してラインが水底めがけて曳き込まれ る。  ラインが水面を切り裂きピンと張りロッド全体がブルブル小刻みに震える。  金や赤、青、黄の戦慄が走り抜ける、喉を押し上げるものがあり、全身が発光する。  周りの景観、音が失せる。  『キラッ!』、銀色に体をくねらせたり、素早く向きを変えて疾走する黒いものを確認する。  ”クイッ!、クッ!、……! ”、”ピクッ!、ピクッ!、……!”ラインを手繰り寄せる間ずっと、その戦いを一時も止めないのは、ヤマメで ある。  それだけで全てが表れている。  一途さ、俊敏さ、赤みが射した紫青のパーマーク、ことごとくが無二の憧れであり密かに尊敬するかわいい宝石である。  渓づたいに遡上 する。  崖が張り出し遥か上は、たっぷりとしなやかな軽やかな枝が覆っている。  大きな2つの岩で堰き止められその切れ込みから、ささやかな滝となって白い飛沫を弛まず繰り出し、虹を掛けその下に壺を掘ってい る。  稟として透明な渓水の中は、天を写す鏡であり波が犇めき泡が止めどなく消えては湧き、なにか大物が潜んでいるだろう?!深淵を見ることができない。  あっという間に”ニセものの羽虫”は流されてしまう。  昨年の方法で攻める。  影を落とさぬように背を屈めて忍び足でそっと近づき、落ち込みの上流に羽虫鈎をふわりと落下させる。  素早くラインを手繰り弛みをとりつつ、発砲スチロールの毒々しい鮮やかな蛍光色の丸いインジケーターが止まったり、微かに引き込まれた ような”そよぎ”を見逃さず、『ピシッ!!』と恣意が閃き瞬く前にロッドを鋭く煽る。  しかし鬼は、ロッドの握り手でない方でラインを曳く。  なにしろ滝となって流れる中で木の葉のように揉まれる”印”が不自然?!な動き、もしくはその兆しを察知して脊髄の反射でセットするのは激しく難しく”ゾクゾク”と愉しい。  2、3回攻めて反応がないか、ヒットしない場合は立ち上がり、鈎とロッド間のラインが直線を保つようなイメージでコントロールする。  めざすポイントに来たら『1…2…3…?!』と数えて、神のみが知る偶然の”魔のタイミング”の不意打ちで、『……ヌッ!』、『……ンッ!』とセット する。  幾度かプゼンテーションと”空あわせ”を繰り返していると、ロッドを煽った途端に手首に”グッ!…”と抵抗があり不意のこととて”ハッ!”とする。  見えないものがだしぬけに力強くラインをひったくる、グングン曳く。  白い飛沫からヤマメが顔を見せる。  結果は、この方法が一番であり、よく釣れる。

1997年8月28日木曜日

……!、んで、いろいろ考えさせられてしまう。  激しく動くアクアマリンの水泡を破り流下した、ニンフ?!が突然去ろうとするためその不自然さを考える間もなく、反射が尻尾に起こり、咄嗟に胴を翻し煌めきの推進で捕獲するのであろうか?!。  しかし捕獲しつつある刹那、なにやら失礼なものが引っ張るのでアドレナリンが奔流する。  そのときにもう一方の生物も、『グン!、グン!』腕に掛かる力にとっさの恣意が走る前に、同じくアドレナリンが奔流 する。  五感の次で、なにやら激しくスパークする焦げ匂いものが天空を走っただろうか?!。  鈎が喉の奥深く刺さらないで(セットが遅れた)上顎の中央にがっちり掛かるようになると、やっと安堵 する。  淵とか広い瀬でドラッグ中にヒットした場合は、口の頬に近い箇所に刺さる。  獲物もしくは、苛立ちの対象を追跡し追い越しUターンしつつ振り向きざまにバネを弾き尻尾を激しく叩き上昇しつつ、ニセ羽虫を捕捉するためであろう。  しかし、興奮はさほどでなくなっている。  魔の隙間に潜入した歓びは、敢えなくうつろう。  丸い影を踏みつつ、ロッドを垂に立ててトボトボ道を往くときに、『ハッ!』と胸を衝かれただろうか?!。  ヤマメにとっては、偶然の悪戯であろうはずはない、すべて生そのの必然であることを…。  きっと遅からず天罰の沙汰が下るに違いない。  垂直に立て掛けられた錆びた梯子を伝って広い渓に降り る。  澄み切った流れの底に細かい砂礫が金や銀、緑、茶、碧にキラキラ反射しゆらゆら揺れ、葦や小さい花を付けた草がビッシリ岸を覆っている。  ズックが濡れないように飛び石づたいに”ピョン!、ピョン!”跳んで行く。  サラサラ音を発てている落ち込みがあり、 ”サッ!”と黒いものが煌めき、瞬く間に一段と急流になった岩のえぐれに隠れてしまう。  いくら攻めても反応がない、水面の炸裂は起こらない。  セミの斉唱、対位法が潮騒となって覆い被さるだけであり、騒音はなく全くの静穏である。  脳天から光波が降り注ぐ。  イナゴを捕まえて鈎に刺し流れに落とす。  渦に揉まれてポイントにさしかかったと思った刹那、黒い影が”サッ!”とよぎり”ポッ!”と引き込んだ。  手元に力が掛かりラインが走り、ロッドがブルブル震える。  流れの底をゆっくり進行したり、広い瀬に向かい背をちょっと出しくねくねと突っ走り飛沫を上げる。  毎年このポイントに来るとこの”いけない釣り”を試みる誘惑に勝てない。  その年の緒戦は、この”魔のえぐれ”で占うのが密かなささやかな愉しみである。  しかし、思わず周りを振り返る。  『パッ…!』、と視野が開けた処があり、砂岩にもたれ葦を踏みしだき腰を降ろし、真っ新の白い砂の木陰に寝そべ る。  森の囁きとサラサラの水音の中を漂泊する。  『ワーン!』とした青い高い天に、真っ白のちぎれ雲が滑空する。  ”岸天”さん、”厳”さんが見てくれたらしい、懐かしさのあまり多くを話せなかった。  僕にとっては、コンピューターのことをたくさん教えてもらった師匠であり、ある開発テーマを何年も一緒に取り組んだ仲間でもあり、そのリーダーでもあった人物なので、懐かしい兄貴に再会した ような、ちょっと気恥ずかしい気分だった。  気を引き締めてがんばろうと想う。

1997年9月1日月曜日 

夜更けにねこが騒いだことがあったので、”マタタビの木”をあげたいが、見つからないと思って諦めていたら、冷凍庫にあった。  『またたび棒』、《与え方》 小枝を一本そのまま……、と ある。  匂いを嗅いでみたら、どこかでたしかに嗅いだことがあるものだが想い出せない、抹香匂い。  食べ物皿に置いた。  薄茶の三毛が仔を連れて来ている、空中テーブルでじゃれあってい る。  三毛で腹が白い仔がいる。  先に見た全身が三毛のよりちょっと体が小さい。  ミルク鉢に頭を突っ込んで、長い尻尾の先を”ふにゅ、ふにゅ”させている。  掴むと柔かくてどうかなりそうでかわいい。  朝、深山桜の下の壊れた本箱の上で、鼻白チビと仔(茶と黒の斑)が重なってへそを出して午睡をむさぼっていた。   昼遅く、畑の中を通り白い陽の中を往く。  秋の気配がいっぱいの風が気持ちいい。  大きな机、畳の椅子、土間、黒光りした太い柱、がらんとした農家のような店のつくり。  混んでいない時間をみはからって行く。  きつねうどんを食べる。  浅くて大きな器、関西風の出汁でピリッ!と涼しいものがあり、木の杓子でおつゆをたくさんす する。  還り道、頭がジンジンするのは、薬味のせいだ。  幸せな気分。  ”民芸うどん”、¥460?!、安い。  夜は、最近凝っている”うるめ一夜干し”(佐伯市山田水産) ポックリ!した、よくしまった脂の少ない、腑の奥深いほろ苦さが病みつきになってます。  大ぶり5尾パック、¥180。  3尾を焼く、パチン!と身が弾ける。  キュウリの酢もの。  濃い緑の4本を斜に極薄切り、塩をパラパラ振り軽く揉み、ちょっと置く。  玄米黒酢は酸味が少ないのでたっぷり、砂糖ちょっぴり、味の素少し、軽く揉む、味噌を少し入れなじませる。  味噌はナトリウム(NaCl)のくどさがあるのでそのときの気分で微妙に加減 する。  これも今年の夏の定番になった。  夏は実ものが溢れているので、菜っぱを忘れていたような気がする。  夏の菜っぱを攻略しようと思う。

1997年9月3日水曜日 

”ンザーッ!、……!”なにやらずっしり重いものが、暗く熱い生への渇望にうたれたて押し進む。  コンクリート面いっぱいに溢れ、薄く張った水をタイヤが勢いよく引っかけ、叩きつけて通り過ぎ る。  暗い道のカーブの変曲点の外側にある、低い波形の鋸歯がある表面が滑らかな若葉が伸びをするウバメガシに覆われた窓辺にまで、潮騒となって窓に押し寄せ、波状攻撃の小さな拳で連打し続け る。  大きいのや軽やかなの、急いでいるもの、喘ぐもの、逃げるもの、悲嘆を声なく叫ぶもの、復讐の炎を翳すものが長い尾の軌跡を曳き水煙を巻き上げ疾走する。  こみ上げる熱いものが浸みだし、頭から垂れ、眼につつと伝わるものと混沌となり唇を濡らす。  もうもうとした靄に飲み込まれるあたりに突進する。  さまざまな音が糸となって注ぐ水滴のジャングルに溶け出し、地面に吸い込まれる。  世界が地面に吸い込まれ る。  気圧の希薄が頭の前あたりを掴んで曳くので、鈍く疼痛が起こる。  気持ちが沈潜し、鼻が敏感になったような淡青色の靄がたちこめ、静謐の中に朦朧としているのに脳髄が鋭い正体の知れない渇望を感じ る。  それが本を読もうというものでもあることに気がつき、妙に安堵する。  本を拡げる。  コーヒー豆を曳く。  嘴の曲がったオームや椰子の木、帆船、明るい夕陽、が描かれたライトブルーの箱に詰まっていた、壊れたサイコロの砂糖の塊を一個、ビンから摘んでオレンジのカップに”カキーン”と投げ入れ る。  左手で棚に剥きだしに重ねて置かれた濾紙を取り、スプーンで”コン、コン”と叩いて砕いた豆を落とす。  ジュワッ!と熱い水で襲撃する。  太陽を浴びた渾身の跳躍、奥深い端正な成熟、熱い吐息の開花、その寡黙だけれどもほのぼのとした縞の ような薫りで、”ボーッ”とする。  適当に開き、懐かしさと文体の苦悩の一服の吸収を終えた、恋愛対位法(オールダス・ハックスリー)を閉じる。  ” 魔笛”のようにストーリの混乱と混沌の渦流に翻弄されるところに惹かれる。  唐突に永い余韻の雷鳴が壁を破り響きわたり、慄然と巻く煙の中に黒い影が姿を現す。  そびえる濃紺?!の怒り肩のお方は逆光の中に直立し、背筋を垂に伸ばし、両腕をゆっくり真っ直ぐ両翼に開き僕らを睥睨 する。  冷ややかな、圧倒的な力を誇示する。  『若者よ!、怖れるな……。 娘(タミーナ?!)は囚われている……、』、深淵からそびえ立ち天空に響きわたり、優しい憂いで覆う。  ”夜の女王”が、後半では不条理の蔓にとらわれて悪者になっている。  なぜ?!……。  何度、このオペラを聴いてもその謎は深まり、ますますその毅然と悪びれない態度に惹かれるのだ。  ザラストロが深い沈痛に包まれて、大きな机の中央で真っ直ぐ空を見つめる姿も大変好きである。  秘密結社(フリーメーソン)の魅力的な翳を逃れ、ストーリーをさっぱり向こうに追いやって、そのときの気分で勝手に世界を創りゾクゾクしながら、この場面だけは見たいと思い続けてい る。  季節の節目とか、分析と義務と時間に蝕まれた漠とした寂寥が這い上がる、紙のように白い横殴りの朝日の射す窓辺で、紙匂い文庫を取り出す。  さらし餡色の”カゲロウの羽の片方?!”が現れる、文字が透けるその向こうに遠い焦燥、一途さが見え る。  永い間、じっと碧紫のパンジーを暗黒で圧していたはずの文庫の頁に染みが全く見あたらない。  窓を開けると、木陰に潜んでいた?!、黒と茶の斑の仔が目を輝かして、駆けてくる。  意地悪をして、いつもの鉢にミルクを入れないで、部屋の中の皿に注いで置く。  ガラス戸から半身を乗りだし首をちょっと傾げて、『……?!』じっとしている。

1997年9月10日水曜日 

”カリ、カリ、……!”白いものが目の前を登って往く、薄茶も登って往く。  キビキビした 滲んだ影絵に歓びが溢れかえっている。  ”海ヘビのだんだら模様”のすらりと長い尻尾の先を目まぐるしく、クネクネ動かし縦横にヤモリのように這い回る。  軽やかにスルスルと登る姿は聡明がよぎ る。  網戸は、彼らにとってフラストレーションの投げ捨て場なんだ。  手を伸ばして首のあたりを揉んでやる。  僕のほうが癖になってしまった。  柔らかいくすぐったい毛の”そよぎ”が誘う。  雨に降られた夜は、暗鬱で熱っぽい激しいものを深く沈潜させ、忘れかけた憾みがくっきり甦りそうな危険をはらんでいる。  羽虫がたくさん訪れ窓を叩く。  野生の声にそそのかされて、 =(・。.・)= が空中テーブルの上でジャンプし、”∴”で押さえたりしてこの訪問者を激しく追い回している。  このときは、一切鳴き声を発てない。  彼らは、爛々と目を輝かせて夜遊びを堪能するようだ。  ひとしきり遊び、クッキーを囓り、ミルクをたっぷり飲み、口の周りに牛のように滴をくっつけて音もなく還っていく。  『リーン、リーン、……!』、『キチッ!、キチッ!、……!』、『ル、ル、ル、ル、……』、『ジー!、ジー!。 …!』、全く疲れのない発表が潮騒となって窓を撲つ。  この”夜歌”を歌として聴いてはならぬ、眠れなくなる。  あれは、砂浜を飽きず洗う潮の戯れなんだ…。  五感のその次にあるもので聴こうとしては、ならぬ。  夜明け方には、ぱったりとこの波音が途絶えることがあるのだろうか?!。  符合パルスのように、耳を強く鋭く圧するが、騒音にない稟としたものがあって眠い恣意が癒される。  空を天が蹴るような、遠い音のような、彼方からのそよぎが充ち渡る星降る純血の夜空の下で、しとどに濡れた草に寝そべり、何を想う……?!。

1997年9月12日金曜日  

窓を開き、ミルクを鉢に注ぐ。  たくさんの虫の合奏が迎えてくれる。  互いに響応することなく、混濁もなくそれぞれが煌めきつつ闇に拡散する。  拡散しつつ泡立ち沸き立つ。  のびのびと誰の恣意をも全く気にしないように思える。  ふっと彼方の宇宙の星くずにまで達するのではあるまいか?!、と嬉しい気分が興る。  音もなく目を輝かせて薄茶の三毛の仔が駆け上がってきて、『ンガォ!、ンガォ!、…!』発しながら、いっしんに飲んでい る。  すらりとスレンダーであって腹が白い毛に覆われている。  背骨が堅く、全体は柔軟なもので覆われていて、毛皮がするする伸びたり横にずれたりする。  首の後ろをつまんで持ち上げて部屋に入れようとしたら、必死にカーテンを掴んで離さない。  耳を伏せ首をいっぱいに反り返させ、鼻を激しく震えさせる。  部屋に放つとあっという間に駆け抜け、跳躍して壁の隅をよじ登ったり、カーテンをよじ登ったりして、一時もじっとしていない。  みるみる間にいろんなものが散乱し始めた。  とっさに隣りの部屋へ行けないように引き戸を閉める。  コップとか、机の上の倒されそうなもの、危険なものを片づけ る。  早く捕まえなければと、気が動転する。  開いていたクローゼットに入った、しめしめとつかみにかかるが、後ずさりし『ハッ!!、…!!』、『フウ…ッ!、……』、『……?!』と大きなピンクの口をいっぱいに開けて威嚇しつつ、爪で引っ掻こうと する。  長引くとよくないと思い、窓を開けて誘い出すが、なんでも高いところに登ろうとする。  山積みのCDの方へ向かうと大変な事態になる…。  駆け上がり、ぶら下がって怒っている方の窓を開けたらなんとか、大いに憤慨なされつつ無事帰還され た。  薄緑に白と薄いピンクの太いストライプが色褪せたカーテンに、『……?!』狂おしい濃厚な野獣の匂いがした。  ハナゾノツクバネウツギが発熱し息苦しい懊悩を侵出している……?!。    (^.^ ;)  クローゼットも?!……。  怖いのでしばらく経ってから調べることとしよう。 

1997年9月16日火曜日 

先日、不意打ちを受けた薄茶の三毛の仔がこない。 (−.”−;)   その“パリ ッ”とした糊の効いた真っ白の敷布のような、地を這い長い影を曳く朝日の射す朝も、いつものように悩みを抱えて(なんのだ?!)“うめ組”(○○幼稚園)に向かう。  しかし母屋を出て道路にさしかかけた所でちょっとした思いつきで、地面に擦り そうな所にある茶の座布団と同じ柄の手提げ袋から、ハンカチに包まれたちょっと暖かく感じる“野球絵のお弁当箱”を取り出し小さな手で“槙の木”の垣根に“グイ”と押し込み、不安と希望に満たされおもわず駆け出す。  滑り台は怖わいし、なにより気後れしてとうとう一遍も昇らなかった。  洗濯をしようとポン プを“ギコ、ギコ”やり井戸水を汲み上げていてふと顔を上げたとき、この見覚えのあるハンカチの包みが“槙の木”に鳥の巣のように引っ架かっているのを発見した時の気持ちは、いかばかりであったろう…。  (2度目からは、このシステムはなーんの問題もなく、長らく続い た。 ) この“野球絵のお弁当箱”の角が丸くて男らしくないから、本の形をしたのにして欲しい、それに野球の絵も自分でない“よそのことが描かれいて”なじめないから嫌いだと、前掛けを掴んで真剣にぐずったかも知れない。   お昼は結局我が家に帰還して食べるので、いつものようにみんなよりちょっと早めに帰ることになる。  板の間の脇の机に正座して、悲痛な想いで押しやったはずの自分のものでない“野球絵のお弁当箱”を開く。  野良仕事から帰り土足で板の間に腰を掛け、お昼を摂りながら“問題のエジソン?”に優しい普通の眼差しを注がれるのを、今になって痛切に感じる。  このシャン ペンカラーのアルマイトのボックスは、離れの観音開きの脚付食器棚に置かれ、すっかり忘れていた受け入れ難い“押しつけられた分身”との衝突の瞠目の悲痛は何かの折りに出現し、色あせるまで何年もかか る。  

1997年9月17日水曜日

“エジソン”わエンジンでもあるので、登れ ない鉄棒の下の砂の中の調査をひととおり終える頃きっと思いつく。  森閑とした午後砂埃が渇いたグランドを掃いていく。  砂にすっかり水分を搾取された両の手の肘を曲げ水平前後の、ピストン運動を出来るだけ早く長く行い、同時に爆発・排気の怒りの呼吸音をたなびかせる、『‰‰……、‰‰……』。  蛇を踏んだりしないように頼みながら竹林のトンネルを潜り、御影石の基地の脇の砂埃の砂道を抜け駆けて帰る。  “アメリカの夜”のように妙に薄暗く思える見覚えのある板間のいつもの所で、“鶏がうずくまっている姿”で待っている煤で黒光りした重い緑のホウロウ引き鉄瓶に直に口を付け、ひんやりしたタンニンの番茶を“ゴク!、ゴク!”飲む。  森閑とした午後の甘美なひとときであり、懈怠と空約束の奢りがゆっくり移ろった。  カラカラに渇いた喉を冷ややかに滑り降りる微かに”ピリッ”とするものは、煤の匂いとともにはっきり甦 る。  二口めも甘露のように腹に浸み渡った。  でもあの頃既に、『……こんなどうにもならない“永い今日”もきっといつかは、遠い日の出来事として振り返る時がくると微かに感じていた……。 』  夜更けの冷たい雨の中、薄茶の三毛の仔たちが来てくれた。  ”オコジョ”の白との3者が夕闇の茂みから目を輝かせて登ってきた。  『ミャー…、……』鳴き声がかすれてい る。  背中がちょっと濡れている。  目やにを取ってやりたくてもできない。  台風の雨に降られて”お魚いろいろーかつお味”が切れている。  朝食に買った”ドトール コーヒー”の”Cream Cheeseパイ”をあげたら、匂いを嗅ぐまでもなく一気にモグモグ始めた。  よろしい!。  ミルクは、あっという間に無くなるので、何回かに間を置いて注ぎ全員が遭遇するようになるべくする。  いい方法は、ないか……?!。  薄茶の三毛の仔は、片方がちょっと小柄で腹の白い毛が首を一周している。  残念ながらおとなしいのがどちらか?!、カーテンに、狂おしい濃厚な野獣の匂いを置いていったのがどちらか?!。  一回目の囚われで”長く曳く今まで聴いたことのない、悲しい声で鳴き”で人物に悲痛を浴びせたのがどちらか?!。  確かな自信がない。  ”ハナゾノツクバネウツギの懊悩”のお方は、泣かなかったから一回目の仔と違うと思う。  雨音とガラス戸をドンドン撲つ音で目覚めた。  こんなに早く誰(なんだろう)……?!、と思ったが=(・。.・)=たちが、運動?!か早朝遊び?!をやってるらしい。  本箱の屋根に立ち両手を上げて伸びをして、寝起きの人物を見開いた狐顔で訪れる。  オコジョである。  へその高さあたりから透けたガラスになっているので、こうやって懸命に人物に発表を行うらしい。  ”またたび棒”の端が囓られべっとり湿っていた。  網戸が壊れるかも知れないので、なにか爪研ぎを考えようと思う。

1997年9月18日木曜日  

枯れ草の些か毒のある匂いが這う。  正面に湿った諦めきれない赤い太陽があり眩しい。  顔に真っ直ぐ照射する光線がヒリヒリ痛い、背に汗がじっとり滲む。  黄金の光に覆われた喝采が『ワッ……!』と辺りから興 る。  息苦しい程の植生の猛茂の滴り、豊饒の海がどこまでもぎしぎしと音を立てて犇めく。  遥か彼方まで広がる豊饒の大海を漠とした憧れを小さな胸に隠して、あてもなくさまよう純粋な遊びを する。  天が高く、眠ったように静かである。  蒼い山裾にきっとあるに違いない”約束のД”に向かってどんどん往く。  自分も含む誰かが轍にしぶとく根を張る夏草を一握りづつ集めて結んだ、“罠”がたくさんあちらこちらに潜んでいるんで歩くのに機転を発揮しなければならない。  水が少なくなりその進行を止めてしまった、くたびれた台湾ドジョウ(カムルチー)が飢えて発狂しそうな川に沿って、曲がりくねった長い道を“あれ”を見つけにどんどん往く。  茶や橙、黄の海が遙か向こうの蒼い山の懐に取り込まれるあたりに辿り着きさうであるが、どんどんそれは逃げて行くので回りの手の届く辺りだけが流れるだけである。  イナゴが稲穂の茎で“クルッ”と回り頭と尻尾を入れ替えるのが見える。  才槌頭の両角に創りもののようにひっ付いた、瞬きしない小さな乾いた目が苛立ちを呼ぶ。  干上がった泥の荒野で、きっと野ネズミ達がいつもどうりに籾を充分食べ終わり、仲間と楽しく駆けっこをしてるんだろうな。  運良く孵った“ばん”は、おそらく知らないどこか遠いところで来年も来るかどうか相談中かもしない。  小型の完璧すぎる人間そっくりのトンネルを造るので、距離を置いた付き合いになってしまうザリ……が渇いた泥世界に取り残された、どこにもうっちゃることの出来ない憂いを抱えた焦燥で赤くなっている。    ほぼ子供の歩幅の間を保ち畦に沿って、腰の高さの大豆が倒れそうに植わっている。  一株は5、6本であ。  これの葉っぱが黄色くなり、ほとんど落ちてしまった枝を集めながら“へび”を編む、誰がやっても不思議と上手く作れ る。  これも例によって“へび”の名前が付いた瞬間に、正しい形は記憶し難いものになり、作り方や“そよぎ”が霧散してしまい甦ることがない。  これは燕が家の中に泥を持ち込む頃、同じものを掬い上げられ綺麗に面に仕上げられたドロリとした天面に天秤棒で突いた跡に、屈まずにそっと掌を開いて注意深く正確にその豆の数を確かめて落としていたДζΨΠ∀が、ひどく疲労したため、むずかりながら悦んで道を知っている牛の背によじ登り、先に御帰還したため”……”が後でしっかり藁灰で蓋をしたもので ある。  灰と白の心の広い寛大な人懐っこい“シオカラトンボ”は触る事が出来た。  そっと近づき驚かせないように腕で輪を描き、輪をすぼめながら近づき、濡れた閃きの不自然に大きな目を回しているやつの羽を“サッ!”と掴む。  ハッ!とするほどの濃い赤で、触ると手がその赤で染まり そうな“赤トンボ”が潮騒のない茶や橙、黄の海の上で悠々と滑空したり領地に滞空する姿や“絵”をうっとり眺め膿むことがなかっ た。  枯れ草の苦いアルカロイドを分泌し、それが揮発し始めた宙にどこにでもいるようで、いつでも獲得できるとたかをくくっていたがそれっきりである。  それは、ねこも来ない夜更けに目の前がふっと霞むときなどに、脳裏に明晰に出現し悠々と飛翔する。

1997年9月23日火曜日 

夏キュウリが衰えた、メロンも影を潜めた、もっとも夏を感じるデラウェアーが隅っこにいる、桃や梨はとっくに姿がない。  夏が往ってしまった……。  ミカンが日増しに黄色くなってくる、巨峰が陽に焼けた濃紺紫で元気に登場し今が盛りで ある。  夏の終焉の否応なしに迫りくる寂寥を慰め力づけてくれるやつだ。  赤みがかったやや尖った甲斐路が颯爽と出現する。  四分割の溝らしきものがついた、押しつぶされた扁平な柿が突然並ぶ。  栗は、とっくに出現ししている、リンゴが大きくなり種類が増える。  紅玉の堅くて緻密なさっくりする果肉、迸る豊饒の果汁、きっぱりした顔が好きだ。  この夏もまたニガウリの旨さを堪能できないままで ある。  夜風が不思議と遠慮がちになり、その背後の冷ややかなものを予感させる、よそよそしくなり渇いた憂愁と突き抜けた喝采を帯びる。  夕闇になるとコンクリートの原は、一面の草原に一変 する。  夜露を震わす羽虫の七色のアレグロの潮騒がいっそう冴え渡り、力強くなる。  『ルル…!、ルル…!。 ……!』、『ジン!、ジン!、ジン!、……!』、『チリッ!、チリッ!、……!』疲れを知らない韻律がロボット音の ように規則的に連綿と連なる、その中に終末の充実を響かせる。  決して響和せず響応せず均一の大きさを維持するパルスなんだ。  だから歌でない。  ”〃 〃 〃 〃 ”荒んだ切り株が風に吹かれている田を背に、ゴツゴツした石と粘り強い草に覆われた堤がある。  ネットリしたナトリウムを危うい縞のように含む海風が渡ってきて、鼻先をかすめ る。  反対側は、石積みの崖が垂直に落ち、西に向かって真っ直ぐに伸びている。  ひたひたと弛まず岸を叩く波間まで3m程である。  東側に不釣り合いに頑丈な石造りの広いアーチ橋が掛かってい る。  威圧的に高い所を広い直線が田を切り裂いている。  見る度にそのとってつけたような異形に目をそむけたくなる旧軍道であり、北に伸びた砂州の中央を貫いているものがその橋に繋がってい る。  長い砂煙を曳きずりたなびかせて向こうから黄と緑のバスがやってくる。  これは、時計代わりになっていた。  一本の柱と10数本の杭ががんばっている一番堰から溢れ、迸りに虹を掛けてた真水は、アーチを潜り広い遊水広場に出てゆっくり曲がり切ったあたりでダム?!の下にたどり着く。  牡蠣がびっしりしがみついた扉が引き潮の夜に放たれる、すぐそこの向こう側のナトリウムの苦いものに曳かれてビョウビョウと広がる青い所に往ってしまう。  高いところからその行方を見やるとひっそりした湾に色が違う河となって伸びてい る。  葦がそよぐ向こう岸の人物に向かってなにかを叫んでも、風にかき消されてしまう。  いつも夕凪のころ竹竿で小舟を操りながら黒い影が表れる、川の中央に沈めた竹箒の ような物(オダ?!)を次々に引き上げて船の上で払っている。  よく見えないが藻エビかウナギを採っているのだろう。  とろりとした金色の光輝の中をゆっくり漕いでいく。  船縁にあたる櫂の音が、長い尾を曳き水面を渡る。  葦(ヨシ)の群に小舟で突進し、長い竹竿で狂った ように激しく水面を撲ち、あたりに水しぶき音を放っていたことがある。  ずっとその不思議な光景が染みつき、そぞろ思い起こすことがあった。  『いったい何なんだろう……?!』  乗っこんで来たイナッコを網に追い込んでいたらしいことと知ったのは、何10年も経ったある日のことで ある。  5月の晴れた日、川岸に腰を降ろし釣り人と話しをしていて、”乗っこみ”のことにおよんだ時に、はっと気がついたのである。  『あれは、そうだったのだ。 ……!』    

1997年9月24日水曜日

カモメが低く飛び河を下ったり上ったり する。  引き潮で水門が開かれ真水が海に還る時、崖から見下ろすと大きな石がごろごろしてそれに青い藻がたくさんついているのが見える。  アーチに西陽が照り返し、縞模様がゆらゆら揺れ る。  目を凝らすと影で黒っぽく見える水中に時々、キラッ!キラッ!と身を翻すものがある。  真ブナの大物がたくさんもつれ合っているらしい。  始めてみる集団にドキドキしながらアーチの下を狙う、んが打ち込みにくい。  竿が短いこともあって、なかなかポイントに届かない。  やっとそのキラッ!キラッ!と身を翻すものが潜むあたりに玉浮子を浮かべる。  じっと息を潜めて、浮子を見つめるがいっこうに変化がない。  『ピクリ!』ともせず、優しい秋風にそよぐ波にたゆたうだけである。  崖づたいにどんどん海に近づくと崖が途切れて川岸が葦で覆われるようになる。  所々に葦が途切れサラサラの砂底が見え る。  半畳ほどの足場が組んであって、その前の葦が鎌で刈られている。  僕らの竿の何倍もある長い竿で、じっと半日もうずくまっている人物がいる。  浮子は、初めて見るもので菜箸の ような形で赤や、青、黄、黒の段模様があった。  その浮子は、寝かして使うらしく大いに興味を刺激した。  鋭敏な感度を持つのだろうが未だに謎のままである。  無彩色がたれ込める気圧の希薄な南風が押し寄せる日などの、なにかの加減で、河の真ん中で魚がピョンピョン跳ねながら群を作り、走り抜けることがあっ た。  きっとあれは、イナッコ(鯔の幼年)だったのだろう。  小舟を操りながら投網を打って行く人物もあった。  ただ遠くから見守るばかりであった。  何を採っていたか知らない。   浮子を外し、ザリガニの尾の肉片を鈎に通しごろごろ石のあたりに落とす。  影を写さないように、足音を忍ばせ崖から転げ落ちないように頼みながら、細心の注意を一点に注入 する。  ズルズル曳きずり、ちょっと休みまた曳きずる。  絶望を装い確信を深めつつ青い水の底に降りていく。  石かなにかにぶつかり引っかかった気がする。  それに混じって、微かに、しかし怪しい気配をたっぷり含んで、『コツ!、コツ!、?!』、『?!、グッ!』と曳くものがいる。  深い緑の水面を見つめて息をのむ。  しっかりせよと言い聞かせ足下を確かめる。  『…?!』竿を鋭く小さく煽る。  竿は、空を切ることなく竿先が引き込まれ る。  ブルブルと引き込まれ、沖に突っ走ろうとする。  握った手に力を込め竿を立てようとする。  エイッ!、と引っ張り上げる。  夏草の上でバタバタ跳ねている。  褐色の砂を背に散らした大きな口、ちっさな黒い目、腹が白い。  枯れ草がネバネバの全身にくっつく。  まだ、ザリガニの白い肉片がついている。  竿の弾力と腕の振り出しでもう一度同じポイントに静かに投げ込む。  嬉しい頼もしいドキドキの挨拶が微かに、しっかりと送られてく る。  後ろめたい気持ちと、ヤッタレ!という気持ちが混沌とする高ぶった時間が流れる。  黄昏と満ち潮が出会う時には、河は挑戦的な意欲で反射する。  少しずつポイントを河口に移動させ、生き物との衝突を繰り返す。  祈るように念じつつ生き 匂い白いプリプリした肉片が無くなると、マグロ缶の空き缶から取り出し鈎に刺す。  反応が遠のくと、懸命にその原因を考える。  殺戮に異常な集中心で没頭した絢爛の時は、終わりを告げ る。  空が熟した澄んだ橙で燃え立つ。  壮烈な光が充ちた冷ややかな海風が鼻を擽る。  みるみる間に無彩色が降りてくる。  夜露にしとどに濡れた草を踏んでとぼとぼ還 る。  そそり立った虚無の充実を置いて往く。  大きな生き物の鳴き声が頭上で、響きわたる。  唐突に天から降ってくる、水鳥のけたたましいはなはだ調和を欠いた暴言で ある。  体に殺戮の血の匂いをべっとり覆いつつ、寂寥の横顔で海浜にある田から逃げ延びる。  狂乱の崖から名残惜しく離れる。  現場を一切振り向かず襲いかかる無彩色の中を走る ように去る。  空しい。

1997年9月25日木曜日  

鼻白チビの仔、首から腹が白い柔らかい毛に覆われた茶と黒の斑を散らした小さな生き物が出迎えてくれる。  目を輝かせて、『ミャー!、ミャー!……!、』と大変、元気がいい。  てっきり遠くから出掛けてくるのかとかってに思っていたら、窓の下の木立の枯れ葉に丸くなって夢をむさぼり過ごすことも多いらしい。  おかげで水やりが遠慮がちになったため、ササの葉っぱが”くるり”と巻いてしまい、白っぽい葉裏を見せ る。  すぐに水をやる、いつものこととて5時間ぐらいでシャキッと元気を取り戻す。  ササは強い、しかしなんと言っても水だ。  物音や足音でうたた寝から目覚めて駆けつけるらしい。  歓びが押さえきれないらしく尻尾をピンと立てて、人物の前を小走りに往く。  まだ足にまとわりつく、ねこ特有の行動はしない。  最近、著しく接近しつつあり窓を開けたり、外から帰ると一番に挨拶をくれ る。  クロワッサンを出したら、『…ンガォ!、…ンガォ!、……!』発しながら勇んでかぶりついた。  仔の時から人間の食べ物に親しむのは、いい傾向だ?!。

1997年9月28日日曜日  

窓を開けたら、鼻白チビの仔が入ってきた。  心配しつつ見ていると、あたりを嗅ぎ回っている。  部屋の中を半周して急に驚いた様子で走り出したが、すぐ自ら入り込んだ窓に飛び上がり、外に逃れ た。  試しに、パンの耳を刻んであげてみたら、興味を示しつつかぶりついたが、すぐに飽きたようだ。  オレンジ色の紅鮭の生の輪切りを焼いた。  たくさんの脂が出た。  キツネ色にきれいに上手く焼けた。  なにか足りないと思ったら、レモンかスダチであった。  大貫妙子の黄色いピンと張りつめた冷ややかなボイスを想いだし た。  近藤等則の新譜を聴いた。  NHKのドラマ、”うでにおぼえあり”のテーマ音楽のドロドロした、暗く熱い生への渇望が渦巻きキッパリとそそり立つサウンドを微かに期待したが外れてしまっ た。  即物的な響音のその向こうに、絢爛たる壮烈が厳しく炎上しつつ、不思議と情熱が鎮静する音楽を聴きたかったのだが……。

1997年9月30日火曜日  

夜風を吸いたくなって窓を開いたら、灯りの中の空中テーブルでへびのようにもつれ合っていた =(・。.・)= がいっせいに振り向き、窓辺に殺到してきた。  6個のかわいいキラキラの目が迫ってきた。  食べ物をあげないでおくと『ゴロゥ〜〜ゥ!、……ゥ!』と曳きずる ような、かわいい甘い拗ねた人間匂い声を発する。  牛乳を採りにいって戻ってみると、3匹の薄茶の三毛が窓からから入り込んでいる。  目を輝かせて探検を愉しんでいる?!。  『ゴロニャーン!、……!』  皆薄茶の明るい薄茶の三毛の仔で、首から腹にかけて白いつやつやした柔らかい毛に覆われている。  その中の一匹はおっとりしてて、さわても暴れないし嫌がったりもしない。  背中を揉んだりなで下ろしてやると喜ぶ。  喉を『コキュ!、コキュ!』しても反応がない。  そのたっぷりのみごとな襞が垂れた喉を竹箒で”ゴシ!、ゴシ!”やってやると、黒くて潤んだ大きな目を細めて、顎を精一杯に突きだして圧倒的な筋力と果敢に充ちた情熱で押し返す黒牛を想い出してい る。  そうっと窓に誘導して平安を願う。  試しに”愛犬元気”(8kg)の袋を切り、ビーフ粒、ほうれん草粒、小魚粒、骨粒を皿に注ぐ。  『カリッ、コリッ!、……!』ゆっくり噛んで少しずつ、順に食べ る。  牛乳は、飽きることがなく、全員がとても喜んで飲む。  しばらく経って静かになったので、覗いてみたらみんな還ってしまったらしい。  一匹だけ円くなって空中テーブルで眠ってい た。  青白い星降る冷気の下で羽虫の潮騒を聴きながら顔を埋めている。  最近、北米のFM放送サイトがいい感じで聴けるようになった。

1997年10月4日土曜日  

風のない夜更けに北側のガラス戸が”ガタ!、ガタ!”音を発てて揺れるので、『ハッ……!』とした。  夜遊び好きの=(・。.・)=達が運動会をやってて”ドンッ!”とぶつかるのでもなく、地震でもないのに……?!。  いぶかりつつカーテンを引くと、めったにそんなことをしない”腹が白く茶と黒の斑”のチビちゃんが、大の字になり網戸に張り付いている。  『……んなぁ(^ ^)』いつからムササビになってもうたんだ……!。  『……ドッタノ……?!』 と人物をたしなめる醒めた視線で刺す。  『……!』 丁重に中に入っていただき、熱いミルクじゃない、冷ややかなミルクを皿に注ぎ、鯣を焼いて供 する。  割り箸で掴んでいたら焦げて燃えだしてしまった。  鯣はいきなりかぶりつくことはせず、手で幾度か引っ掻いてみたり、猫パンチ攻撃を数回やってから顔を横に傾いで噛む。  お腹がくちると機嫌がよくなり、ふっと『ゴロ!、ゴロ!、……!』、麗歌の一節が聴けたりする。  そのうちに定刻?!になり、3匹の薄茶の三毛が窓からから入り込んいらっしゃ る。  三者とも性格や気質が異なり、一回目の囚われで”長く曳く今まで聴いたことのない、悲しい声で鳴き”で人物に悲痛を浴びせたのは、一番距離を置いている。  顔もささくれが滲んでいて、猜疑心?!がキラリと光る目でみんなの一番背後にいて、不屈の悲傷のビームで人物を刺す。  いっそうそれが胸を衝かれる。  夜遊びが終わっても還らないで、ゴロリンと丸くなって眠ってしまうのがいて困ってしまう。  首を掴んで外に置いても、『ニャー〜〜ァ!、ゥ〜〜ゥ……』窓を引っ掻いて開けようと する。  しばらく眠ってもらい、再びそとへ。  気持ちが”一回目の囚われ”くんだけに傾倒してしまっている自分がいる。

1997年10月6日月曜日 

気持ちよく晴れ渡った秋空だ。  とぎれとぎれの巻雲が高い天を流れる。  優しい渇いた柔らかい吸い込まれるような光輝に充ちている。  荒涼と限りない呆けたような空の碧に漲る海浜の朗らかさに”ボーッ”とな る。  疲れた河が呼んでいる、怠惰な砂浜が待っている。  沖に突きだした回廊の足下に精緻に敷き詰めた亀石をタプタプと洗い、紙のような薄緑のアオサがゆらゆら揺れる澄んだ濃い熱い潮がふてくされてい る。  キラキラと眩しい銀海を見つめて、遠い日のことを思い出している。  静寂がぎっしり詰まっている風と空、松林の吐息が、肩に降りてきてしっかりと包む。  むっちり膨らんだ空中を天が蹴る真昼の”物の怪”に遭えるかも知れない。  懐かしいひめやかだけれども鮮やかな海藻の香り、潮のネットリした皮膚に纏わり付く感触、岩を洗う潮騒のほかなにもない。  黒い緑の松林がささやく、濃密な松ヤニが放つ精妙な静機が騒ぎたて る。  深い碧がうねりつつつぎつぎに覆い被さる白波となって砕け砂浜を襲う。  その鳴動は、無限の憤怒であり咆哮、呻吟であり耳を圧する執拗な攻撃である。  そそり立つ砂の段丘がずっと向こうの、空の色と同じ色の山懐に向かってどこまでも走ってい る。  長い影を曳ている。  オレンジに浮かんだ朧な滲ん丸い光輝が海落ち一筋の帯となってひょうひょうと波間を渡ってくる。  まったく静穏である、体内に澱んだ毒がことごとく浄化され る。  果てしない喪失感と発作的感傷がこみ上げる。  嬉しい。

1997年10月7日火曜日

夜、”腹が白く茶と黒の斑”のチビちゃんと遊ぶ。  窓を少し開けた隙間からひんやりした秋風とともに、スルリと忍び込んでくる。  コロコロしたしなやかな丸太にくっつけたカボチャ顔で見上げ る。  紐に鯣を結わえて空中でブラブラ揺すっていると、目を輝かせて吸い寄せられてくる。  ねこパンチやらジャンプを繰り出し夢中で遊ぶ。  のべつ紐を揺らせていると疲れるので、別の遊びに変え る。  YAMAHA印の赤い布を張った椅子の下が居ごごちがよいらしく、どこに行ってしまったのか?!、いささか心配になり覗き込むと、たいてい背を丸くしてうずくまってい る。  『……ここにいたの!』 目を細めて返事をする。  『……ンニャ〜〜』 頬から首をグワァシ、グワァシ、……掻いてやる。  とても力を込めて押し返してくる、双方とも嬉しくなってそのまま続け る。  疲れてくるので今度は、あぐらを組んだ足で支えつつ仰向けにして胸から腹にかけてグリグリやってやると、ますます背中を床に押し付けて『ゴロゴロ……』歌い始め る。  横顔から背中をグワァシ、グワァシ、やってやるととても悦ぶ。  前足をつっぱってあぐらを組んだ足を押し上げる。  自ら耳の後ろを擦る。  グルグリをやっている手に暖かい毛の感触と、『ゴロゴロ』喉を鳴らす鼓動が直に響く。  これも疲れだしたところで止める。  気のせいか情熱の鎮静した満ち足りた稟としたお顔で闇に還って行った。  

1997年10月8日水曜日

丸くてぽってり大きな秋なすを焼いた。  4面焼きでなく、2面焼きである。  焦げ目がついたところで、レンジから出しシンクのプレートに投げだし冷やす。  パンパンに張っていたのが、しぼんでしまう。  皮を丁寧に剥く、だんだんコツが解ってくる。  七味唐辛子を”パラリッ!”ちょっと散らす。  香ばしくてとても旨い。  オーブンレンジを備えた暁には、真っ先にこれの全面焼きをなんとしても試してみたい。  熱いまま皮を剥く上手い方法を考えなければ……。  大ぶり3個でとても幸せな気分。  夏のものより水分が少ない、種が熟したのか?!。  ニンニクを剥きフライパンで牛肉といっしょに蒸し焼きに する。  こんな時に蓋がしっかり閉じるのが欲しいと思う。  明日は、今年のうれしい発見、”うるめ一夜干し”(佐伯市山田水産)だぁ…、ぼってり引き締まったホクホクの奥深い滋味となんといってもほろ苦い腑を考えるだけで、もう『……(*^.^*) 』。  なんか秋に入るとともにだんだん大ぶりになっている。  また食べよう。  冬になると冷却棚から姿を消してしまうのだろうか?!。  

1997年10月9日木曜日

夢で逢えたら ソバカスのある少女 をRealAudioで聴い た。  ひと通りのめったにないだだっ広い公園のヒマラヤ杉が緑を失い黒い影となる頃、耳の後ろがくすぐったくなる夕風に誘われて机から離れる。  名を知らない樹木がその縞のように流れる匂いで存在を発表するころ、ささくれた憾みを押しやり、なにかきっと決心する。  ポケットの札かニッケル銀を確かめそうしてなにやらささやかな、わくわくする気分に毎度の如く支えられ、希望めいたそわそわするものにせきたてられ、肩をそびやかせて口笛を吹きながらゆっくり夜気を吸いながら黄昏のぬかるみに踏み入れ る。  義務とおんぶお化けにせき立てられた焦燥、先の見えてしまった階段を上ったり下ったりの酸化を怖れた日が暮れていく。  肉体は疲れ、恣意もささくれたに違いないのに、芯に赤いものが点灯しあたりを這い始める、向こうの希望めいたそそのかしに向かって馳せ参じ る。  終息が始まったばかりの、何かしら蜜壺の口火が切られたばかりの真っ新の荒野に”企みいっぱいの風”のように侵攻する。  ヒリヒリする夜気を吸いつつ、押し黙った静謐の家並みの碁盤の道をジグザグに縫いながら西へ向かう。  光輝が滲む大通りに突き当たるとすぐさま左に曲がり、解りきっているのに、『ペ……コ』の文字が灯っているのを真っ先に探す。  ゆっくりした坂の大通りに面した巣箱の横腹に穿った出入り口”∩”に吸い込まれ る。  ”スタジオ”に毎夜のように出かけて行って、小さな赤いミルを唸らせて炒れてくれるドリップコーヒーをゆっくり口に運んだ。  雨が降ったりなにかの巡り合わせで友人達が一人も未だ来ない時に出くわす、休みなのか?!Y嬢がテーブルでトランプをいっぱい拡げて占い?!をやってい る。  頂点からカードがどんどんなくなってしまうやつであった。  近寄って黙って意外にふくよかな頬や肩の骨格を眺めた。  一瞬緊張するがそれを隠す。  想った ような手?!が出ないからだろうか、なかなか止めないし、日頃以上に鼻筋がキリリとしてきつい表情だった。  僕のことを占ってくれないのがちょっと不満であった。  しかし見えない蔓が這っていて切り出せなかった。  どうやら自分の行く末を探していたような気がしてならない。  いつもと違って目に微かに荒涼が感じられた、どうやら昨夜の叫喚の浸出でないだろう?!と勝手に想うことにした。

1997年10月10日金曜日

当時はなにも解らず、見せかけの平安をむさぼる混迷と萌芽の時代のまっただ中の一人であったのだが。  それにまったく気が付かず前衛を自負していた。  肩を張って斜に構え,ギラギラの捕らえようのない焦燥と憎悪をひた隠しにして、飄々と構えていつもの優しい夜を徘徊していた。  高い椅子によじ登り鞍のような黒光りする背もたれに足を組んで跨り、壁にもたれかかり、水銀のような醒めた光輝にうごめく友人達を眺め。  雑談やタバコの煙、女の押し殺した笑い声を吸った。  仕事の帰りにカウンターに肘を置きうなだれて”……ジャンブ”とか”……報”に没頭していた。  文庫を開いて窮屈な姿勢で読みふける人物もいた。  頭の上の箱からややこもったベースやドラムの繰り返しに混じって吐露されるボイスや打弦。  リード、ホーンの果敢と憂愁、燦爛たる熔解する蜜、不屈の闘志、金や碧、銀の濡れた花火の猛交を被爆した。  波動が途絶えると椅子から降り、時々機械の前で身を屈めて操作した。  メンバーが揃い潮が沖に還って静かになった頃、外の灯りを消した。  壁に沿って伸びた段に腰を降ろし、深夜までカード(ブラックジャック)を切ったり、勝手に持ち込んだジャズをかけたりした。  ドキドキする全身が発光するような、一番大切にしていた愉悦の時間と場所が懐かしい。  ちょっとジンジンする頭のまま寒空を駆って還り眠ると、なんと幸せなことだろう。  音のない”巣箱”で蜜のようなJAZZが響き竹藪の影から懐かしい友人が現れ、カード遊びの続きが行われるのだ。  頃合いをみて椅子から降りて時々明るい竹藪に首を突っ込み、てきぱきと宮殿が絢爛とそびえ閃光がパチパチする選曲を行った。  こんな朝は、現世が灰青の鉛がたなびく無機的な窒息するものであった。  Y嬢を昼間、朝の10時頃だったと思う、近所でたった一度だけ見たことがある。  なにげなく投げた重い脳髄の寝起きの視線の中、窓の下を”ふっ……”と自転車で通り過ぎた。  東から斜に射す真っ新の陽を浴びて顔を輝かせて過ぎ去った。  ほとんどオレンジがかった明るい黄の足首を結わえた、オーバーオールのようなつなぎを着ていた。  あいかわらず頬を尖らせて眩しい悪戯っぽい眼差しで一瞥した。  なにやら笑みを湛え、止まらずに”ホク!、ホク!”と往ってしまった。  なんでこんなとこ通るんだぁ……?!、とそのときも想った。  しかし2度とそんなことは起こらなかった。  それからだいぶん経ってから、朝早く駅の改札口でばったりすれちがったことがある。  不機嫌そうな寝不足の頬に、ちょっと朱が射していた。  きつい視線で構内に乗り込んで来るところであったと想う。  頭がボサボサのまずい情況であったので一瞬視線を避け、やり過ごしたかったのは僕の方だった。  千載一遇の汚点であった。  思い起こす度に……  (^.^ ;)になる。  大藪春彦を読むらしいことを、当人の会話をカウター越しに聞き知った。  当時それは、まったく知らない分野の話であったので、なにも言えなかった。  

1997年10月11日土曜日 

夜更け、薄茶の三毛の”懊悩くん”が空中テーブルでミルクを飲んでいる。  首のうしろをヒョイ!と掴んで中に入れた。  しっかり口を閉じておとなしい、別に嫌がる ような感じでない。  床に降ろすと同時に背を低くしてものすごい勢いで駆け出し、カーテンをよじ登ったりとにかく高い所へ逃れようとする。  もう捕まえられない。  激しく駆け回ったあげく、隣室の高いところにある棚の狭い空間に飛び上がり潜り込んだ。  買って来たまま重ねて紙箱に立て掛けたフライのマテリアルやらフィルムケースに入れたフライフックやシンカー、何種類かのハリスを積み重ねたもの、などがギッシリいつでも取り出せる ように区分けして陳列?!してある。  それらの上にのっかった格好でもぐり込んでいる。  『ッハッー!、……!』大きくいっぱいに口を開けて恐ろしい形相で威嚇する。  手をのばしたら怖い顔であとずさりしながら引っ掻く。  好物を差し出して何とか穏便に脱出を祈るが頑として動かない。  早くなんとかしようと焦り、とうとう棒で誘い出した。    (^.^ ;)  一瞬、激しく悲痛の声にならない叫びと、けたたましい喧噪が暗い所から発せられた。  フライのマテリアルやらフィルムケースに入れたフライフックやシンカーを蹴散らし、脱兎の如く猛スピードで飛び降りて窓から還っていっ た。  またやってしまった……、まだ無理だったのだ……。  やはり棚のフライのマテリアルのあたり一面に強烈な、くだんの懊悩がしっかり残されていた。   (−.”−;) (;。;)

1997年10月17日金曜日 

夜中になにかの気配で覚醒する。  そのころも仰向けに眠るのが癖であった。  金縛りに合ったのと同じになり天井を見つめて見開いたまま動けない。  勝手に心臓が、”ドク!、ドク!”大きく鼓動し喉元を押し上げる。  言いしれぬ不安?!、悲痛が全身を貫き狂奔する。  ”カチリッ!”鈍いはっきりした金属音で事態が否応なく重圧で迫る。  真っ暗闇に衣擦れの音が微かに近寄ってくる。  優しい暖かいものが近寄ってくる。  『………くん、……。』  頭の中で様々のことが目まぐるしく駆けめぐる。  凍てつく押し迫った師走?!の頃だった。  あれから10年?!近くもの間、寂寥の風に煽られた日々が淀みなく流れた。  唇を堅く閉じて一点を見ながら焦点を合わさないでいると、微かに甘いものが鼻腔の壁を静かに伝って口腔に垂れる、それで少し癒される。  風を切って街の光輝に向かって突っ込んで曝進する時にそれが起こる、川面の風を眺めるふりをして欄干に足を掛け る。  壁に背を押し付けて、鼻にかかったイエローグリーンのボイスを聴くときや、怠惰にひとつひとつ丁寧にちぎって叩きつけるように投げる鼓を聴くとき、激しく身もだえしながら七色の放電を放ちつつ離陸する電気弦を被爆するとき、碧が薄れ橙と溶け合い拡散、浸食しあって西の空に彩が飲み込まれる天をふと見上げたとき、”ジ……ン!”と体を駆け抜け る。  眠っていたのでない、眠ろうとうとうとしかけたところであった、眠れるはずがない。  早く朝が来ればいいのだ……、しかしそんなことはなかった……。  手足は、いっこうに暖かい血が巡ることなく、しっかり停止したまま固まっていた。  両足を摺り合わせて何とか暖流を起こそうと焦った。  夜船に横たわり暗鬱なトンネルのその向こうに早く出なければ…、燦たる光輝を浴びて蘇生しなければ……。  闇を貫き直進の恣意に充たされて推進したはずの悲嘆の星屑が、今も暗黒の天空から舞い降りてく る。  ”ビョウ!、ビョウ!”とどこまでも気ままに飛来する。  夜露で泣き濡れた渇いた光沢を楠のぬめぬめした波打つ褐色の葉っぱに擦り付けて、ムササビのようにやすやすと滑空して忍び寄る。  背後から刺さるそれを振り払うように逃げ帰って、布団を被ってしまったのだ、寒さと膨れ上がった勝手に作った怖さで震えていたのだ。  決して無意味に目にも止まらぬ刹那にきびすを返して振り向いてはならぬ。  真っ直ぐ前を見て、五感のその次のもので森羅万象の波動を感じなければ、向こうにいる君自身が驚くではないか……。  それからやおら覚悟を決めて穏やかに、”狂気の文明からの偉大な逃走”であれ、”理性もまた奔走する一種の情熱である”暗鬱な長い尾を曳きずる吐息と立ち向かえばいいのだが…。  白いものが巻かれていた細腕が目に入り、頭は困窮し深い悲嘆にくれたが、涙は無かった。  肩がギシギシと軋み、”ゴウ…!、ゴウ…!”とした陰惨が吹き抜けた、世界の中に自分が一人であることを意識のその頂上の客観で思い知った。  自我が敢えなく、”ガラ、ガラ、……”と瓦解して瓦礫の礫になって地べたに散った。  なにかに掴まらないと立ってられないようだ。  暗闇で目をこらすといつも見てた顔は、よりほっそりして見えた。  しばらくの間、喪失感と虚無感で気力がなかったためか、その時の記憶もまばらになってしまった。  薄灰碧色の凍てついた道を還って往く光景を思い浮かべるがなにも見えない。  胸が潰れそうになるので考えないようにしているが、そうするほど悲痛は繰り返され新たに肩のあたりが押さえつけられるのです。

1997年10月19日日曜日 

朝、白に黒のキツネ顔のオコジョがやって来る。  驚いた顔のそっくりの友達を連れている。  じゃれあって本箱の上に跳び乗り、目を丸くして立ち上がりガラスを叩く。  海へびの2色の地味な段だら模様の長い尻尾が自慢なんだ、この先を激しく動かしてせかす。  着替えるのももどかしく、片手鍋を投げ込んである紙袋で”ザクッ!”と、ビーフ、ほうれん草、小魚、骨粒などの”クッキー”をすくって、さらに冷蔵庫から牛乳の紙箱を出し、眩しいカーテンを曳く。  『……ッ!、……!』口笛を2回やってから、『おいで!……』と自分の胸に言い聞かすように叫ぶ。  茶と黒の斑の三毛の仔や、腹が白い薄茶の三毛の仔も”スル!スル!”現れる。  大きな目を見開き、雪の上を歩くように、足音を潜めてふんわりと駆けてくる。  昨夜の晴れた夜空の下の寒さのためか、発表の声がかすれている。  皆、鼻のあたりに噛み跡か?!、傷がある、黒っぽく見える跡がある。  腹が白い薄茶の三毛の仔、とりわけ一番痩せの、首に白い毛が回っていない”懊悩”くんが来た。  サーモンの切り身を切ってあげた。  いったん遠ざかってから、物陰からゆっくり近づき鼻に力を込めて食べた。  全身が薄茶の大きな三毛、黒と白の鼻白チビも来た。  鼻白チビは、大きくなってしまい、あまり近寄らなくなってしまった。  頻繁に出現するが一定の距離を頑として守る。  夜遊びに窓から進入してくるいい仔と違って、昼間の =(・。.・)=はあまり遊んでいかないようだ。

1997年10月21日火曜日  

”ケンウッド! カピバラレストラン UA(うーあ)”(CAPYBARA RESTAURANT)を聴い た。  『あの〜……』、がついつい出てくる。  けだるい投げやりな大和言葉のボイスがとってもいい感じ。  とらえようのない不意をつくような跳躍、擦り付けるように吐露するアーモンドボイスの色彩、優雅、がパチパチ弾けて、心が静謐に高揚しつつ不思議と鎮静 する。  しなやかな抑制の背後にしっかり瞬発性アドレナリンが充たされ、たゆたう瓶が想像できるので、”ホク!、ホク!”愉快になってまう。  J−WAVEの日曜の夜24時から始ま る。  ニーナ・シモンの”バルチモア”(レゲエ)が選曲されてた。  『……やっちまた!、なんじゃそりゃ〜……、モモリンがお薦めの写真集……』、『悲しみいぃ〜ジョニィー〜と言う処で、ドーンとそのスネオの顔が出てくるんですけど、私はそれを見てそうか……、なんなのジョニーって訊かれつつ私も何だろうと……、』  30分があっというまに過ぎ、ねこの ようなきままなボイスは、去って往く。  このお嬢?!さんの顔は、まだ知らない。  昼、還ってくると、垣根を潜りチビちゃん(鼻白チビの仔)が駆けてくる。  やわらかい毛が光っている、尻尾を”ピン!”と立てて大きく口を開けて、歓迎する。  『ミャー!、……!、…ゥ、ゥ〜〜』擦り付ける ように語尾を唸る。  きっと、『……どこいってたん?!、……おくれ』と言ってるのだろう。  玄関にまでついてくるが、慣れてないからだろうか、いっしょに入らない。  急いで窓を開けると飛び込んでいらっしゃる。  足下に体を擦り付ける。  牛乳を白い密閉弁当箱?!に注ぐ。  『……?!』 なぜか飲まない、昨日のサンマの頭がいいのか?!。  そのままにしておくと、ペチャペチャ、微かに音をたてて飲み始める。

1997年10月22日水曜日 

うどんを作った。  仕上がりは、まあまあで研究の余地を感じた。  コンブを鍋に浸ししばらく放っておく、黒い物が水の底で倍ほどに広がったのを見るは好きだ。  花かつをたっぷり加えてひと煮たち する。  上澄みを採って出汁にする。  ”あげ”を湯通しする、出汁に『どうだっ!』という感じで濃いめに調味料を加えて煮る。  落としぶたで押さえ浸けて、煮汁がなくなりそうになるまで弱火で攻撃する、火を止めて馴染ませ る。  出汁に調味料を加えて、生うどん、ネギ、あげを入れて茹でる。  もういいだろうと想ったら火を止め、七味とか三つ葉をちょっびり散らす。  このとき『ずずっ…』と汁が飲める温度でないと程良い硬さで食すことができない。  じつは、ここのとこをしくじってしまった。  讃岐うどんは、腰が並大抵でないので、予め茹でておくのがよい。  しばらく口と体がジンジンしていい感じだ。  おろし生姜をいれると趣が一変する、スースーした京都風になる?!。    窓を少し開けると夜気とともに声がさっと入り込む。  『ウー〜ゥ』 冷蔵庫に足を運び牛乳を出しラッパ飲みしつつ、皿に注ぐ。  昼にも飲んだので飽きたのか?!、飲まない。  『ミャー〜、ミャー〜、……ゥ〜〜ゥ』 尻尾をいっぱいにそびえ立たせつつ、まる顔で見上げて足もとにまとわりつく。  ボールを投げてゴロゴロ転がす。  近くまで駆け寄り、前足を揃えた上に顎を擦り付け、背を低くして目を見開き輝かせて鼻をピクピクさせ、獲物をじっと捉え る。  腰を大きく盛り上げてからバネを弾いていっきに飛びつく。  ゴロゴロ転がしたり、自分も転げてじゃれてしばらく熱中していたが、ふと振り返るといない。  裸足の足になにやら柔らかくてホットな物が触る。  堅くてゴツゴツして動く物が触る、擦り付けてくる。  冷たく湿っぽいものが触れる。  足の指をコキコキ動かしていると、がぶりときた、ちょっと痛くてくすぐったい。  足の親指と人差し指でゴツゴツ骨っぽいものを挟む。  じっと動かないので力を込めてみる。  『ミャッ!』 と声がしてまたホットなすべすべした毛がぐっと足首を押す。  正統的なねこ科の生き物が大いなる交歓を送っているに間違いない。  よろしい!。  両足の裏で挟みグリグリしてやると、『……ゴロゴロ……!!』随喜の歌を送り出し始め た。  親指を冷たく湿ったものやチクッ!とする挟み攻撃が入れ替わりに襲う。  両足の指を噛んだり、『ギギィ……!』と引っ掻きながら顔を擦り付けて”チロチロ”舐める、痛くてヒンヤリして暖かい。  ”ゴロ!、ゴロ!”と速い鼓動が素足に大きく響く。  まったく忘れていた暖かくてコロコロする物の重力とくすぐったい毛先で、『……タハッ!』と思わず声が出そうにな る。  すっかり足がホットになってまった。  『ギギィ……!』が止まったので眠ったのかな?!と思っていると、親指の先を微かに”チロチロ”舐め始めた。  『…… (−.”−;)』 机の下のトウモロコシの皮?!で編んだ座布団がお気に入りらしい。  想い出したようにふっとホットな毛皮がいなくなり、”ペチャ!、ペチャ!”ミルクを舐め始め た。  それからオコジョが高窓から進入して来た。  獣の怒声が発せられ、奥の方に作戦を展開しつつ、『オー、オー、……』 と対峙しつつ燃焼し、予定どうり終えて?!引き上げ た。  なんであれあらゆる野戦、戦いには、一切協力するが介入せずを貫くつもりだ。

1997年10月25日土曜日  

北の方の垣根の下の方から、小さい物が這い出てくる。  一切足音がしない、『ミャー〜ゥ〜ゥ〜〜!』、『わぁ〜ぉ〜ぉ』発表しつつ駆けてくる。  急いでミルクと……、小魚、骨粒などの”クッキー”を供 する。  ひとしきりモグモグ、ペチャペチャやってから、トコトコ跳んで来て机の下の”お気に入りトウモロコシ皮座布団”で仰向けになる。  机に座ると足にくすぐったい毛皮が擦り付けられ る。  爪を起てて”チクッ!”、”ギギッ”とやる、冷たい舌でペロペロやる、重力を掛ける。  ちょんちょんと叩いたり、ゴシゴシ掻いたりする。  ”ジン!、ジン!、……!”、”ブル!、ブル!”する振動を足の裏で感じ る。  急にスースーするので還っちゃうのかな?!と想っていると、スタスタ歩いて牛乳を飲んだりクッキーを”カリ!、コリ!、……!”やる。  また、トウモロコシ平原へ……。  何を想ったのか急にそわそわし始める、素足やジーンズの裾で爪を研ぐ、これが始まると痛くて足の置き場に困 る。  寝そべりながら手を伸ばして、”コチョ!〜*、コチョ!〜*”やる、痛くてくすぐったくて……。  ほんに”食う寝る遊ぶ”だにゃ……!。  ボールを掴むように顔を足で挟むと機嫌がいい。  足の甲に頭を置いて眠ってしまった……!。  暖かくて『ジンジン……』と『グルグル……』の波動が足先から直に体の芯を次々に波打ちながら這い上がってくる。  

1997年10月27日月曜日

深夜、窓を少し開けておくと、『ゥ〜〜*』、『ミャッ!〜*、……』、空中テーブルで組づ解れつ、うみへびのような2色の段だら模様の長い尻尾を激しく縦横に振り回し、夜遊びに耽っていた腹白薄茶の三毛や灰薄茶の地味な三毛達が乗り込んでく る。  チビちゃんうれしそうにやってくる。  白に”茶玉”模様の”オコジョ”も仲良く連れだって2匹乗り込んでくる。  ”オコジョ”とチビが出会うと、大きな野生の咆哮が闇を貫くか、『ゥ〜〜!!、……!』めったに聞かない低いトレモロが微かにかかったボイスで挨拶を交わす。  ひとしきり出会いの挨拶が終わると、『ッハッ!……、ウギャッ!……』と威嚇を投げつけ瞬発力で走り抜ける。  初めは驚いたが、不思議となにものにもぶつかることがないので安心 する。  本を拡げてうつらうつらしてしていても、目が覚めてしまう。  魚や肉粉などで作った小魚やチューリップ形の”クッキー”には、飽きてしまったらしく、ともかく生に近い魚を激しく求めているらしい。  なにかいいもんないか考えてみたところ、”うるめ一夜干し”(佐伯市山田水産)が冷蔵庫にあることを思いつき、頭と尻尾を切り落とせばいいことに気がつきこれを供 する。  いつも黒く焼けた炭のような物を見ていたためか、『……?!』キョトンとしていたが、『ンガオ、ンガオ、……』悦びを叫びつつ食った。  気にかかる”懊悩くん”は、現れない。  ”オコジョ”を親指と人差し指で後ろ首を掴んで窓から退散願う、大きくて重い。  おとなしくし言うことをきいてくれるので、  (^.^ ;)である。  食事のために出掛けようとすると、机の下のトウモロコシの皮?!で編んだお気に入り座布団で丸くなってうつらうつらしていたチビちゃんがむっくり起き上がり、ついてき た。  なぜか途中で立ち止まりじっと視線を投げる。  ”民芸うどん”でキツネうどんを食べる。  大きな”あげ”が2枚入っている、微かにピリピリしたを刺すものが入ってい る。  やはり関東よりに、いわゆるちょっと辛目に仕上げているみたいだ。  浅めのたっぷり広口の鉢のつゆが澄んでいる。  ”プチプチ”、”しこしこ”でなく”ギュウギュウ”、”ヌルヌル”でやや不満で ある。  太い黒光りの柱、高くて広い薄暗い天井、黒っぽい石?!の土間、板張りの背もたれ、装飾が無いように見える。  星が高く秋風が天空を滑空する、目を凝らすと白い雲が浮かぶ下を急いで還 る。  眠っていたチビちゃんがなぜか、逃げた?!。 クローゼットの再下段に入っていく。  おとなしくちょこんと腰をおろしてこちらを直視する。  呼んでも出てこない。  ハッとする、急に出掛けたから拗ねているのか?!。  今まで、僕のほうが姿を消すことは一度もなかった、 =(・。.・)=の方から気まぐれにふらっと進入し、ふらっと還って往っていたのだ。  少ない共同生活の中での新しいパターンの出現であったが、今度はどうなるか?!、密かな楽しみなのです。  ちっとも深刻でなく、いつもの『……ン!』とした顔で出てきた。  昼間、鼻白チビにくっついてチビが散歩?!していた、『おいでっ!……』と呼ぶが、ほんの微かに頭を振ったきり、親子が体を擦りあわせたり、小走りに跳んだりしつつ往ってしまった……。

1997年10月30日木曜日  

朝、出掛ける時に本箱を覗き込んだら、チビちゃんが丸くなって寝そべっていた。  『……ン!』 疲れた?!しっかりした顔を上げて、『ミャー!、……』と鳴いた。  掠れて破れ障子のような侘びしい響きであった。  ねこが待っていると想うと還り道がわくわくする。  『……ャ』窓を開けると茂みの中から掠れた小さな声がした。  カサコソ音を発ててやってき た。  前に頭と尻尾を切り落とした”うるめ一夜干し”を冷蔵庫から出し、ミルクと共に供する。  机の下がいつもの交歓の場である。  足の甲に寝転がり『ゴロゴロ……』と『ジンジン……』が混じった波動を送ってく る。  裸足でいるとヒンヤリする舌で”チロチロ”指を舐めたり、”ギギッ”と噛んだり、手で”チョンチョン”と叩いたり、口ひげの横顔を擦り付けるので、『……タハッ……!、(^o^)』くすぐったい。  結局、両者が一番気持ちがいいスタイルになる。  前足を両足で挟み、甲を枕に =(・。.・)= が”いびき?!”をかく形か、ときどき顔を親指で擦るパターン。  いつも裏切って波動の連結機構を解放するのは、ぼくのほうなのでほんに申し分けないのです。  コーヒー豆が切れているが寒いので今日も買いに往かなかった。

1997年11月4日火曜日

大きな蛤があったので、お澄ましを作る。  コンブを鍋に投げ入れしばらく放っておく。  黒いカチカチの薄い板が2倍ほどの大きさになり、ぬめぬめと深い緑を湛えて生き還り思いっきり泳いでい る。  ひと煮たちしたら蛤の殻を外し包丁を入れ、分葱、麩、調味料を入れる。  蛤から青白く濁った体液がじわじわ流れ出す(−.”−;)、体の芯にツーンとする錯覚がよぎる、潮の塩分も吐露するので薄口醤油の分量を加減 する。  砂糖を入れるが極ほのかな甘みに押さえるのが肝要でここに唯一、気を使う。  終わりに三つ葉を入れた。  強固な香りとともにアルカロイドが強いので入れすぎない ようにする。  『あぁっ……!』 懐かしい、優しい鎮静する深い澄明が溢れる。  五感の中枢?!が静謐に羽ばたく。  紙一重にくどさが透けて見える。  できるだけ簡素で個性がしっかりした食材を器の中で戦わせたい、それをまた確かめようと想う。  松茸の土瓶蒸しは食べたことがない、近いうちにやってみよう。  オーブントースターで切り餅を焼く。  上手く焼くためには、途中で一回裏返さなくちゃならない。  ほのかな甘みと香ばしさ、もちもちした歯ごたえ、旨いのでたくさん食べたいがそうもいかなず、食べ過ぎないようほどほどにするため、いつも不満が残る。  困ったもんだ……。   (^.^ ;)  朝日を浴びてチビちゃん、=(^。 ^)=が広場で仰向けに転がり”ごろごろ”をしている。  背を地面に擦り付けながら激しく体を捻っている。  地面に腹這いになってじわじわ接近して、ポチポチから”ピンッ!”と突出してるおひげをアップにファインダーを覗きシャッターを切 る。  キラキラ鮮鋭な横殴りの早朝の真っ新な光輝が燦々と注ぐ。  いいぞぉ……!。  …んが、カウンターが思った処を過ぎても巻き上げられる、終わりの感触が無い!、ん……?!。  なんということ……!、フィルムが入っていなかった。  やってもたぁ〜**。  おひげくんが鉄棒の脇でしゃがみ、くるりと回り砂を引っかけて 匂いをくんくんして垣根を潜り北方へ往ってしまっ た。  陽が西の山に落ちる頃、『ジャワ!、ジャワ!、……!、』 泡立つような、弾けるような、サウンドが頭上で一斉に響く。  頭を押し倒し見上げると、遥か天空を切る高圧線に豆粒程のものが無数に連なってい る。  雀の群だ。

1997年11月5日水曜日

近所の屋敷に孟宗竹林があり、夕刻近くを通りかかると、『ザー!、ジャシャワ……!、ブルブル……』 宇宙の彼方からの暗号の洪水に出くわす。  再接近すると『チュン!、チュン!』とも聞こえる。  あまりに徹底した”ホワイトノイズ”のいっこうに衰えない絶叫の海に唖然としてしまう。  夕闇の秩序ある無秩序の力漲る大集会に感心する。  突出した瞠目のみが脳裏に残り、ときどき思い起こす楽しみがあるが、”ホワイトノイズ”が正確に”そよがない”のがもどかしい。  やはり、あの陽がとっぷり暮れた夕闇が這い回る中に、熔解し融合し激しく胎動する炉心が泡立つ竹藪に往かなければ……。  IE4.0をインストールした。  2系のHDDに差し替えて雑誌の付録のCD−ROMからコピーする。  心配など吹っ飛ぶくらいすんなり成功した。  洗練された新たな発見がいっぱいあって、インストールに付きもののスリルはいつしかどこかへ消え去り、濃密な甘露な歓びに満ちた休日を過ごせ た。  これも、数か月間いろんな情報を目にし、充分待って満を持してから行ったからか…?!。  1系のHDDへのそれは、あっと言う間に終わってしまった。  夕闇の窓を曳く。  『ギャーァ〜*』掠れて情けない小さな声がする。  コロコロした元気なものが跳び込んでくる。  キッチンに立つときっと付いて来て、先ず足もとにヒゲがくすぐったい丸顔の頬を擦り付けて挨拶を欠かさない。  白の弁当箱に牛乳を注ぐ。  削り節を差し出す。  『フンッ…!』 近づきすぐに離れる。  すぐ、机の下の大好きな”トウモロコシ皮の座布団”でゴロゴロする。  素足の指を噛んだり、ちょんちょん撲ったりペロペロするのが一番なんだな〜*。  かかとの堅いとこで爪が上手く研げるとは思わないが、こちらがきっぱり『いやだっ!』と足で発表しないとけっして突き立てた牙は解除しないな。  最近やっと頭が足先で解るようになったので、”パッ!”と捕まえて両足先でグルグリをやってやると、しばらくじっとしてて、我慢できなくなると手で”チョン!、チョン!”と発表をするだな…。  きっと、ひとしきり挨拶を交わしてから、むっくり起き上がり、白の弁当箱の馳走を”もぐもぐ”するだにゃ〜*。  これらの段取りは、決まっているので双方がそれを守ることで交歓が深ま る。  ひとしきりお互いに存分にやりたいことをやり遊び疲れるとうとうとする。  足の甲を枕にしたり、両手で爪を発てたまま、”ジンジン……!”、”ドク!、ドク!、…!”柔らかい暖かい毛先越しに波動が芯から這い上が る。  星降る寒空の何処で眠るのだだろう?!。 =(-.-)=  いつも、還りのことが気になる。  急に”ピクッ!”と耳を翻させるのは、七色の夢でも見たのか……?!。 

1997年11月7日金曜日 

昨日は、柔らかい朝日が射し込む本箱からむっくり起き上がり『……ぁ!』と挨拶をくれたチビちゃん =(・。.・)=の姿はなかった。  昼、オーブントースターでこんがり焼いたあつあつの切り餅を、薄口醤油を滲ませたたっぶり大根おろしに『ジュワッ!』とぶち込み、大根おろしの冷たいものと焼き餅の『はふっ!、は…っ!』の”恋愛対位法”を食す。  餅の香ばしさとほのかな甘みと大根おろしのみずみずしいシャキシャキと、ピリ辛でお腹が、”キュッ!,キュッ!”鳴る。  足下で、 =(・。.・)= が、ブチブチしたくちひげの顔を擦りつけ、爪を起てる。  暖かくて弾力がありそよぐ毛皮がくすぐったくてかつ痛い。  多彩で贅沢な歓迎であり礼であり、不思議と高貴なお方に”道”を教えられる歓びが ある。  切り餅4個があっさり収まった。  途中まで =(・。.・)= に見送られて出撃する。  今は、もう粉っぽく感じない”骨太チーズ”を半分チビちゃんに投げて、垣根を乗り越えて幸せな逃避行の背を向ける。  『?!、……ン』とした真っ直ぐな視線が刺さる。

1997年11月11日火曜日 

白くてふんわり丸い小さい餃子を10個と切り餅4個、野沢菜、紅玉2個、柿2個、コーヒーが夕食。  野菜中心の餃子で皮が薄く柔らかい、はけでそっとかたくり粉を落とし中火で片側が焼けたところでひっくり返し、熱湯を注ぎ蓋をして蒸し焼きにする、フライパンの中がパリパリ?!音に変わり水がなくなりかけたところでオリーブ油を流しまんべんなく行き渡らせ る。  弱火でゆっくり焼き上げる。  オーブントースターで2個ずつ切り餅を焼く、途中でひっくり返す、膨らみ始めるとあっという間であるので油断できない、見ていないとたいてい黒い焦げ目が付いてしまう、ナイフでいっきに削り落とす。  上手く焼けるとうれしい。  たっぷりの大根おろしに薄口醤油をほどよく入れた小鉢で受け、『アチッ……!』 と声を上げつつ、”冷たいおろし”と熱くて香ばしいほのかに甘いモチモチしたものを、”ピリ、ピリッ!”とした辛みを中心に楽しむ。  熱い餃子と交互にあっという間に食べ終わる。  口の中が微かにピリピリする。  味が精妙で一途であるため何か甘いものを欲する。  この星の全員にしっかりデザート用の別の”ピット”が用意されている…。  『締め切りはすでに過ぎております……、しかし原稿は2日後で結構でございます 。』 これだぁ……!、なんであれすべからず付き合いはこうでなければならない。  金色の焼き海苔の筒の蓋を”ポンッ!”と抜くと、いがらっぽいタバコのような苦い香りが立ち上 る。  ミルに適量の焦げ茶の粒を投げ入れ、激しく打ち砕いてやる、『グァウィーン……!!、ンガガ……!!、ウィーン……!』。  片手にほどよい重さの丸いものが激しく小刻みに全身で身震いする呼応と、唸る ような叫びにいつも胸がすく思いがする。  逆さまにした蓋をスプーンで”コンコンッ!”と叩き、しっとりサラサラの暗褐色の残骸を楔濾紙に丁寧に移す。  きついアルカロイドの芳香の縞が這い上がり揺らめく、すかさず脳髄の何処かでスイッチが”スイッ!”と入 る。  すでにいがらっぽい刺激が失せている。  『コロン…!』窓辺に置いたネスカフェの空き瓶からゴツゴツした壊れたサイコロを1コ取り出し、明るい黄とも橙とも見える陶磁器の円筒に投げ入れ る。  サイコロは、椰子の葉越しに白黄の眩い陽光がオームに燦々と射す南半球の眠るような入り江の光景が描かれた空色の箱に入っていたものである。  ”南の島の砂糖黍で……ナチュラルシュガー……”と ある。  ナチュラル(ミネラル)ソルトを見つけたいと思うが、出かけた時はきっと忘れているので未だ入手できない。  焼き餅をこれで食べたいし、ステーキにも使いたい。  牛の肋一枚を”キ”の字の串に磔て岩塩、胡椒で山のような炭火でじわじわ焼く南米の”アサド”の気分だな。 

1997年11月12日水曜日

丸い外形・半透明の楔に濾紙を置き、刑場もしくは行いの場に据える。  いつだって場を動かぬ円筒形、寡黙な執行者、“ずんぐりむっくり”の頭を押さえる。  透明の熱いものを吐き出す、このときはささやかな電動音を発す。  『ン…*! …*!』  抑揚を持たない恣意のかけらも見あたらず。  賜る分量の加減は、押さえる間断で行う。  ”ブツ!、ブツ!、……!”こんもりした山が盛り上がり、悦楽中枢直撃のいい匂い、好ましいものが立ち上る。  忽ち気分が満ち渡り、ゆったりした安堵と行いの高揚が体中に行き渡る。  既に、”ピット”には半ば充たされ、激しく渇望を叫んでいた体の芯がまどろみかけている。  ”ホゥー”と息をつく。  熱いものとくらくらする香を浴び、アンデスの青い山脈やジャマイカの山嶺をとりとめもなく想像したり する。  絶妙の跳躍と鎮静、昂揚、嘔気、をあてどなく放射するブルーマウンテンから逃れられない。  これの炒りたてのやつをいつかやりたいと想い続けて未だ果たさずにい る。  ジュワッとした清冽がそそり立つ紅玉が好きだ。  既にアルコール?!そっくりの香りが部屋いっぱいに這う。  そら豆の鞘のようなしっくり指になじむ形の木製の握りのナイフ。  これで深紅の皮を素早く剥く時、『…危ないっ!……。』 と小さく出た声が後頭部で決まってそよぐ。  だからそれを忘れないように、錆びないように、切れ味を発揮するため砥石でよく研ぐので、”OPINEL”の刃が柳の葉のように痩身になってしまっ た。  また石井スポーツで入手しよう……。  窓から顔を出し寒い夜気を吸い込み、『ピピッ……!!』口を鳴らす。  反応がない……。  もう一度、闇に拡散させる。  微かに”ガサガサ”音がする。  何かが起き上がる ような気配があり、小さく消え入るような返事がする、 『……ャ』 しばらく待ってると、コロコロしたものが目を輝かせて、灯りに跳び込んでくる。  入り口に出現した背丈ほどの傷害物に躊躇?!している。  乗り越えてやってきて、四肢をいっぱいに伸張させて大きく口を開けて数回伸びをする。  どうやら熟睡してたらしい。  白い弁当箱にミルクを入れるが飲まない。  カマンベールチーズを置くが 匂いも嗅がない。  机の下のお気に入りの”トウモロコシの皮の四角”で靴下を脱ぐ、寒い。  暖かいものと”ギギッ…!”と引っ掻く痛みと湿ったヒンヤリするものの歓迎?!、攻撃を受ける。  ときどき丸い頭を抱えている両足にちょっと力を入れてみる。  『ミ……ァ!』と下の方で声が する。  ひとしきり交歓が終わると、弁当箱に出かけて、真っ直ぐ一途に猛烈に飲み始める。  そうだな、挨拶?!か、遊びが先なんだ……。  ”THE CRANBERRIES”(アイルランド ロック)の”No Need To Argue/ ISLADN 314-524-050-2”と”To Faithful Departed/ ISLADN 314-524-234-2”をTOWER RECORDSで入手した。  思わず拡げた本から顔を上げて焦点を外して聴き入ってしまう。  ゾクッとする黄色いフラットな乾いたしゃくり上げるボイスから逃れられない。 

1997年11月15日土曜日 

濃い藍色の靄にけぶる夕闇を潜り抜けて、無数に舞う粉のような水塵を吸ったり吐きだしたりしながら還る。  すっぽり天を這い触手を増殖させ、空を覆う桜の垂れる枝の洞の中を急ぐ。  なにやら煙霧が降りしきる向こうに点々と橙が滲んで呼吸をはじめる。  潮が満ち海岸線を乗り越え押し寄せてくる時のような、気持ちは蒼空なのに勝手に心が身震いする序幕が開け放たれ る。  角を回り大ホールのロビーが見えたときの昂揚でもあり、買った本を喫茶店で拡げる際の期待めいたものである。  それがなんなのか、永いあいだ解らなかった。  昏れなずむときの濃い藍色が、『ごは……よ〜!! 。』の声が垣根越しの物陰から発せられた時とそっくりであったのか、短い煙突から揺らめく紫の煙がまっすぐ立ち上らなくて、あたりをますます濃い虹紫のもので覆う時とそっくりであることに、ハタ!と気づい た。  赤、焦げ茶、橙、褐色が冷ややかに濡れそびれて重なる。  地面に吸い込まれる。  いっさいが融けだし風に吹き飛ばされることなく真っ直ぐ地に刺さり溶ける。  全くエネルギーの転換がない ように見える。  鼻先のしめやかな夜気は、今日のものに違いないのだが、柔らかく紫にふすぼり息づき這い回るものは、かって遠い日に逢ったようなものとそっくりである。  ”ジー!、ジー!、……!”、遥か頭の上の天空で虫が泣いている。  仄かに青白い光を放ち、弛まず捻れたオゾンを放つ。  遥か高空の天上から波動が降り注ぎ、柔らかい脳皮質めがけて真っ直ぐに突き刺さり見えない痕跡を残す。  水塵の粉雨と共に燦々と降り注ぐ。  何もかもが眠る空の上に滑空する。  椋鳥やオナガ、カラス、コウモリ、……、賢者はその危険なエリアからとっくに退散している、が気配を感じたり気がついた時は既に手遅れなんだなぁ……!。  鼻から先頭部が鈍い疼痛に襲われる。  星が隠れた闇からひっきりなしに降下するものでなにもかも洗われて、じっと息を潜めて伏している。   灯りの中に辿り着くと、『……ャ』声が近づきみるみる大きくなる。  流しで手と足を洗ってやる。  足をお湯に浸けた途端、『ワ……ァ』嫌がって悲痛の声をあげる。  頭を前から後ろにかけて、”ゴシ!、ゴシ!、……!”、”グリ!、グリ!、……!”掻いてやると、思いっきり力を込めて首を反り返えさせ。  目を細めて悦ぶ。  床に転がせて背中から腹をなで下ろす。  手と足で人物の足とかを爪を起てたウォーキングで押し返す。  ジーンズを掴む、引っ掻く。  凸凹のカーペーットをひっかけて、仰向けになったままずって背を擦り付けてずんずん進む。  ”ゴロ♪、ゴロ♪、……♪”、”ドク!、ドク!”した鼓動とも発表とも思える波動が、足の裏から這い上がる。  何かを思い出したように、聞こえない呼び声を察知した ように、振り返りそわそわしたしぐさで見上げる。  立ち上がり窓を少し開けるとトコトコ歩いて闇に消えた。  食べ残したチーズが白い皿に転がってる。

1997年11月21日金曜日  

寒くなるときっと大地を跳躍し体の芯を激しく這い上がり、脳髄を激しく揺さぶる5/8拍子を渇望する。  それは、薄ら陽のように秘やかに忍び寄るものであったり、”ゴゥッ!”と突き抜けて吸い込まれる赤橙の夕陽の光輝の拡散がそよぐものであったり、暗く熱い生への憧れが”ビョウ!、ビョウ!”とちぎれてくるめいて赤と銀、碧紫を散らして暴れる……であったり する。  全てに秘やかだが大陸的な鷹揚な歓喜がそそり立つ。  ふすぼった欲情、荒々しい情念が土の発熱、草木のいきれ越しに揺らめき厳しく喘ぎつつ、ぐんぐん迫る。  明朗な空虚、堂々として力に満ちたキラキラした発作的感傷がめまぐるしく吹き飛ばされて、体がふっと軽く浮き上が る。  午後の激しい陽が、”カラ!カラ!” と転がる、どんどん転がる。  壁にもたれてじっとしていると、澄み切っている夏の朝空に、僅かに雲に光が射し、空いっぱいに眩い淡い光耀が漲っている水草がぎっしりと水面を被って茂り、無数のエビが草の上でぴょんぴょん跳ねる光景がよぎるである。 肩の力がほぐされ、緑や金、赤、銀、橙に輝く石ころになれるのである。  薄茶の海へびのだんだら模様の憧れ尻尾 =(・。.・)=達がずいぶんしばらく来ない。  懊悩くんもずっと来ない。 …(¨ ),( ¨)  チビちゃんが待っててくれた。  真っ暗闇から消え入るような小さな嬉しい声で応えてくれる。  『ミ……ャ、……*』 背が雨で濡れて冷たい、手と足を拭いてや る。  雨で大好きなミルクが無いので、花かつおを出す。  傘をさしてミルクを買いに出かける。  『……ン?!』机の下からむっくり顔を上げる。  太い麻のロープ(ベルト)で遊ぶ。  ズルズル曳きずると、顔を床に擦り付けて目を輝かせて鋭い眼光で捕捉する、いっきに飛びつく。  ひとしきり遊び機嫌が昂揚するとトコトコ歩いて隣室に置いたミルクをペチャペチャや る。  机の下でピンッ!としたおひげ顔を素足に擦り付けたり、冷たい舌でチロチロ舐めたり、爪を起てた手で!ちょん!、ちょん!”叩いたりしていたが、ぎりぎり引っ掻いたまま動きがまばらになり、『グル!、グル!、……』暖かい波動を送り続けてうつらうつらしよった。

1997年11月22日土曜日  

厳寒の凍てついた星降る夜、ネズミ男の灰色のフードをすっぽりかぶりN(誠一?!)君がやって来る。  鯰のような小さなまん丸な優しい目で、チャーリー・ミンガス讃を発表する。  柔らかいひげをそよがせてピーター君(オスカー・ピーターソン)をこき下ろす。  皆うなだれてそれを聞く。  ジョン・サーマン(バリトン・サックス)の渾身の燦爛たる炸裂、不屈の闘志が『♪、ドド……ッ、……』と頭上を滑空する、剥きだしの床を這う。  テニスコートの脇を通り 、黒い影を投げる楢やニセアカシヤ、ヒマラヤ杉、赤松、銀杏が吐き出す柔らかい放射能を深く吸いながら、港をめざして進んでいく上げ潮のように、青白い夜光虫を滲ませて浸透してく る。  フリージャズ信奉者達は、赤い電球の下で額を付き合わせて、松ヤニが溶けだした褐色の透き通ったものを嗅ぐ。  濃いコーヒーを口に運ぶ。  真っ直ぐ立ち上がり拡散しつつ 、たゆたう紫煙を眺め、ため息をつく。  壁に打ちつけた”」”釘に掛けた30cm□の絵をチラッと見やり、壁に頭を押し当てる。  発表が飛び交う頃、セロニアス・モンクの訥々とした俳句の世界を漂う。  これが吐息と発熱、沈殿を洗い流してくれ た。  中2階から目の大きな、髪の長い額の秀でた子が、足音を忍ばせ・息をひそめ・音もなく降りてくる。  振り向くと階段の下に、キラキラする潤んだ光の瞳の横顔があった 。  『……寒い』と小さな肩で吐露し た。  不思議の国のアリスであった。  アリスは、ときどきささやかなカウンターを潜り、中に潜り込みポップコーンを作る。  ”シェップ”の弟子?!らはストーブで餅を焼きながら 、言葉少なに密談?!を重ねる。  ”作戦”は発展的に、全員の歓びの微笑で決しられ た。  なぜ?!、如何に?!、何のために?!、何を?!、誰が?!。  ことごとく・充分論を尽くし、なんの問題もなく無類の完璧を見せた。  頭からつま先まで全身に火薬がみっちり詰め込んであって、不屈の闘志、悲観的楽観主義に磨きを掛け 、物憂げに目を細め る。  しかし、いったい何時?!……。  風の吐息が失せ静穏に覆われた。  カンカンと足音が還る星降る闇の下、背を丸め”マリオン・ブラウン讃”君が往ってしまう。  閉店の発表の曲を想い出せない。

1997年11月24日月曜日  

昼間のチビちゃんは、落ちつきがない。  昨日の夜更け、大好きな机の下で丸くなって顎を床に置き突きだしてうつらうつら。  目を丸くしてゴロゴロをしたり、机の足置きバーにぶら下がったり、トウモロコシの皮で編んだ座布団を引っ掻いたり 。  実に得意そうに・周りを制圧する気迫・唯我独尊・神々しいまでの充足の時間の流れる空間で爪を研いでいた。  が、ふっと想い出した ように窓際で上を見上げる。  高窓を8cm程曳いてやると、音もなくヒョイっ!と跳び上がり、”ブルッ!”と全身を起動させてから、闇の冷気に吸い込まれる。  しばらくしてから突然、北の窓が『ガタ!、ガタ!、……!』身震い する。  毎度のことながら、『……ッ!』 として拡げた本から顔を上げる。  American Method Fly Fishing(アメリカン・メソッド・フライフィッシング)を置く。  チビちゃんが網戸によじ登り爪を研いでいる?!、激しく揺すってい る。  『……ッ、( ¨)』 少し開けると入ってくる。  自分のお皿でちょっと食べて、やがてまた南の窓から還っていく。  朝、目が覚めるとすぐカーテンを引き外を見る、横殴りの眩しい光輝を浴び 、澄明なササの中で丸くなって寝そべってい た。  上から挨拶すると、顔を上げて『……〜ャ』掠れ声が反射する。  ”ケンウッド! カピバラレストラン UA(うーあ)”(CAPYBARA RESTAURANT)を聴い た。  危うさと奔放、タイトな観察・発表、真摯、図太く感じさせる?!潤いのある太い芯のあるボイス。  ちょっと鼻に抜ける青臭さが混沌としてパチパチ弾ける闊達に曳かれる。   タラバガニを焼いた。  ぶつ切りのパックから焼きごたえのあるボリウムの足を選び、グリルで焼く。  青白い体液が流れ出している。  包丁で削いだ、ムッチリした奥深い淡泊の豪華の部分に 、焦げ目が付いた付き始めた時が食べ頃のようだ。  パリパリとした身をフォークで外す。  淡泊なカマスと同じく、焼くよりは、焙るようであらねばならぬ。  パリパリした歯ごたえ、カルシウムの焦げた香ばしい薫りを食す。  外すのに疲れた。  一方は鍋にする 。  ジンジンした爛熟、豊満、喚起、滋味が精妙に浸みわたり、行き渡りさざめく瞬間があり、しばらく体中がホクホクと饗宴する。  外殻の惨憺に、心がいささか荒む。

1997年11月27日木曜日  

轟々と、ビョ…!、ビョ…!と大気が叫ぶ。  ドォ…ォ!、地が軋み地鳴りが這い上がるようである。  激しく憤怒の肩をそびえさせて闇が走る、光るものが冷たい筋となって闇を切 る。  パタパタとはためき転がる音がある。  ヒュー!、ヒュー!、ドドーゥと地を駆け抜ける。  横殴りの小さな滴が顔を撲つ、手足を撲つ。  赤、朱、橙、褐色の葉っぱがパラパラ走る、滑空 する。  黒い木影が全身をくねらせ、むずかり発狂しつつ踏ん張る。  こんな雨風の疾走する闇の奥で待ってるものがいる。  『ミャー……〜、ウゥー……〜ゥ』投げつける ような引き裂くような声がする。  暫くすると、灯りの中に茶と黒の斑が現れる。  声から想像する荒涼は微塵もなく、尻尾をピンッ!と起てている。  いつもの丸顔でコロ…*コロ…*のボディーに精気が満ちている。  大気の憤怒、格闘で血が騒ぐのか?!、野生が呼び起こされるのか?!。  やはり顔を上げて大きく口を開け、『……〜ャ!、……ゥ〜ゥ!』 全身を引き絞り激しく言葉を投げつける。  玄関までついてくるが、入らない、待っていても足を突っ伏し、口を開いてなにやら叫ぶだけだ。  窓を少し開けておくと、いつもはすぐ闇から跳び込んでくるのだが、声がするが現れない。  ドタドタ……、ギャ……!、フー……ッ!、格闘の勇ましい気配、なにやら噛みあい走り抜けるものがあり。  しばらくしてまったく穏やかな、先ほどの声は?!、とあっけにとられてると。  『ミャー……(゜∇゜)』とコロコロしたものが駆けてくる。  不思議と手と足はきれいなので、拭いてやろうと待ちかまえていたががっかりだ。  やはり自分の皿に向かうことなく、大好きないつもの場所でごろりと寝そべる。  シンディー・クリフォードに似た 、鰓と肩のはった目筋が涼しい人物がいるテレビを見ながら、膝に乗っけてゴロゴロをやる。  ほどよい重さ、”ドク!、ドク!”と”ドロ!、ドロ!”が混沌と混じった波動と音が直に響いて気持ちがいい。  ぬめぬめサラサラ、暖かい白い腹を撫でると極小さな乳首があった。  ザラザラの舌で指をゴシゴシやられたので、顔の骨をつかんでやったら、それが気に入ったらしく、いっそうゴロゴロのパワーを上げやがったので、しばらくそうしてい た。  ひとしきり遊ぶと皿に向かった後、外に行きたいらしい発表があったので窓を開けると、ゴーゴーと夜が叫ぶ雨の中に出かけ、しばらくして戻ってきた。  何処いってた ん?!。  教えろや、チビちゃん……。  伊藤君子のA NATUAL WOMAN/ ESCA 5089を聴く。  からっとしたややハスキー、ストイックなボイスがひしひしと押し寄せ、背筋がそびえ立ち無窮の悠々たる水の流れが”そよぐ”。

1997年11月30日日曜日

Jacques LoussierのPlays Bach を聴く。  ポップスであった、”そよぐ”ものが皆無である、音波動がするする通り抜ける。  寒い玄関に立つ書棚から文庫を取り出す。  全てカバーが掛かってるので探すのに時間がかか る。  カバーは、8種類ほどであり、ずいぶん古いものもある。  嫌いな柄、大好きな柄がまったく勝手に整列している、ごく近所で買ったものや、北や南、東に出かけた折りに買ったもので ある。  ほとんど鉋掛けしてない日曜大工の定尺の材木をそのまま使い、高さ1.8m、幅0.6mの文庫本とぴったりの奥行きの棚が10段ある。  玄関の壁にぴったり沿って立ってい る。  下駄箱の上には、縦横0.9mのものがあり、同じく文庫専用のぴったりサイズの5段の棚は、とっくにビッシリ埋まっている、その上に300冊近く平積みになってい る。  また本棚を作ろうと、日記を書いていて想う。  これらの文庫本と最下段のハードカバーを無造作に抜き取り、タイトルを見ていく。  ”全国食えばわかる図鑑/椎名誠/集英社文庫”と、”小さな島からの手紙/田村隆一/集英社文庫”、”もう一度オクラホマミクサを踊ろう/森瑤子・亀海昌次/集英社文庫”を見つけて取り出す。  別に特定の本をさがしていたのでなく、『なんか無いかな……?!』と思い、寒い廊下?!に佇んでいたのである。  全国食えば……の巻尾あたりの『タマネギは一番エライ!……、キャベツはよくできたヒトだ……、トウガラシに強姦をみた……、ナスもキュウリも実力不足……』をパラパラめくり好きなところを読み返し た。  ザ・ベスト・オブ・サキ I…… II/中西 秀男 訳/筑摩書房や、サキ傑作集/河田 智雄 訳/岩波書店、サキ短篇集/中村 能三 訳/新潮社などの文庫もきっとどこかにあるはずなので、見つけだして正月にゆっくり拡げようと思う。  サキは前者のように、文体に少なからず曳かれるところがあるわけでないが、多彩な発想が意表を衝いていておもしろく、無駄がなく見晴らしがとてもいい、ドライブ感でないがアレグロで侵攻(≠進行) する。  個にして普遍であり模倣を激しく拒む。  いっそカバーを外してしまえば見つけやすいのだが、活字の延長線の先端にある人生混沌の秘密の情熱としての理性が漂流する場の構築をめざしたいので、ずっとそのままにして ある。  チクリとピンで心を刺されるそのことを先刻承知であるのでむしろ醒めた、心を『ポ〜…ンッ!』と、どこかに放り投げて立ち向かえる爽快がある。  読んだあとできっと、映画館から出て白昼の痛い光輝を浴びてくらくらする ような、午睡から醒めた時のような、『ゴウッ……!』と気圧が希薄になるような裏切りがあり、前頭葉が鈍い疼痛を覚えるので手放しで嬉しくなれないのだ。  だから手元の本棚に置かない。

1997年12月1日月曜日

=(・。.・)=チビちゃんが横殴りにカラカラの朝陽のシャワーの中で遊んでいる。  近寄ってカメラを向けた。  本を拡げていると、いつのまにか勉強部屋に入り込み、爪が上手く架かるレースのカーテンによじ登ったり、『ワッ……!!、∞∽∝』はためかせて立ち泳ぎ?!をしたりして遊んでい る。  耳をピンッ!と起てて目を輝かせている。  白の尻尾が長い口元にワンポイントがあるキツネ顔のオコジョがやってきて首を長くして覗き込む=(¨ )=。  ゼイ!、ゼイ!喉を鳴らしていた大きな茶の三毛が鷹揚に訪ねてくる。  『?!……ンッ!、……』顔を近付けてくる。  たっぷりのミルクを空中テーブルの鉢に注ぐ、またもや白いものが頭にかかってしまっ た。  『ミャー…… **』 喉が回復したようだ。  ”海へびのだんだら”模様の長い巻き付き尻尾が大好きな薄茶の三毛は、やはり来ない。 (−.”−;)   夕刻に食したもの。  サーロインステーキを強火のフライパンで片側に焼きを入れる、裏返してオリーブ油、ニンニクの薄切り、しめじらを投げ込み、きっちり蓋で封印してから弱火で全てをじっくり火炎地獄で攻撃 する。  ニンニクから香ばしい匂いが飛び出したら大きな皿に移し、包丁で切り、薄口醤油をかける。  この密室煉獄攻撃は、肉などのエキスが上手く回収出来るので、壮烈がそびえ炎上 する。  こんどタラバガニで応用しよう。  形のいい大きな焼きナス、熱いままフォークで引っかけ皮を剥く、七味をちょっぴり。  小松菜のお浸し、炒りごまを叩いてパラリッ!。  大根おろし。  スープの類は、今日は(…も?!)なし。  

1997年12月2日火曜日  

STEPHEN MCCRAVEN/ SONG OF THE FOREST BOOGARABOO/ WM WMM-9505/JAZZ から逃れられない、ついつい立ち上がり”猫の棚”に向かい手を伸ばす。  清々した視野と胸の広がりがあり、燦たる落日の中に長い影を曳いてとぼとぼと往くのである。  机に向かったまま頭を上げて焦点を外し大きく息を吸い、淡くてキラキラした夕方の漂泊に出る。  息苦しい植生の猛茂に絡みつかれて、バタバタとはためくものに精気が吸引される。  地から生え屹立する竹のようにかっちりした構造物を吹き抜ける笹風がそよぐ。  精緻、澄明、、発熱、鎮静、が混沌と慄然と弾けてたゆたう精妙なホーンの饗宴に身ぐるみ絡み摂られて身動き出来なくなる。  観念的な危うい魅力的な正体の知れない火薬が詰まった蜜壺が仮死のなかで揺らめく。  ゆったり椅子に体を伸ばしテレビを見ながら胸のうえに(^ ^)チビちゃんを乗っけて、ゴロゴロをやりながら頭のうしろから背を撫で下ろしていたら、ぐっと首を伸ばしつつ身を乗りだし人物の顔に激しく登ってきた。  両手でしっかり捕まえて阻止する、力を込めなければならなかっ た。  もう少しで鼻を舐められるところであった。  =(・。.・)=専用の玄関”∩”と寝床を作れば、寒い夜空の元へ還らなくてもいいのだが……。  還るところは、まだあるのだろうか?!……。

1997年12月5日金曜日  

ひんやりする玄関に佇んで、本を探す。  結果的に分類して棚に分けたり嫌いになった作家の本を捨てることになってしまう。  眉村卓や村上春樹、半村良、五木寛之、筒井康隆、星新一、阿刀田高、その他いわゆる大衆文学の類の作家ものを捨てる、迷いつつ踏みとどまったのが立原正秋、井上靖、山下洋輔、群ようこなど。  ずいぶん前に山下洋輔の”ピアニストを笑え”などのスピード感(≠ドライブ感)とドタバタ文体にホホウッ!と感心したことがあったが、後から実に”いやな気分”がふつふつと湧いてくる来ることがたびたびあり、すっかり嫌になってしまっ た。  筒井康隆にもまったく同じことがある。  いわゆるエンターテイメントであって文学でない。  面白いがささやかな幸せすらもたらすことがない。  別人になり切って立ち向かう機転が必要であるのは、そのジャズでもまったく同じで ある。  でも読んで始めてそれが解る、人生ままならぬ。  正月に読み返そうと企んだのが、読書巷談 縦横無尽/谷沢永一/講談社文庫、名著ゼミナール 今夜も眠れない/開高健/角川書店、スーパーガイド サンフランシスコがいちばん美しいとき/丸元淑生/文春文庫ビジュアル版、来訪者/ロアルド・ダール/ハヤカワ・ミステリー、飛行士たちの話/ロアルド・ダール/ハヤカワ・ミステリー、悪魔の辞典/A・ビアス/角川文庫、ぼくの性的経験/田村隆一/徳間文庫、丸元淑生のシステム料理学/文春文庫、料理のお手本/辻嘉一/中央文庫、新檀流クッキング/檀太郎/集英社文庫、ぼくの美味求新/三国清三/PHP文庫、これらを棚から引っぱり出し机の近くの手を伸ばせば届く書棚に移し た。  サイズが同じなのでずいぶん前から手元にそびえる棚にCDが侵出している。  何とかしなければ。  CDの一掃は、電車に乗ってディスクユニオンまで運ばなければならない。  大きなカバンがいるなぁ……。

1997年12月6日土曜日 

すっきりした気分が欲しくなり、本やファイルの整理をした。  いわゆる5cmキングファイルを約30冊、雑誌やハードカバーを約4m高を捨てた。  中味を見たり、ビニール紐で結わえたり、束ねやすくするため分類したり昼前に始めて終わったのが日没前。  本は抱えて運べる60cm高ずつに束ねる。  ゴミ箱までひたすら往復を繰り返し腰が痛くなった、明日はきっともっと痛くなるだろう。  本棚が空いたり、床が広くなったのは気分がいい。  もっと早くやればよかった。  また文庫本の探索をした。  軽くていい。  パリの料亭(レストラン)/辻静雄/新潮文庫、よい匂いのする一夜/池波正太郎/講談社文庫、辻留のコツ 家庭料理/辻嘉一/新潮文庫、料理人の休日/辻静雄/新潮文庫、魯山人味道/北大路魯山人・平野雅章編/中央文庫、日本料理のコツ 関西風おかず/谷口博之/新潮文庫、真空の海に帆をあげて/アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫NFを抜きだし暖かい部屋に移し た。  ”ずいぶん前、真空の海に帆をあげて”を開いたとき、何時かホームペイジを持つことがあればこんな広大なエントロピーがはためくイメージのタイトルにしようと密かにぼんやり想っていたんだぁ……。  やっぱり”太陽風ДζΨΠ∀”より”真空の海に帆をあげて”のほうがインパクトがあり清々してて幸せになれそうでいいなぁ……。

1997年12月10日水曜日  

お昼は、切り餅2こをオーブントースターでこんがり焼いた、今回はタイマーで上手く焦げ目が付いた。  中がトロトロの玉子焼き、カフェオレ。  チビちゃん=(^。 ^)=が来た、玄関にトコトコついてくるしばらく待っててやると意を決して跳び込んでく る。  時間になったので大急ぎで濃密な”ゴロゴロ”をたっぷりやる。  直しの毛づくろいの猶予が無い。  雪印 毎日骨太ベビチーズを囓りながら外風を吸う。  振り返ると『……!』追いかけるのをあきらめてちょこんと座っている姿が小さく見える。  引き返したら……?!。  音楽は、SALIF KEITA/ "FOLON" THE PAST/ CIDM 1187/(アフロポップ)    優しくたゆたう”6/8拍”が地から這い上がる。  脊髄を、目眩く燦たる爽快がそよぐ。  ”カラ!、カラ!”転がり”グン!、グン!”のた打ち、”ヒュウ!、ヒュウ!”駆け抜け る。  しなやかな、のびのびした西アフリカ(Mali)の蒼く高い天が、青や金、赤を散らして飛翔する。  乾いた寂寥と無垢な優しさ、剽悍な憂愁に圧倒され形を失う。  空気のようにありがたくて、水のように大切なのに存在を忘れる。  ウー……茶のように、哀しく沈殿し澄明になる。 

1997年12月16日火曜日  

西の空が黒々としたもので覆われる頃、天空は澄み渡り仄かに碧く眼を凝らすと白い雲がポッカリ取り残され浮かんでいる。  シンシンと冷気と全的寂寥に覆われる頃、どこからか小さな呼びかけが ある。  『ミャ〜〜……!!』 腹と足がしなやかな白い毛に覆われたコロコロした暖かそうなものが灯りの中に跳び込んでくる。  尻尾をピンッ!と起て、足音を一切たてないで駆けてく る。  突然、玄関の前で地面に転がりゴロゴロをやって見せる。  鉄のドアを開けると人物より先に勢いよく真っ暗闇に吸い込まれた。  =(・。.・)=は、散歩の時でもなんでも人物より先に、あるいは平行に塀とかに跳び乗り随行、先導する生きものなので、嬉しい限りである。  やっと遠慮も警戒もなくなり、まったく自然の赴くまま優雅としなやかな不羈の王たる尊厳が滲み出している。  よろしい!。  声が少し掠れている。  鼻面をしきりに足に擦り付けてくる、ミルクを注いでも飲まない。  やはり触れ合いを渇望しているのだ……。  急いでいつものゴロゴロに取りかかる、頭から背を撫で下ろす。  指にひんやりした鼻面を強く擦り付けて首に力を込めてグングン押してくるので、顔を片手で掴んで仰向けにして腹をグリグリする。  暖かい体温とふかふかの毛が指先を滑る。  仰向けになって足をグーンと伸ばして眼を細めて『ゴロ♪、ゴロ♪、……♪』喉を鳴らす。  疲れたので止めると、竹の穂先にぶら下げたロープに跳びついたり、顎と全身を床にぴったり擦り付けて尻尾をピクピク動かし目を輝かせて、じっと跳びつく間合いを取ったりして跳びつき、”ドタン!、ドタン!”暴れてい る。  遊び疲れると真っ直ぐミルクに向かう。  壁に寄り添ったり窓を見上げたりするので、きっと外に行きたい衝動が起きたのだろうと察して立ち上がり南の高窓を少し曳いてやると、跳び上がって闇に消え た。  しばらくすると、北の網戸が突然、『ガタ!、ガタ!、……!』激しく音を起てた。  『カリ!、カリ!、……!』網戸に爪を起て1mほどよじ登った白い毛の腹がぶら下がってい る。  大きく口を開け目が大きく見開いている。  激しい息づかいがガラス越しに迫る。  野獣だ!。  静かな寒い夜に澄明で暖かいキラキラ輝く潮が渺々と襲ってきて、全身にアークが弾け、肩からのびのびと発散するものを求めて立ち上がり、ねこの棚からジャズを引っぱり出す。  DUKE PEARSON/ THE RIGHT TOUCH/ CDP 7243 8 28269 2 7 と、DUKE PEARSON/ I DONT CARE WHO KNOWS IT/ CDP 7243 8 35220 2 6/ CDP 7243 8 35220 2 6がしだいに部屋を暖かくする。  ゆったりとたゆたう南方の海流が滔々とうねり燦たる日差しの中を進む。  すっかり視野と胸が広がる想いで蜜の時間が流れ始める。

1997年12月19日金曜日  

Manhattan Jazz Quintet のSidewinder(JAZZ)を聴く。  ふやけただらだらした、いわゆるラウンジジャズであり心奪われることがない。  風のように流してもつまらない。  何処かで聴いた一節が所々で顔を出す。  しかし脳の奥深く沈潜したり精神をつついたり鼓舞することがないので気持ちが晴れ晴れできない。  時間がだらだら流れる、精神が疲労しないようにすぐに止める。  Jim Hall / Conclerto/ 7464-40807-2 を引っぱり出す、いつ耳にしても抑制のある爪弾きが深くしみじみ浸み渡る。  精気に満ちたすがすがしい端正な、CHET BAKER/ THE BEST OF CHET BAKER SINGS/ LET'S GET LOST/ CDP7 92932 2 枯れ草の些か毒のある匂いの這う、正面に湿った諦めきれない太陽があり、眩しい。  黄金の光に覆われた喝采が、『ワッ……!』と辺りから興り そうな豊饒の荒野。  漠とした憧れを小さな胸に隠し、あてもなくさまよう純粋な遊びをする。  迫りつつそそり立ち、キラキラ、グングン上昇しつつ開くPaul Desmondを吸収する。  Rudy Van Gelder *の地を這い楠の葉陰でくつろぎそよぐ波動を浴びる。  精緻な定位から醸し出され沸きたつ壮大で澄明な楔が打ち込まれ、息が止まる。  なんという悦び。  チビちゃん =(・。.・)= が、赤いオレンジのホットカーペットでへびのように体をくねらせる。  声の掠れが未だよくないようだ。

1997年12月21日日曜日  

風の凪いだ曇った星月夜、ウバメガシの葉陰で『カリ!、コリ!、……』密かに生き物が活動する音がする。  全身が白く茶の大きな模様のキツネ顔のオコジョが『ン……?!』、眼を大きく見開き近寄ってく る。  まん丸の眼に驚くほどたくさんの透明な光が射している。  たっぷり太くて長い薄茶の段だら模様の尻尾に、微塵の火華がほとばしる意志が詰まっているらしき気配に嬉しくな る。  窓を開いても首を伸ばし鼻を”フム、フム”するだけで入っていらっしゃらない。  ミルクを鉢に注ぐ、しっかりした音を起てて飲む。  =(・。.・)= によりこの悦びの発表音は、さまざまでその大きさや音色も異なり、ハッ!とするほど明瞭なものもいる。  ずっと懊悩君とその同胞がお姿を見せない。  今頃、何処でどうしてるんだろう?!……。  例によって”ねこの棚”から取り出し、 淨潔の砂丘を渡るしなやかな松風を吸い。  沖からやってくるキラキラの光輝の反射を浴びつつ、怪奇小説傑作集 2/ジョン・コリアー他/宇野利泰・中村能三訳/創元推理文庫と、年刊SF傑作選 1/ジュデス・メリル編/中村保男訳/創元推理文庫を寒い玄関の本棚から探し出して拡げ る。  大根とシジミの赤だし、”うるめ一夜干し”(佐伯市山田水産)、焼き海苔、シャキシャキの小松菜のお浸し、ピリ!ピリ!大根おろし、蜜入りリンゴの遅い夕食。  うるめ一夜干しは、新鮮が保たれてて焼くと”パチン!”と弾けた、ホロ苦い峻烈、幽遂に精神が開く。

1997年12月22日月曜日  

Charlie Haden、QUARTET WEST/ In Angel City/ VERVE 837 031-2   を取り出す。  Ernie Watts(リード)がむずかり踞ったり縋りついたりする。  闊達がのびのびしなやか自在に肩から揮発する。  コーヒーの豆を求めていつものショップに入ってみた、ブルーマウンテンだけが売り切れであった。  明日また行ってみる。  電子レンジで豆を加熱するとどうなるか実験してみよう。  夜、UA(うーあ)の”ケンウッド、カピバラレストラン”(^^)を楽しみに待ち、幸せな蜜に充たされた時間を過ごす。  『もと子さんがつみれ鍋……、……ラードが使いこなせない、 アナイスニンの日記から……、……チャナランビー、シーンとなると何かが聞こえるといやなので……、もう少し大きくなってからは、……、シャロームっていう歌知ってる?!、どこかでまたいつか遭えるさ、また逢おう……八番まであって、このところまたまた…あの……ポエマー時代やってきてましてかなりま…あの〜グイッ〜と波の上のとこなんですけども……、いまその四曲と言うのはわりとハワイアンだったりジャズだったりボサノバだったりして……、さっきもモンベタブルースと言う曲を掛けたんですけどもビユリーさんというスパイクリーさんのお父さん……、ニューヨークでその子に逢ったことがあって……、その子が吹いてると聞いてすごく嬉しかったんですが……、年末年始ニューヨークからお届けいたしま〜す、てな感じですわ!。  ではサヨウナラ!!……』 机の下で丸くなってうとうとしているチビちゃんの後ろ首を掴んで膝に乗っける、重くて暖かい……。  ピンッ!と左右に突出したお髭を触るととても嫌がる。

1997年12月24日水曜日 

昨日は一日中、 =(・。.・)=チビちゃんと一緒にいた。  ジャズをずっと聴いていた。  掃除機を引っぱり出し窓を開け放ち北風を通しながら吸引を始めると、机の下でうつらうつらしていたチビちゃんがそわそわし始め窓から急いで跳び出して行っ た。  一太郎8で年賀はがきの”表書き”をやってみたら郵便番号が枠に収まらない、印刷位置調整でもあかんので、Word97の”宛名書き”でやってみたらグーンと上手くいっ た。  横書きの行書体といった調和を欠いた仕上がりにしたが、フレキシブルな表現ということとした。  ”Hello Kitty”のはがきが余ってしまった。    (^.^ ;)  夜、いつもの生餃子を仕入れにスーパーマーケットに行く。  いつか無性に”ぎょ……”を渇望した時に、脇目をふらず真っ直ぐにこれ一本に全身で戦いを挑もうと想ってたので、それをやるつもりであっ た。  ギアを着込み札をポケットにねじ込み玄関に降り靴に足を押し込んでいると、風のように =(・。.・)= が起き出して心配?!そうに見上げて『ミャー〜〜!!』と小さな発声を浴びせる。  妙に明るく雀の会話のみがうるさい遠い日、槇囲い越しに西の蒼い山を見上げてしゃくり上げていた心情がかすめ る。  鉄の扉を『ガタン…!』と閉ざす。  きっぱりした冷気が降りてくる夜気を深く吸いながら広い道路を縫って進む。  室温で暖められた顔が冷気を切り裂き『ビョウ!、ビョウ!、……!』と渦を巻きながらずんずんちぎれていく。  天が高く仄かに蒼い、青白い点光が淡く明滅する。  蛍光が滲み広い道が蒼白で佇む。  冷気のトンネルをずんずん潜り抜ける。  品物が山のように積み上げられ、正月の垂れ紙で満艦飾になったいつも見慣れた棚は、いささかかってが違っておりいつもの場所にいつものブツがいないので困ったりもし た。  が総体的には、日頃見られない大きな鮭やタラバガニがドーンと溢れかえっていたのでそわそわした。  両手にぶら下げた食料をぶちまけ冷蔵庫や棚に移していると、先ほどの置き去りの小さなコロコロしたお方が悦びいっぱいの顔と体で走り寄ってく る。  『……!』『……おくれ!!』 ”うるめ一夜干し”(佐伯市山田水産)をパックから取り出し、頭と尻尾をナイフで切り落とす。  暗赤の血がドロリと見える。  『ウワァ〜ゥ、ウワァ〜ゥ』全身に好感を漲らせてあっという間にやっつけてしまう。  尻尾を確認するとすっかり食しているので親密がたちこめる。  白くて薄い危うい皮の片面を焼き薄く焦げ目が付いたところでひっくり返し、熱湯をたっぷり注ぎ蓋をしっかり閉じ火力を最強に する。  注意深く蒸し焼きを見守り、”パリ、パリ”音がする気配でオリーブ油などをタラリと落とし、カラリッ!と焼き上げる。  ラー油はなし、皿に盛った熱いやつを、『ハフ〜ッ!、……!』とやっつけ る。  よい付け合わせが思いつかない。  蛤と三つ葉、分葱のお澄まし、塩梅が精妙で危うく難しい。  デザートは、コロネットと甘いコーヒー。  ”POMPADOUR”のシナモン”ホッコリさん”を明日は、きっと買うて来よう。

1997年12月30日火曜日  

すっかり暗くなった頃、中に入る前に口笛を吹く。  『……ャ』小さな声がして丸顔の暖かそうなものが駆けてくる。  灯りの中に入ると尻尾を起ててその先を激しくくねくね動かしているのが解 る。  入り口の前で地面に背中を擦り付けうれしそうにゴロゴロをやってから、素早く暗闇の中に駆け込む。  未だ暖かくない机の下のお気に入りの毛皮の座布団にもぐり込む。  急いで着替えてエアコンやらホットパネル、オーディオ、パソコンの電源を入れる。  顔と手を洗って米を洗いコンブを入れる。  コンブが水を吸うのでその分水を増やす。  マーケットには、食べ物がドーンと溢れかえっていてうれしくなる。  しかしいつもの生餃子と”うるめ一夜干し”は、すっかり正月ものに占拠され姿がなかった。  すっかり意欲が失せてしまっ た。  独特の青の大きなクワイが出現している、やはり”Internet Explorer 3.x”のアイコンとそっくりであった。  締め鯖は、ほんのり甘くてナトリウムのくどさを突き抜けた滋味が立ちのぼり、端麗がたっぷり拡がり想ったとうりであったのでうれしい。  冷却棚に並べられたばかりの虹を帯びた青とくっきりした赤に違いがなかった。  しかし時間が経ち塩と酸が回り切るとくどさを越えられないで泣いてしまう。  深夜、”クノール ポタージュスープ”を作っ た。  水量を計量カップで計る、うまく出来た。  今度、生クリームを入れてみたい。  ポンカンを食べた、瑞々しくてホクホク淡い甘さを確かめる、そうでなくちょっぴり苦いものが混じってい る。  本物の熊笹のお茶を渇望する。  大きな笹の葉っぱを茶の湯に眺め、きっと白樺林を渡る涼しい悠々たる澄明な風で心が晴れ晴れ気化するようなもんだだろう。

1998年1月1日木曜日  

木/幸田 文/新潮文庫を開く。  瑞々しい静謐な奥行きが拡がる、大理石のように精緻な文体に吸い寄せられる。  確かな日本語が放つしなやかな活力に感じ入ってしまう。  きわめて無理のない超自然文体に安心しきって、メリメリと起き上がりそびえる活字にすっかり心奪われ、見晴らしのいい展開にずんずん踏みこんでしまう。  驚いたことに真っ先に最も興味を抱いた文体であるのに、何一つ段が後に曳かない。  無理がないこの文体にますます驚く。  見事な文が媒体であってその人物に心奪われていたということに、ハタと気づく。  量が質に転化するように媒体である文体が本質になることはかなわないのか?!。  手段が目的に転化することもそうなのか……。  ARCHIE SHEPP/ On This Night / GRDD-125 (「近藤サト」のボイスじゃないよ、でもそうだといいなぁ!。 そいつはあの黒い太い柱の隅の暗い部分に、たしかについ先ほどまで息を潜めて存在したのだ…。)、ARCHIE SHEPP/ A SEA OF FACES/ BSR/0002/ LP   、CECIL TAYLOR UNIT/ DARK TO THE THEMSELVES/R2 79638  を引っぱり出す。  リードの絶叫、鼓の惨殺、弦の暗鬱で熱っぽい沈潜と跳躍の具体的感動に充たされ、全身が発光する混沌に浸る。

1998年1月4日日曜日 

激しく駆けめぐる幸せな冥界から還ったのだと気付くと同時に、足が何ものかに押さえつけられているらしい気配にむっとする。  =(・。.・)= が顔を埋めて丸くなり熱線を放射しているらしいので、地下から不意打ちに襲撃してやった。  いっこうに驚くことなく伸びと爪研ぎを同時に始めやがった。  朝、フランスパンをパン切り包丁で斜に切り、オレンジっぽい黄のマグカップに注いだ牛乳をレンジで暖める。  ミルに適当のコーヒー豆を入れ粉砕する。  キッチンに立ったり冷蔵庫を開けに立つと、丸くなって顔を抱えてうつらうつらしていたお方が、いつの間にやら眼を輝かせて尻尾をピンッ!と起てて足下に纏わり付き離れないので踏んづけそうにな る。  誰かがまったく同じことをしていたようだ……、と想うがすぐに消える。  チーズかハムを切り取って投げてやる。  この一日の句読点、共同儀式を決して裏切ることがないので妙に感心 する。  『ガリッ!、ガリッ!、……!、ガガ……!、ィ……ン!』 微かに豆の匂いがする、タバコの匂いそっくりだ!。  ミルの音が嫌いで、『……パッ!』と跳び上がり走り去 る。  角の取れた白いものを2個投げ入れ、逆さまにした蓋を同じ明るい黄色のカップのカリタの上で『コン!、コン!』、スプーンで叩く。  いい色の粉が後頭部のスイッチをカチリと入れ る。  ポットの鼻から濛々と立ちのぼる透明の筋を濾紙に注ぐ、やっといつもの匂いが立ち上る。  日比谷公会堂の長いアプローチをゆっくり登って行くような不透明の期待がいつも興 る。  粉っぽさがホクホクした触発に感じる雪印”毎日骨太”とスルリと滑らかな開花の森永”アロエ ヨーグルトケーキ”の対比としっかりしたたかな粘り越し腰のパンをガシガシ噛む。  夜、食す。  コンブ、蛤、牡蠣、大根、タマネギ、三つ葉のお澄まし、”うるめ一夜干し”3尾、大根おろし、野沢菜。  DON CHERRY/ BROWN RICE/ 397 001-2 を探しだし、滔々と荒野を渡ってくる寂寥を浴びる。  JOHN SURMAN/ ADVENTURE PLAYGROUND/ ECM 511-981-2 のウォッカの澄明な見晴らしのいい果てしない原野探索の快い疲労と、鎮静した情熱の炎上を旅する。

1998年1月5日月曜日  

『ピッ…!、ピッ…!、…!』、遥か……万光年の彼方、第七銀河の暗黒から送られてくる非情の発信音で、”狂気の文明からの偉大な逃走” から唐突に引き離される。  真空の放心の楽しみから有酸素の ”認識が現実を食い破ると呼ばれるある褪めた狂気の状況、地上の現実” に立つ。  無重力で無音の目にも止まらぬスピードで狂奔する世界から、重力に支えられ半身が疲れに覆われた時間の静止した時空に飛び出す。  暗闇の冷ややかな砂浜を這い、小さいのや古いのが群れそびえる松林を乗り越え、微かに海鳴りが伝わってく る。  小さな携帯目覚ましで覚醒する。  すっかりスチーム暖房が冷えてしまった真っ暗のベッドから起き上がり、重い頭のまま防寒具を着込む。  この沖に向かって幾筋もの深い溝が走っている暖かい海の砂浜に、満ち潮に乗って鱸やクロダイ、ワカシ(鰤の幼年)が接近してく る。  昼間、波打ち際に立ち白い波が崩壊するあたりにじっと眼を凝らすと、立ち上がった波頭 ”)” に小石がわらわらと巻き上げられるのがアクアマリンに透けて見える、さらに凝視していると黒い影が一瞬すばやく横切るのが見える、ワカシである。  大きな重いリールの付いた投げ竿と、重りやルアーの入った袋を持って薄暗い廊下を通り、吹き抜けがあるよく磨かれた階段を降りていく。  壁に精細な生物が描かれた絵が掛かっている。  ”ミシッ!、ミシッ!”木作りの階段が音を起てるのでそっと降りる。  一面の松林の中を歩く、真っ暗闇の中を懐中電灯で進む、照らされた松の木の幹の色彩が覆い被さ る。  『ドー……ゥ!、ゴー……!』 夜の海が憤怒の咆哮を弛まず上げている。  一頭のとてつもない巨大な生き物の息遣いのようであり、悲嘆の叫びのように思える。  無数の生き物のはためくユニゾンとも思える。  灰色の滔々とうねりうち寄せるものが暴れている。  とてつもないエネルギーの変異を目の前にして畏怖とも憧れとも思えるものに襲われる。  甘い潮風の引き締まったヒリヒリするキックですっかり目が覚めてく る。  はやる気持ちで冷気でこわばった指で竿を繋ぎ、ラインの先に遊動式の紡錘形の重い浮きと、1.5mのリーダー付きの”ラパラCD9RT”(ニジマスを模したカウントダウン フローティングルアー)を結ぶ。  怒涛の飛沫の向こうを目指して5、6歩駆け出し、思いっ切り振りかぶり白い浮きを飛ばす。

1998年1月6日火曜日

『ゴー……ゥ!、……ゥ!』彼方から湧き起こり暗鬱な籠もった、全世界を構わず平等に呪詛し続ける、荒涼たる襲来で着水音は解らない。  たいていゆっくり、たまに速くハンドルを回す。  還る波でググッ!と重くなる度に『ン……ッ!!』心臓と気持ちがはためく。  波先がうっすら白く見え始める。  潮が浜に沿って流れているため北か南にラインが曳きづられ る。  しかしこれは、好ましいことなのだ。  東の地平がするすると白くなりやがて山吹の橙に染まり、だんだん拡がり東の空いっぱいに溢れる。  体の芯、指先、頬がジンジンしてくる。  くの字に羽を手折ったたくさんの鳥が低く波打ち際に沿って空を自在に切って翔ていく。  振り向くとなだらかな低い山の端が黄金に輝いている。  傾いだ松林もキラキラ輝いている。  歩きにくい砂浜をずんずん歩いて、砂丘が盛り上がり海に向かってせり出している場所を訪ねる。  丘と言うよりは山と言う隆起が繋がりあっている。  きっとそのまま海に潜りこみ底に続いているだろうと想像して、白波が起こり陸に向かって推進しつつ、周りより波頭の崩壊が速く始まるポイントを探す。  それらの下の海底は、きっと山と窪みからなっていて海流に変化があり、澱みつつ渦竜流を生み海藻が繁り、ゴツゴツした岩があって小魚がたくさん遊んでいるに違いない。  だだっ広い砂の海底に稀に出現した棲家にさまざまな類が集っているに違いない。  広い砂浜はゆっくりした凸凹があって、さらに笹のようなものが蔓延っていて、風に揺れているのを見 る。  海風に撫でられる松の緑、砂丘に揺れる丸い葉っぱのハマゴウなどの草木の全てがとろりとした鷹揚さ伸びやかに溢れている。  一切が氷解してちぎれ風に紛れてしまう。  なにやら濛々としたものが立ち上る、遠くの山に向かってゆっくり弧を描く波頭を辿って往く。  犇めく清々する松林の群列に付けた”ヤマ”を振り返り、ゆっくりきびすを返し、金色が眩しい波頭に向かって砲弾を打ち込む。  幾つも息を切らして投げ込む。  肩から背が突っ張り、腕がパンパンになっても繰り返す。  最後の遠投も最初のひと振りも、昂揚と虚脱でへとへとになっても、朦朧として鋭いキラキラ輝く潮が俄にざわざわ騒ぐ点に違いがない。  ヒットしなければそれが継続する。  体が熱くバラバラに瓦解しそうになっても、殺戮の懊悩がつま先から砂浜にもぐり込んでしまい気持ちはますます透明になっていく。  オレンジに映える砂丘を眺めて、こんがり焼けた厚く切ったパンやマーマレードと四角板のバター、ベーコンエッグ、カウンターの端に置いた球形ガラスに充たされた赤茶の熱いコーヒーを想いだし、竿を担いでトボトボ北に向かって還り始め る。  白い砂に足がのめり込みひどく疲労する。  黄金の輝きが射した海は、優しくたゆたっている。  Wes Montgomery/ A Day in the Lifeと、Wes Montgomery/ Full House ♪、Wes Montgomery/Wynton Kelly/ Smokin' At The Half Note ♪ や、FREDDIE HUBBARD/ FIRST LIGHT/ SR322/ LP ♪ ♪ を引っぱり出して聴く。

1998年1月8日木曜日

何も釣れなかった。  きっと潮がよくないのだろう。  海流が沸きたちざわめきプランクトンが狂奔乱舞しないのだ。  星周りを逸したのだ。  こればかりは、天を恨むしかない。  小魚や甲殻動物、砂の中に棲む生き物などを獲得せんとてギラギラと意欲を滲ませ沿岸を回遊する鱸やフッコ、ワカシ、クロダイがいなかったのか?!。  その数が少なかったため遭遇する機会に巡り逢わなかっただけなのか?!。  プラスチックで作った9cmの小魚の光彩と遊泳が不自然で襲いかかり捕獲する衝動が湧かなかったのか?!。  先が青い山に融け込みけじめがよく見えない砂山のまっただ中で、真っ新でキラキラの光が飛び散る早朝の紺青の天空の下で、うなだれる。  すばやく拡げられた砂の上の黄金の敷布に長い黒い影が走り、なにやら戯けて見せる。  ザワザワと歓びの囁きが湧き起こりひょうひょうと斉唱が聞こえる満ち潮がいい。  海鳥がいそいそと低く飛び交い、気ままに闊達に翻る光景に出くわすと食事中であれ友人と歓談中であれ、交歓の山場であれ 。  グラビア叙事詩を開き原色の生き物の微塵の火華に放心していても、いっさい何もかも投げ出し。  フックの先をきっちり研ぎ上げたルアーをしっかり確かめる。  『ピンッ!……。』ときた数個をポケットに入れ 、竿を担ぎ転げる ように、馳せ参じなければならない。  でないときっと痛恨の日々が訪れる、しかもそれはすっかり忘れた南風が、君の頬を撫でる憂愁の西空に釘付けになった一瞬を衝いて。  背をすっと伸びやかに屹立させ、力のこもった頬をそびやかし 。  いつも以上に引き締まった口元を、弾けてカラカラと笑う君の眩しい眼に、燦たる西日が射したのをけっしてぼくは忘れない。  肘まであるにくい銀が眩しい”フッコ(鱸の青年)”の『ゴン!、ゴン!、……!』、『グーン!、グーン!、……!』逞しく激しく格闘する 、美しい張り切った戦慄が走った。  その具体的感動と見えない敵との衝突の混沌、記憶はいまでも色褪せないのでせうか?!。  よく晴れた冬の日、銀界のひたひたの砂浜 で、俄作りの枯れ木のスタンドにロッドを立て掛けて、ヒラメを渇望していた。  沖合に点々と黒い影が静止していた。  風上に常に艫を置くため、白い帆を船尾に梶の ように起てていた。  釣りの船団であった。

1998年1月9日金曜日

ずんずん這い上がってくる海の勢いに圧されて、何度も後退しつつスタンドも移動した。  『何かかかったみたい……。 重い……。』  潮の流れでラインは南にずいぶん流されてい た。  そのときも海鳥が激しく低く慌ただしく飛び交っていた。  紺青の中から青と銀のピチピチ跳ねる生き物が這って上がってきた。  ふくよかな頬がいっそうゆるみ紅潮してい た。  しかし今日も”グッ……?!”と引き込む無礼な力はなかった。  殺戮の危険もなかった。  優しく浜辺を洗う平穏な潮そっくりに、暗鬱で熱っぽい激しい血を深く沈潜させて、バリバリ重い肩が狂奔する気持ちを芯からほぐしてくれ る。  渋谷の”SANSUI”で超越的意欲に満ちて獲得した”レインボー”ルアーは、囓られることなく無事であった。  その危険に支えられた意欲が脹らんだまま、のめり込む ように帰還する。  重い足を曳きずるように白い砂浜を歩く。  なにやら声を発したような気がするが想い出せない。  渺々とした松林を控えた砂の隆起が連なる原野を歩く、時の移ろいも目に映る全てのものがまったく変わらない。  静謐に伸びやかにきっぱりと呼吸している。  丸い葉っぱの蔓草が砂に埋もれつつ、しっかりと伸びやかに天を仰いでいるのを見るのが好きである。  広大な砂浜にシンメトリーの枝を四方に拡げた小さな松が、点々と夥しい数、植えられてい る。  自生したのもあるのだろうか?!。  その遥か南方の彼方の海洋のまっただ中で幅数10km?!もある黒潮が高く屹立する海嶺を乗り越えて猛烈な速さで、静謐に推進するありさまを思い浮かべると、ホクホクと嬉しくな る。  その衝立に衝突し夥しいエネルギーの変遷を行い軋み音を放ち岩盤をメリメリと削るのであろう?!。  激しく摩擦熱を起こし静電気を発動するのだろう?!。  紺碧のナトリウム溶液が打ち震え、悲嘆の嗚咽を吐くのだろう?!。  波は岩や砂礫の原をめざして自信に満ち押し寄せて、崩壊しつつそれらを洗うがそれは実体でない、それは発表である。  あるいはそっと耳打ちをしているのである?!。  激しい上下運動のうねりの主は、姿を明かさぬ風である。  一瞬ごとに姿態を変えて格闘しあいたわむれあい無言の斉唱がわき上がる。  伸びやかな笹の葉に止まり、松の腕にぶら下がり、梢で遊んでいったのだろう……。  松ヤニの褐色の風が鼻を擽る。  また明日も……。  菊地雅章/ TETHERED MOON/ KICJ93 の ”So in Love/ Cole Porter” で肩に打ち込まれた斧が腐食して、めいめいの形と質の殻に籠もって仮死する。  深い紺青の海にそっと鐘を降ろすようにまどろみつつ落ちていく。  そうやって息を潜めて無機物の真似に耽 る。  背後からおそらく明晰を極めた混沌の渦動とでも呼ぶしかないものに襲われる。

1998年1月10日土曜日

コンクリートのたたきで防寒靴を脱ぎ土を落として、よく磨かれた階段をそっと登り二階の部屋へ持って上がった。  なにやら美味しいものが焼ける暖かい匂いが鼻と恣意を鼓舞 する。  砂漠の徒歩で火照った体と、連日のロッドを投げ降ろす酷使のため強ばった右肩と腕でベッドに倒れ込み固まる。  何故かほとんど使わなかった左腕と背の筋肉痛が ある。  ベーコンが焼かれパンが焦げる匂い、ジンジンするコーヒーの匂いにつられて玄関と一体となっているダイニングルームに降りて行き、立派な髭のオーナーが炒れてくれるコーヒーを頂く。  ドーンとした一枚板?!の真新しいテーブルに就く。  花瓶に菜の花があったような気がするが想い出せない。  三角屋根の頂上に突出した採光屋根から柔らかい眩い朝日が充ち渡 る。  始めてこの”アトリエ”を訪ねて来たとき閉まっていて、トボトボ歩き出したことがあった。  真冬なのに笹や竹がいたるところに生い茂り、眠ったように静かであっ た。  厚くて艶のある葉影から長い柄を出しその先に、赤く熟し3〜4分裂して中から朱色の種が見える。  まさきが至るところの見られ、懐かしいものを間近に見つけて、じつに嬉しくなっ た。  HUBERT LAWS/ AFRKO CLASSIC/  とHerbie Hancock / Speak Like A Child  を取り出す。  後者は、未だジャズを聴き始めたばかりのころ、自由闊達なのびのびした拡がりに曳かれたもので懐かしい。  淡く危うく黄昏る空の写真は、今でも好きだ。

1998年1月11日日曜日  

机の左手にダークグレーと”ラベンダー”(VAIO NOTEのツートンカラーとそっくり) の”インターラック”を2つ背中合わせに置いた。  左肘を掛けてうたた寝ができたり、天井の明かりを消し机の上に吊した明かりだけにすると部屋の中に落ち着いた影が生まれることも発見して気分がいい。  D30(cm)のラックを前後に2つ重ねた、W90×H90×D60(cm)の立方体が”ドン”と置かれた。  合板を木ねじとほぞで固定する構造で、10分ほどでしっかり組み立てられ る。  W40の棚の位置がほぞ位置とストッパーの移動で可変出来る。  背中合わせの2つの棚を同じ高さにすると、PCが跨った形で乗っけられその重量で安定が確保されてふらつきが皆無で頼もしい。  縦置きのPC2台とプリンターが机に近い右半分の上段と下段に、左半分は完全に空いたので三段の本棚にした。  W10の裏板が両側に付くようになっているが、PC側は外し た。  PCの棚の高さの空きは2cm、プリンターの高さの空きは、ETカートリッジの交換のためカバーを開くと0cmである。  まさにピッタリ!サイズである、いよいようれしくなるではないか。  もう数cm小さければ、プリンターに手が届かなかっただろう。  モニターを2台上に乗っけている。  計ったように目線と同じ高さになる。  重いものを乗っけて移動するときに”2分割式”なのでPCを乗っけたまま片方から少しづつずらすと簡単であっ た。  唯一、気になるのはファンの音である、ここがメーカー製と大きく異なる?!。  吸音材を貼って見よう。  落ちつきのある”JBLの43××”に似た鎮静と触発が”絶対矛盾的自己同一”の、後頭部をむずむず・清々喚起する色合いが大変気に入ってい る。  この本棚の最上段は、[ =(・。.・)=] の出入り口の南の窓にピッタリ立ちはだかる格好になったので、慣れるまでは空きにしておこうと想う。  そのうち本が侵食するので、[→ ← ]だんだん狭くなって通れなくなるのだよ!、ちびちゃん、そん時は上に飛び上がり跳んで来るのだよ!。  しめて¥8Kであった。  ただしばらくは、合板から揮発する有毒ガスで顔と眼がヒリヒリ する。  当分、窓を開け風を誘い込んで外出しよう。  乾いた北風の外気が、生物に向かっていやな刺激の矢を放つ毒を吹き飛ばしてくれるように……。  最近届いた#2PCはいわゆるAT互換のショップメイドで、CPU:Pentium2 300MHz、MMX、MB:ASUSTeK ATX P2L97  AGP、HDD:SEAGATE Ultra SCSI ST−34501N 4.55G 、メモリ:SDRAM 256MB、ビデオカード:#9 Revolution3D 8MB、サウンドボード:SB AWE64Gold、CD−ROM:PLEXTOR  PXー32TSi/TO 32倍速Ultra SCSI、……。  OSはMS-Win 4.0(いわゆる95 OSR2.1)と、ドライバー以外なにもセットされてない状態である。  やっとIE4.0が動いたところ。  ケーブル接続の部品がないのでプロファイル類のデータ転送がまだできない。  HPの更新は、未だ#1でやらなければならん、早く”New”でやりたい。   =(・。.・)= が高い所に行きたがって困る。  最近は、ミルクが嫌いらしい。  寒いからなのか?!、知り合った頃あんなに好きだったのに。  生魚や狭いところ高いところによじ登るのが大好きなんだ。

1998年1月14日水曜日  

CREATIVEの”SOUND BLASTER AWE64Gold”で聴くMIDIは超ハイファイである。  いわばリアルタイムに各拠点で楽譜(Midiオブジェクト)を読みとりハードもしくはソフトシンセサイザーがサウンドを生成するわけだから原音再生そのものであり、音源が緻密、精細でしなやかで澄明であればこうなのか!、といったまさに5月の風が新緑に渺々と押し寄せサワサワと梢がそよぐ ような、清冽な叙情のその奥から確かに送られてくる息吹きが聴きとれる。  奥行きと清澄がそびえる、しかし慣れてしまうと認識が失せる。  楽器を手中に獲得したのである。  数10年前にハイファイを言葉とともに出会い、没頭や傾倒、憧憬、格闘、懊悩、歓喜、随喜?!……、の遍歴を急ぎつつ駆り立てられ、煽られ、埋没、励まされた日々が流れ た。  原音再生に夥しい時間と錯誤を重ねてきた?!が、『ポ〜ン』とあっさり答えを目の前に放り出された格好である。  不思議と機械音らしさが感じられない、なぜか生き物の波動を余韻やアタックの端々に、微かにしかし明確にひしひしと感じことができ る。  何という歓び……。  ”芸術は自然に逆らいつつ自然に近づくことだ!。 ” そうですが、徹底した即物化の情熱はいつしかその対極にあると思いこんでいたが、 ”理性もまた奔走する一種の情熱である”であるように激しく光速に近づくときにけじめがなくなる、人物には同じものとして誤認識される。  この誤認識は振り返ることの少ない、ありもしない妄想に向かって突っ走る焦燥の原色のジットリした日々にある、今は色褪せた遠い日々の彼方の向こうに ある。  しかし、この波動は残念なことに、この次はもはや全く同じ”そよぎ”が喚起されないであろうという、絶望がある。  明日がない……?!。  MSーWin95のアクセサリーにあるケーブル接続でのまとまったファイルの転送は、気が遠くなるくらい時間がかか る。  しかし外出時などにひととうり行っておけば、その後の個々の更新はあっという間に終わる。  バックアップの目的で2台のPCのHDDを使用するのに重宝する、#1と#2のホルダーが同時に見えファイル操作が出来 る。  ショートカットを作っておくと、より手軽になる。  唯一気を付けるべきは、2台のPCを取り違えてしまって、データーを誤って削除や変更、バックデイトしないことだ。  インターネットに接続中の同時使用は出来ないようだ?!。  ISDNの電話機ポートに#1PCのモデムを繋いで2台同時に”Web”に進入するためには、シリアルポートが足らない。  どうするか?!、2個のシリアルポートは現在ケーブル接続とマウスで塞がっているので、PI-P55TP4XEにあるPS/2マウス端子を、パーツを追加しスロットパネルに引き出す方法が ある。  これは購入当時から解っていたがまさかポートが足らなくなるとは?!。  背面にごそごそ手を伸ばしケーブルを引き抜き、ラックから引っぱり出しカバーを開けるセットアップは、手で感じる歓びもあって面白いが骨が折れるんだ。  もっともブラウザーは複数起動できるので用途は限られる。  Webサーバーを経由したデーター転送が考えられる。  やっぱ、#1と#2のPCはLAN接続にしたいものだ。

1998年1月15日木曜日  

新しいPCの基本的なセットアップとデーター転送がやっと完了し た。  MS−Office97 ProとTARO8、Front Page98、Photo Studio、ブラウザーのPluginをいくつか(Real Player、VDO、FTPExplorer 0 J 1 、Lhasa、UNLHA32....、Win Zip 1、ACDSee、Paint Shop Pro 1 、Cool Edit 1、Mpeg Audio Viewer、Apple Quick Time 、Shockwave、Sterm Works……)、これらの一部以外は雑誌(インターネットマガジンx月号)の付録のCD−ROMからまとめてあっという間に完了し た。  これからセットアップを考えてるのは、Stella Theater Pro 0 、Dir Ratio 、ヤマハ soft synth... s-yxg50、Graphicc Workshop 1、GVで全部#1で愛用してるもんである、未だ汎用ソフトのパッチとかあるんだろう?!、まっ…、じわじわやるのだ。  んで、なるべく余計な?!もんはセットしないのがいいのだ、#1のプログラムを改めて見てそう思う。  肝心なもんとごっちゃになってるとメンテのじゃまになったり する。  画面の各部の色もやっと好みの燦たる淡い山吹色の斜光がそよぐ”暮れなずむ色”と喉がギュッとこみ上げる美味しい”青海苔色”で組み立てた。  『……フゥ!!、(^ ^)』ドーンと静謐な影を投げる立方体を2日間の”外気さらし”を行った成果は卓抜であり、ホルマリン?!臭は颯爽と霧散しやがった。  どうだっ!……、気分がいい。  今まで活躍してもらった#1PC(’95/8購入、MB:ASUSTeK PI-P55TP4XE、CPU:P120M→ P150→ P166M、EDORAM:96M、SVGA:#9 FX2 MOTION771 4M、EIDE:WDAC31600、SCSI:FBTMー2100S、CDーROM:XM5301B、SB16 IDE、……)に、休んでいたモニター(SONY CPD-15FS)を接続する。  しかしPOWER SAVINGが作動してしまいすぐ”■”画面になってしまう。  OS/2 Warp3.x、4.xのセットアップや、バージョンアップ、パッチの度に”MOTION”のドラーバー(Hawk Eye)のインストールを繰り返したことが想い出される。  真夏の炎天下にP150M→P166MにCPUを交換するためにプロサイド゙にBIOSを貰いに出かけたり、ファンが止まってたのを発見して”(>_<)”になったりしたものだ。  OS/2とWin4.0(=Win95)を2重ブートで起動していて、OS/2で最初にインターネットに接続したときのことが甦る。  食事を作る時間と言うか気持ちの余裕が無くて、PCと格闘の熱い日々であっ た。  暑いので近くの本格カレーをよく食べたこともセットで想い出される。  白く乾燥した道を照りつける熱線をかいくぐり、胃の補給に出掛ける時も食べてる最中も、”OS/2 WORLD”や”DOS/Vマガジン”を手放さず食い入るように埋没していた。  そのころにも同じことがあった、VGAモードで起動しそこでSVGAを設定することをすっかり忘れていて、Safe Modeでやったのが失敗の原因だった。  MOTION771の発色の良さとエッジの鮮鋭に改めて関心する、画面が小さいこともあるのだろうか?!。  ロジッテックのマウスマン(Mouse Man)に添付されてきた、いわゆるドライバー(V6.6J)をセットアップすると、”ペイジ違反、不正な処理を行った……”が表示され る。  試しに行った、前に購入した非バルク品のドライバー(V7.1日本語版)の上書きセットアップであっさり解消した。  しかしこれを持っていない人は途方にくれるんとちゃうやろか?!。

1998年1月16日金曜日

定岡の神経質な悲嘆の喘ぎの声とタカのくぐもった挑発をテレビで聴きつつ、デザートに炒れたコーヒーを一口飲んだ。  んが、窓側においたキーボードに左手に手をのばした途端に、袖口をオレンジっぽい黄のマグカップにひっかけ倒してまっ た。  ゴロリと寝ている、いかん!、”(>_<)”。  香しい琥珀の液が机の上をゆるりと這い始めた、『……あ〜、もったいない。  (−.”−;)。』 Newなキーボードにもコーヒーをたっぷり飲ましてしまった。  机の手前いっぱいにバスタオルを折って置いているため、マグカップの座りの安定を失してしかもつっかかったのだ。  直置きだと机の上を”ズズッ!”と滑るため転倒しない。  キートップの凹が深く、全体の面もゆっくりした凹に並んでいるもので、ざらついていて指先が突っかかる感じが嫌なので”JUSTY JKBー106S”を新たにもう一個入手しようと思っていた矢先だったので、放り投げてやっ た。  きっと何時か同じ粗相をやらかした時に出番があるだろう。  自業自得?!。  だってキートップを引き抜きせっかく綺麗に拭いても”Q”を圧すと”2”が出るんだもん。  この引き抜きツールは”JUSTY”に添付されてたものだ。  ホットカーペットのサーモスイッチが『カチッ!』と入った途端だったのだろう?!、『■、……ン?!』微かな音がして世界が真っ暗闇になり、静穏が戻っ た。  停電だ!、しばらくじっとしていた、昔の習慣だ!。  しかしそうでないな?!と思い目を凝らすとエアコンの赤や橙、青の点が見える、近所の窓もその気配がない。  東京の停電は年間に0.x回くらいで極めて稀であるらしいことが脳裏をかすめる。  窓の外は真っ新の雪どもの襲来だ!!。  デンバーの山奥の陸の孤島のシャイニングだぞ。  焦らず机の下から非常灯を取り出し、嬉しがって小さな蛍光灯を点灯し た。  =(・。.・)=と目が合った、『……ドッタノ?!』と丸顔を上げて迷惑そうに振り向く。  ブレーカーを見ると1箇所レバーが降りている。  20A/系統を越えるとダウンするらしい。  レバーを上げる、パッと明るくなった、んがまたもや”■”に。  ホットカーペットを切ってみた、いいらしい。  じつはケーブル接続を始めていてHDDが活動の最中であったが、どうやら事なきを得たらしい。  パワーが供給されると、OSR2.xの#2が勝手にスキャンディスクを始める、OSR2.xらしいところだ。  もこちゃんの”楽しいらくがき”へも何とか遅れず(?!)に書き込めたし……。    (^.^ ;) キーボードはまた買えばいいのだ。  じつは、書き込みはやはり滑り込みアウトであったのだ。   (^.^ ;)  『@∋∂……ャ〜!、∽∝‰…ャ〜!』 丸くなって安息をむさぼっていた =(・。.・)= が、むっくり起きだしそわそわして見上げてなにやら言うので、”外の空気が吸いたい”のだろう?!と窓を開けたら、急いで飛び出して行っ た。  少し白いものが暗闇の天からシンシンと下降していた、2時間も経ってから還ってきた。  いつも網戸によじ登り、『カリ!、カリ!、……!、カシャ!、カシャ!』 合図を する。  しかし真冬でも羽虫を見つけた時は、意気込みと溌剌に情熱があり、どこまでもずんずん登っていく、耳を傾けると違いが解る。  (;_;) 『……心配をかける君に感謝!……。』 焼いた鰯を丸々一匹ふるまった。  コロコロした全身をゆっくりと推進させ、エネルギーを発散させつつ、『……ゥ、…ワ…!!、……ゥ!!』くぐもった唸り?!を漏らしつつあっという間にやっつけ た。  ちょこんとすわり右手をちょっと持ち上げ舐めたり、首から耳、顔にかけてこすりはじめた。  とってもふくよかな顔で親愛の波動を返した。  停電で製作が中断した夕食は、シジミ(=しみじみ)とだいこん、カボチャ、とうふの赤だし、焼き紅鮭の切り身、大根おろし、野沢菜。  カボチャの仄かな甘みと赤だしの奥深い沈潜が饗応し、ふくよかな平安が立ち上る。  紅鮭の切り身は、4角柱に近く4面焼きが出来そうな見事なもので、深紅のエビや蟹を多食した本物であっ た。  旨い。  忘れないでまた入手しよう。  シジミを出汁用の網駕籠に加護してみよう、たぶん後かたづけが …… (^.^ ;)、でもやってみよう。  手を動かすことは万事、”幸”に繋がるのだ。

1998年1月17日土曜日

”Outlook Express”のアドレス帳を転送した。  やり方が解らなかったので、○○に電話で教えてもらった。   (^.^ ;)  ”ELECOM”のLANカード laneed ISAPCI を見に行った、ISAタイプが¥5K、PCIタイプが¥8Kであった、セットアップソフトが不要(MS−Win95にある。 )、10Mbpsの転送スピードらしい、欲しくなっ た。  還りの階段から、”Hello KT”がいるのが見えたので探索に足を向けた。  『パンフレットおくれ…!。』と言ったら、これと中身は同じですと言ってPHSを指さした。  『パ……ト…。』とは、もう言えなかっ た。  ヤマハ soft synth... s-yxg50 をセットアップしたら、MidiオブジェクトのクリックでMidi Plugのペイジがオープンする(IEのみ?!)ことに気がついた。  ”ヤマハ....”を正規に削除しても駄目で、結局IE4.0xの上書きセットアップで解決した。  NN、NCでのファイルタイプの編集、いわゆるアクションの関連付けが変わってしまった場合も同じようにやっつけられる。  たぶん削除しなくても”ヤマハ....”の後にIEの再セットアップでもいいのだろうと思う。 (最後のセットアップが優先した関連づけとなる) ついでが発生したら試してみよう。  先日とほぼ同じ材料で、赤だしのみそ汁を作った。  シジミを網加護で分離するのは、グッドであっ た。  カボチャの堅さが上手くでけただろうか?!。  =(・。.・)= に先ず魚をあげておかないと、キラキラした顔でうれしそうに脚からよじ登ってくる、爪を起ててしまうので痛い。   (^.^ ;)

1998年1月18日日曜日

一日中 =(・。.・)=と一緒であった。  鮭の切り身¥0.1Kをたくさん冷蔵庫に入れているのを知っていて、キッチンに立つと、きっとむっくり起きあがり、首をいっぱい後ろに倒して嬉々とした溌剌で見上げて足元に纏わり付く。  『……ャ、……ァ、……ゥ、……』 『……おくれ!! 。』 まな板でトントンやっていると、立ち上がりジャージに爪を引っ掻け、よじ登って何を作っているのか?!見ようとする。  時々忘れて踏みだし引っ掻けそうになる。  『〜**、ミャッ!』 驚く。  2cmづつに切った専用の皿から一個づつ供する。  好物の焼き魚、生魚以外の”ねこクッキー”などは、すぐには食べない。  ちょっと近づき 匂いをクンクンして、『フッ…!』となぜか暗くて寒い玄関のほうに歩いていって姿を隠してしまう。  つき合いきれないので、放うっておくと、いつの間にか『カリッ!、コリッ!、……!』やってい る。  ソーセージは、音もなくきれいに無くなっている。  ミルクだけは、時間がかかるので、その元気な小さな水音が、気まぐれな主の生態と習慣を露呈させる。  人物の冷え切る宿命を持つ足の置き場と、コロコロした肢体をのびのびと横たえる縄張りとが、机の下のホットパネルに羊毛の座布団を掛けた空間で出会う。  人物は決して挑発はしない、ただ退屈してるだろう想い、頭を足先で探し出し、両足の裏で・絶妙の圧で挟み、グリグリしてやるんだ、(^o^)。  体が芯まで暖まると、”=ΘΘ=ΠΠ〜”四肢を『ピンッ…*…*!』と突っ張って、顔は覚醒の闊達で挑みかかる。  瞳がキラリと光 る。  また、おとなしくうつらうつらしてた野獣が、突然人物の足で爪を研ぎ始める。  靴下を『チョンッ!、チョンッ!』と引っ掻いたり、ジャージを引っ掻く。  はじめは、からかってるか!?、ちょっかいを出してるのか!?、と想ってひどくびっくりしたんだ。  今は、儀式か種族伝来の、正統的な慇懃な挨拶だと想っている。  情熱いっぱいの画面を見入っている時に、唐突に”種族伝……”を頂くと、『……  (^.^ ;)』視線を返せない。  動けない。  『ガガッ!……』と指を噛んだりで、くすぐったくて痛い、じっと我慢する、嬉しい!。  雪の原で覆われたので野鳥が訪ねて来るだろうと思っていたら、やはり来た。  待ちあぐんだ狩りの時がやってきた。  壁に掛けた銃や弓矢を取り出し、ゲートルを巻きウサギの耳当て帽子を被り、ドキドキする落ち合い場に馳せ参じなければいかんのだが…。  森羅万象の有象無象が首を長くして待っててくれるだ。  カメラで獲得せんと、窓ガラスを磨いたので飛び立ってしまった。  雀でなかった、ハッとするひと刷毛の玉虫光沢がの羽根、丸くて尾が短い。  じっとPCに向かって、カシャカシャやりつつ待つ。  昼は、(生)荻窪ラーメン(…タチバナ製麺)を作った。  あの藁のような?! 匂いがする麺であった、ちょっと嬉しい。  たくさんあったが味を確かめつつ食べてたら、あっという間に平らげていた。  可もなく不可もなく、これが”荻窪ラーメン”の骨頂なのだろう?!。  なぜか、デザートのコーヒーが飲みたくなるところが奥ゆかしくて素晴らしい。  夜は、蛤と大根、分葱のお澄まし、〆鯖。  蛤から滲出した青白いものにある塩分で塩梅が微かにしょっぱい、またやってしまった。  〆鯖のくどさは、微妙なところで突出せず旨みが破壊されずに助かっていた、新鮮で未だ酸が回っていないのを見つけるとつい手が出 る。  関サバの”〆…”を賞味してみたいなぁ……!。  SONNY SHARROCK 1 BAND/ Highlife/ EMY119-2/ JAZZ  JAZZ を聴く。  『……もう、…どうでもいいのよ!……。』と、小声で泣きながら、破れかぶれに疾走する電気弦の重力、憂愁からの離脱が素晴らしい。  きっとレッドツェッペリンが聴きたくな る。  『おいでっ!』、『 =(・。.・)=、……ン?!』 首根っこを掴んで胸に乗っける。  おとなしくぶら下げられてる神妙な顔に……  (^.^ ;)。  微かに甘ったるい、野獣の匂いがする。  後頭部から背を撫で下ろすと、目を細めて頭をふんぞり返りつつ、ヤスリのようにザラザラの薄い舌で指や掌を舐める、絶妙の重さと暖かさに感謝。

1998年1月21日水曜日 

朝方、6時ごろ物音で目が覚めた。  『チリンッ!、チリンッ!、……ッ!』、『トコ!、トコ!、……!』、『ドタン!、ドタン!、……!』  (−.”−;)だ!。  φ1cm、L10cmのマタタビ棒を1.5mのロープで、水平に突きだしたよく撓る竹竿に吊している、小さな鈴が付けられている。  たいてい一日に1〜2回跳びついて遊ぶ。  早朝のねこは、すばしこくて闊達で溌剌としている。  瞳が大きく光りが溢れている。  机の下で”ドタッ……!”と横倒しになってるお姿とは、はなはだかけ離れてい る。  床から0.5mほどにある褐色の棒は、愛好者に囓られて白くその痕が剥かれている。  おかげでちょっと寝不足だ。  夕方、何処からか『ミャ〜〜……』小さな声がして、駐車場の壁伝いに”ピョン!、ピョン!、……!”、”タッタカ!、タッタカ!、……!”跳んでく る。  きっと真っ先に足下で仰向けになってゴロゴロをやって見せてから、斜めにした尻尾を付け根から全体を懸命に左右に激しく振って挨拶する。  このとき尻尾は、撓らず太い棒のようだ。  『パタ!、パタ!、……!』 思わず吹き出したくなる。 (^ ^)  昼間、風を通していたので、インターラックから揮発していた有毒ガスは感知できない。  いいぞ!。  ネギを斜めに切ってかごに入れてテレビの上に置いている、稀薄な揮発成分がたれこめ る。  3日でカラカラになってしまい、ありがたい分泌も停止する、新しくする。  鼻がスースーして気分がいい。  室温は17℃、湿度 50%くらい。  日曜の夜11時30分から0時30分にJ-WAVEでやっている”UA”の”カピバラ・レストラン”の録音テープを聴く、フェラ・クティの”ビーツ・オブ・ノーネイション”が選曲されてい た。  城戸真亜子とよく似た黄色と褐色が混沌とした暖かい、一見ぶっきらぼうに見える投げやりなボイスを聴く。  『……佐藤明さん、と言うカメラマンが撮った写真をたくさん送ってくれました、……なんとカピバラ載りまくってます、……この〜カピバラなんて書いてるかな?!、……あとなんかねぇ〜、パカラナというのが載ってて、これーなにぃ……、かわいい!!。  皆さん、タマリン?!という猿知ってます?!……、カピバラ……気にして欲しいんですけど。  ……こんなにいっぱいいてるんやぁ〜……!!、私も未だ生で見たことないんやけど……、……だけどさっきのあれ何んて言ったけ、私もパカラナっての見たいなぁ……、こんどハワイでハワイアンやろう思ってて……、あの…… くればやしかずえ さんと言う方が写真を撮っていて、CGで綺麗に色を……、鳥山ちかお さんと言うウクレレの上手いおっちゃんやそうです。  ”神風タクシー” と言う映画見たことありますか?!、邦題が ”復讐の天使” ……、 寒竹 さん… 』 いつも終わりが切ない、”祭りのあと”とそっくりの置き去りにされたちょっとうれしい感じがする。 

1998年1月22日木曜日 

牡蠣鍋を作った。  好みの材料ばかりをぶち込んでしまったので、いささか出来上がりが不安で ある。  水を張った鍋に、予め5〜7cmに切った利尻昆布か羅臼昆布(最近入手し難い)を缶から一枚取り出し放り込む。  広口の茶筒一杯(300cc)の米を袋から掬って、木の柄付きの円筒金網かごで受け、蛇口の迸りで力一杯揺すって濯ぐ。  『……この〜っ!!』と、敵のように左右に力を込めているので研いでるのに近いかもしれないが、伝来のそれは掌で器の底に擦り付ける。  決まってこのとき、薄暗い早朝、大きな石?!の流しで『ンザッ!、ンザッ!、……! 。』と正しい研ぎを見ている幼い自分の光景が浮かぶ。  研ぎ汁を、牛にあげる役目を担っていた気もするが……。  バケツに顔を突っ込み、『……ゴーッ!』、あっけなく一気に飲んでしまう天晴れさにいたく感心し満足した。  潤んだ大きな黒目に見入っていると、ポチポチ髭のある口からいきなり赤い舌を出し、スルスルと鼻の中に入れた。  ますます気に入ってすっかり満たされた一日が開かれていっ た。  しばらく揺すっていると米が水を吸って  重くなる。  炊飯器のスイッチを入れ、材料の調達に出る。  だいこん、分葱、カボチャ、春菊、木綿とうふ、生食牡蠣、酢橘。  魚肉の練り物。  ”京木綿”を冷却棚で見かけなくなった、だいこんは子供の頃食べてた青首大根しか見かけない、春菊の強烈な”えぐみ”に、つい最近まで太刀打ちできなくて避けてい た。  春菊は、毒(=アルカロイド)に満ちてると今でも思ってる。  還ってくるとご飯が炊けていて蒸らしにかかっている。  何回かスイッチを入れ忘れたり、保温と間違えたりしたことがあって、外からかえるとついつい”釜”が活動しているか一番に確かめてしまう。  削り鰹ぶしでも出汁を取ることにした、牡蠣の出汁と格闘しているのが解り釈然としないが、やはり旨い。  だいこんの尻尾の辛い方を、だいこんおろしにする。  みそ仕立てにした、灰汁を丁寧に採ったつもりなのに若干くどさが出てる。  こんどこそは……と、なんか意欲が湧いてきた。  しかしどうすればいいのか?!、料理の本を読んでも、文体とその跳躍に関心が往ってるのであまり料理の技を覚えていない。  性欲と食欲は、ごく近いところに棲んでいて作家がその渦流に挑みかかり、蔓に絡まれて退散するのもあるし、うまくやり過ごしているのもある。 

1998年1月23日金曜日

いつもの駅前の、”DOUTOR”にブルーマウンテンの豆が切れていた、『……明日入ります。』と言ってくれたが、コロンビアを貰った。  未だはっきり味の違いが解っている訳でない、研究するだ。  いつもより多めの豆の量で炒れてみたら、なかなかいけました、味もさることながら、カルシウム注射の ような?!、キックで脳が燦爛たる褐色の壮烈に鎮静するのが好きなんだ。  #1PC(P 166M)の一太郎8の”キーに割付”のデータを#2PC(P2 300M)へセットアップした。  ”*:\JUST\JSLIB32¥USER¥Taro_stk.*”の10個のファイルを転送したが、この目的のためには一部でいい。  ”復活”メニューが無くなったのは、寂しい。  #2PCでWebを初めて見た時から気になっていたことが ある。  特定の画像が”地滑り”を起こすのである。  IE4.0x中でいわゆるハングアップ(=フリーズ)する、#1で全くなかったことなのでその違いの中に原因があるらしい、と見当をつけ る。  結局ディスプレイアダプター(Revolution 3D)  HawkEye Display Utilities のドライバー(Drivers)の最新版( HawkEye 95 BETA Performance driver and utilities ver.1.46Pe3 )と、( HawkEye 95 WHQL Certified driver and utilities ver. 1.42)(WHQL)を入手、前者をセットアップしたら、きれいに直ってしまっ た。  ハングアップは、どうだか?!、今のところ発症していないようだ。  後者でもいいのだろうが、”β”に惹かれてしまった。  不安のない平安は、なぜか満たされない、甘みにまじない程の塩を添加すると甘みが際だつ ように。  突然何を思ったか?!、感じたか?!、=(・。.・)= が足が入っている靴下で爪を研ぐので痛い、……嬉しい。  『チョン!、チョン!』、『モシ!、モ…〜…シッ!』返事をしたものか?!、しかしなんと返すか?!。  じっとなすがままにしておく、ちょっと血が滲む程度だろう。  気まぐれな王の昼間の活動を応援しないと、ねこの早朝(5時頃)にあばれるから、つき合うことに する。  嬉々とした悦び一杯の顔を床に擦り付けんばかりにして背を低くして、尻尾をさも”……行くぞ!”とばかり不穏に振り回す。  憑かれたようにダッシュを繰り返す。  野生の声に誘われた狩猟の自主トレなのかね?!……。  朝、黄泉の国にいた自分が後退し、やはり重力の支配する窒素界に倒れていることを知る。  グーッ!と何者かに足下が押さえつけられている、『……ン?!』。  それが =(・。.・)=だと解ったとき、ドーンとした安堵と幸せを感じてしまう。  丸くなってドーンと乗っかるだけじゃなく、体の隆起の丘陵を闊歩して欲しいのだす、気まぐれな指圧にきっと地下に横たわる人物が悦びの呻きを洩らすだよ。

1998年1月24日土曜日

雪で間が空いてしまっていたCDの物色に新宿に出かけた。  鞄の中に電車で読む本を一冊放うり込み、適当に開いたところから読み始める。  何回か読んだ本である、レトリックやその展開にあまり興味がないので、SFやミステリーは全く読まない、もっぱら詩や散文の ように活字が起き上がり文体がそよぐものを選ぶ。  田村隆一や小松左京の”女シリーズ?!”の時もあるが、何年もずっと決まった小説家のものが圧倒的に多い。  東口を出て見上げた”K3ビル”の5Fの”かぶらや”に入りうどんを食べ る。  夏も冬も”松花堂 一段弁当”にたいてい決まっている、ただ”うどん”が暖かいか?!、冷たいか?!の違いがある。  きっと訊かれるので『暖かいの!』と返す。  いわゆる関西うどんなのだが、『プチ!、プチ!』している。  刻んだあげと細ネギが入っている。  きっと柴漬けと野沢菜があるので、『……紫蘇の色よ! 。』と不安がる(む)にそっと耳打ちしてくれたことを想い出してしまう、それが規則正しく繰り返されるから、条件反射になりつつ ある。  200H?!サイクルだかで、記憶は上書き更新されていくらしい。  だから嫌なことは、すぐ失せる。  野猿街道の”四五九”のうどんと歯ごたえがよく似ている、ちじれてい る。  ディスクユニオンのJAZZ館でジャズを物色する。  新しくなってから棚の勝手が変わってしまい、新譜からフリー系、目当てのアーチスト、中古へと探索していくが、やたら汚い字でキャッチコピーのギザギザ黄紙が張って ある。  ジャケットを覆っているため肝心のタイトルやメンバー、録音日がほとんど見えないので面白くない。  それをめくったり剥がしたり、中味を取りだして基本情報を確かめ る。  何年か前までは、このキャッチコピーを楽しみに読み大いに役だったりした、当然文字も怒り狂ったうねりなど全くなかった、その几帳面なJAZZに不似合いな?!丸文字は、清楚ですらあったのだ。  目当てのCDは、やはりみつからなかった。  フリー系以外やその他の探索にいつものように、背後から丸井の地下の”Virgin MAGASTORE”に降りていく。  インデックスが見やすいゴシック体なのでホッとする。  果たして新譜の棚で何点か良さそうなものが見つかるのか?!、誰かが考えた発表(=陳列)なのだが、その戦略を想像したり、たゆまぬ新作の大行進にワクワク する。  

1998年1月25日日曜日

伊勢丹の西側の狭い”┏”字路地にあるジャズのライブスポット”ピット・イン”の上に乗っている”SANSUI”での、フライのマテリアルやルアーの物色は歩き疲れたんで止め た。  すれ違うのに声を掛けそうになる狭い通路の上に覆い被さるギアの数々や通路の隅に積み上げられた箱などが居心地のいい場を作っている。  一歩足を踏み入れるとなかなか立ち去りがたい。  渋谷SANSUIの”ルアー・フライ本店”は”海洋館(トローリング)”に乗っ取られたため、スクランブル空中遊歩道からは、ちょっと遠くなり広くなったが、ガラスと木の箱は冷ややかな空気が満ちてい る。  マテリアルのような消耗品で素材にこだわるものは、種類が多くて品揃えが大変なのだが、人気商品の入荷まもなくたちまち在庫がなくなることもなく、しかも客が少なく,おかげで探しやすい。  渋谷の谷底には、上州屋(エッ!、カミスヤって?!、それはいったい何処にあるんじゃ……?!(^o^)、と思わず身を乗りださんばかりに、ついつい語気を荒立てて聞き返してしまったよなぁ……、金(かな)ちゃん。 )やSANSUIの”海釣り館”、”川釣り館”がスクランブル空中遊歩道の近道によって目と鼻の先に陣取っている。  インド孔雀の極太羽根を丸々一本使った浮力抜群の見事な浮子(ウキ)や木製のリールに見入ったり、精悍な”エイリアン”である懐かしい岩イソメが組んずほぐれつ、水槽に沈み闘争を始めてしまっているドキドキする光景を抱えて、谷から脱出 する。  MANU DIBANGO/BAO BAO/MPG 74035/AFRO、 LANGA LANGA STARS/VOL.2/FDB 300097/AFRO、 THE GUITER AND BOTTLE KINGS OF KENYA/ ABANA BA NASERY/ CDORBO 076/AFRO、ORCHESTRA BAOBAB/BAMBA/ STCD 3003/AFRO、ARROW/ MODEL DE BAM BAM/ BOM 2053/CARIB、 BANDA MEL/ BAIANIDADE NAGO/ VICP-8108/BRAZIL、SIVUCA/LIVE AT THE VILLAGE GATE/VACD 1003/BRAZIL、VICENTE AMIGO/ POETA/SRCS 8532/ などをゲット!。  ひたひたと押し寄せる下半身と脳髄を直撃する伸びやかな律動、ギターの語りにしっかり捕まり心奪われてしまう、哀愁と精気漲る熱気が一体となった魂の救済がある、BAMBAにぞっこんなのだ。

1998年1月27日火曜日 

『ピン!、ポーン!』、インターホンに出ると力のある太い声がした。  玄関に向かおうとしていたら、すでに、ああ!懐かしい、無精髭の大男が乗り込んで来ていた。  兄のほうだったので、人魚とかサソリ、蟹の星座の絵柄の凸模様が円を描いてる鉄のやや重い灰皿をいつものところから引っぱり出し、未だあったコロンビアを挽き湯を注ぐ。  弟は、自分で”鉄灰”を取りだしてくる。  『オイ!、電話どうかなってんのかぁ?!……。』 ポケットから取り出した電話で呼んでもらうと、ベルが鳴らない、なぜだ?!。  どうやらザイルと赤鉛筆の筋が走っている1/2500の地図、テント、鉈、米、味噌、飯盒、ヘッドライトの必須アイテムによる山岳釣行のほかに、いつの間にか”モトクロスリザルト”とやら言うもんにでっちゅう(熱中)してるらしい。  何でもでっちゅうする気質らしく、ハイファイに夢中になって手に入れた大きなスピーカーシステムがその大きさ故に、居所を追われて今この部屋にある。  週末とかにさまざまに場所を変えてわいわい集まり、大勢でオフロードや林道を狂った ように走り回るんだそうだ。  ドライブテクニックと根性、俊敏な身のこなし、自在なプランニングとかが必要でめったやたらにハードとお見受けした、それを尋ねると当人は、『……!』首を傾げてい る。  埋没してるな!、んで憑かれてるな!、うらやましい。  『……を見て見ろ!』と言うので、”Goo”で見たらあっと言う間に見つかっ た。  上位に入って興奮気味の精悍な顔で突っ立ってる写真があった。  またしても、遠いところにいっちまったのだ。  釣りは、……?!。  煙草の煙は、明日いつもの ように窓を開け放ってやればいいのだ。  灰皿を片づける、3本の吸い殻が残されていた。  垣根を乗り越えて公衆電話から掛けて受話器を置き、急いで部屋にとって返す。  去年の9月からベルは、沈黙により人物の時間に唐突に空隙を打ち込む無礼を追いやっていたのだ。  Aterm IT65Pro の設定がそうなっていたらしいが、持ち主の真の気持ちをよく知っている、なんと素晴らしいアダプターなのだ、いいぞ!!。  モニターをよく見ると、文字の端が『シュワ、シュワ、……』と沸き立っているように見える、Hawk Eye でリフレッシュレートを85Hzから75Hzに変更する。  どうやら先日のドライバー(Drivers)のセットアップで戻ってしまってそのまま気が付かなかったらしい。  

1998年1月30日金曜日

夜更けに空中テーブルで『カリッ!、コリッ!、…!、…!』生き物の起てる音がする。  先ほどふらっと夜の散歩に出かけて往ったチビちゃんかな?!、と思って窓を開けたら、大きな白に茶と黒の丸模様を絶妙の塩梅で散らした”オコジョ”であっ た。  丸い目をキラキラせ口を突き出し中に身を乗り出してきた、首と背を揉んであげた。  澄明な目を瞬き『ミャ〜ァ』と小さく言った。  大好きな太くて長い海へびのだんだら模様の尻尾を振っ た。  さらにオコジョとそっくりの”白と茶と黒の丸模様を絶妙”がやってきて木の枝に乗かって優しい顔で見る。  兄弟だろうか?!、そっくりだから親密の発表でどちらか認識 する。  今まで全く気が付かなかったが、視線に距離があったので不思議に感じたあの時人物が嫌いになったのでなく、”これから”だったのかもしれない。  無礼がなかったのが嬉しい。    (^.^ ;) 白に灰の模様のささくれた顔のも来た、痩せている。  元気にミルクを飲み、『カリッ!、コリッ!、…!、…!』、動物用クッキーを噛む。  部屋の温度19℃、相対湿度41%、夕方還って来たときは、9℃、50%。  キリリと引き締まった気持ちのいい夜気を吸いながら、”MOS BURGER”へ歩く。  明るい三角屋根の春靄の中に、異星人が数人いた。  ガラスと石、白木の柱が剥き出しの高い天井の別世界である、深夜のせいか音楽がない。  アメリカのフラットなバーガーショップに入ったような気持ちがはればれ、のびのびする異空間の空気を吸う。  物静かな優しい男達は、皆憑かれたように放心したり、書類を広げて盛んにペンを走らせたり、木のベンチに横たわってい る。  フードを被ったままのや何かの獣のキャップを着けている痩せた面長丸顔のお方もきっと一人二人いる。  真新しい大きなストーブが静かに燃え、青いジェット噴射を『ゴーーゥーー』と吐いてい る。  天面を試しにさわってみたらひんやりしていたので感心する。  ほかのと違った丸い座の椅子が三つ近くにある。  最適のものを調達しているのがすぐ解る。  里芋の緑の葉っぱを頭に乗っけた子が描かれた紙袋を持って還り、楽しみに開ける。  それなりのバランスから溢れる肉汁とトマト、タマネギ、マヨネーズ、スパイスの”対位法”を急ぎつつゆっくり頂く。  やはり別世界、タマネギが暴れないようにマヨネーズがなだめつつ青 匂い精気を吸い出してい る。  オコジョとその友人も還ったみたいだ。  BANDA MEL/ BAIANIDADE NAGO/ VICP-8108/BRAZILを聴く、ハスキーなもの静かな優しい声に、無窮の悠々たる満ちたりた気分になる。

1998年1月31日土曜日 

”チリッ!〜、チリンッ!〜、……!”澄んだ音が不自然な割り込みで混じる。  どうやらそれが現世で、つい先ほどまで激しく駆け巡っていた研ぎ澄まされた超自然は、脳が暴走しつつ映したものらしいと気づく。  その中へ戻ろうと体をくねらせてみる。  そろりそろり足下にほどよい重さ大きさの、暖かいものが上がりどっかりと居座る。  今度、覚醒した時は9時を少し回っていた、目が醒めてしまうと体温の調節が機能を開始し、風邪を引き易いのですぐ跳び起き る。  昨夜  =(・。.・)= にふるまったのでミルクがない。  『グィ〜……ン』、金色の”小田急特選 焼き海苔”の筒を開け、味付け海苔”極”にあった乾燥材と一緒の残り少ないコーヒー豆をミルに移し粉砕 する。  濾紙の上でキャップをコンコンと叩く時、 =(・。.・)= が背を低くし耳を倒してちょっと警戒する。  蓋が落下して当たったことがあったのだ、自分と同じ大きさのミルが怖いのだろうか?!。  (゜∇゜)="エビちゅ"も一度なんかの拍子に自分の重みがかかり、『ピャーゥ!』と鳴いたことがあり、ハッと1mばかり跳んだ。  オーブントースターで2個くっつけた餅を焼く。  ほどよく膨らんでうまく出来上がるものを探したので、前みたいに中味が外にドロリと流出することがない。  (インターネットマガジン3月号)の付録のCD−ROMの2枚両方に大きなひびが入ってい た。  書店で新しいのを貰う、2度目である。  いったい何時この損傷が発生するのだろうか?!、不思議だ。  洋食亭”ブラームス”Yで遅い昼食、元気な若者が嬉々としてきびきび活動してい る。  始めて入ったが、いい感じであった。  まさにブラームスであったので、すっかり気に入った。  不揃いなほどよい大きさ(小ぶり)の牡蠣フライは、当然ながら外殻はパリッと潔く、核心はおつゆたっぷりに揚がっており、野菜もパリッ!と元気がいい。  何より閉塞感が皆無で、その対極の淡いキラキラした優しい光輝が溢れている空間がとても気分がいい。  ジャズが静かに吹いていた。  デザートのコーヒーが実に香ばしく優しい深みが拡散するすばらしいものであったのでやはり”ブラームス”なのだと感じ入っ た。  ひとくち触れてみてどっかであった味と思った、新宿の靖国通り南側の”DUG”のふくよかな洗練に『おっ…!』と感心した、あの驚きであった、きっとプロのコツがあるのだろう。  

1998年2月1日日曜日

三省堂でカレンダーを入手した。  写界深度と焦点がハッとするほど深くて鮮鋭で ある。  草と白い砂浜、とろりとした海洋の5月が気に入った小さい(Cape cod)のと、プロバンスの荒々しくキラキラした光輝に包まれた気遠い静寂の荒野の大きな(PROVENCE STEFFEN LIPP)のを獲得する、こちらは黄と橙が燃え上がる11月、ミストラルの暴れる絵はない、残念……!。  丸井の地底に降り”Virgin”で、ASTOR PIAZZOLLA/57 MINUTOS CON RELIDAD/ INT 3079 2/TANGOと、S.E.ROGIE/DEAD MEN DON'T SMOKE MARIJUANA/ CD RW46/AFRO を獲得。  広いフロアーに響きわたる"♪"がちょっと気になり、列の端に立ち、なにやらてきぱき書き込んでいる、痩せた黒い服のお方に聞いた、『演奏中のこれは、何ですか?!』、『これでござ……』とちょっぴり得意さうに新譜の衝立にたくさん並んでいる前に連れて往き”DEEP FORESTComparsa”を取って手渡した。  痩せた黒っぽい服のお方は、誰かに似ているな……と思ったら、『……さんは先ほど、タクシーでPCと一緒に還りました』、『……いえ私も始めて会った時は…、……は女ですよ 。』、『……!』の数年過去の会話が想い出される。  すっと突っ立って遙か遠くをぼんやり醒めていっさいをサラリとした捨棄の眼差しで凝視する姿の印象が、いっこうに色褪せないでくっきりした象徴化の傾性を増すばかりの”SY”だっ た。  サンジェルマンでパン菓子(リンゴパイ、カスター ドクリーム デニッシュパイ、チョコケーキ、……)とクロワッサンを買って還る。  明日の朝は、クロワッサンとカフェオレ、リンゴだ。  初夏から初冬に向かって、プラム、水蜜桃、キュウーイ、メロン、瓜、デラウェアー、巨峰、甲斐路、柿、紅玉、その他のリンゴへと巡 る。  トマトがメインに入ることなく価格でしか季節感が味わえなく、野菜なのか果実なのか実感としてのけじめが失せたのが哀しい。  皮がごっつい、剥くと”バリッ”と叫ぶ台湾バナナも少なくなってしまっ た。  サンマの開きを焼き、タラバガニと牡蠣の赤だしで遅い夕食。  メイルで教えてくれたのでAterm IT65Proのファームウェアーとユーティリティのバージョンを更新し た。  それぞれ、V1.0x、V5.00からV2.08、V5.03に上げた。  ナンバーディスプレイ の設定もやりたい。  SUPER DIAMONO DE DAKARA/ PEOPLE/ DK018, 8519 や、T.P.O.K JAZZ/ SOMO!/ TMS 91006、THOMAS MAPFUMO & THE BLACKS UNLIMITED/ VANHU VATEMA/ TMBU 14を聴く。  力まない肩の力を抜いたしなやかなのびのびしたアンサンブルにいつしか引き込まれる。  とっても大切なものに触れている悦びがこみ上げる、繰り返し聴く。

1998年2月2日月曜日

朝早く目覚まし(藤原真理/バッハ/無伴奏チェロ組曲)で呼ばれる。  人物の声に近いスペクトラム(≠フォルマント)を持つ”語り”がない音は、遙か100万光年の彼方、第七銀河のその向こうの黄泉の国から唐突に帰還する合図として最適で ある。  人の声、ヴォーカルだと暴走中に映像にすっぽりはまって登場なさるので具合が悪い。  打弦(PIANO)だと、不躾で無機的すぎて冷水を浴びたようにショックが伴う。  弦のアンサンブルだと荒野をわたる風と勘違いして目が醒めない。  一番望ましいのは、旅先で物憂げに窓辺に寄り、そぼ降る雨音が川のせせらぎと渾然と体位する、恣意が鎮静しつつ覚醒する楽で ある。  それを今でも探している、竹藪を”ド……ゥ”と吹き抜ける風音でもいい、これでいかなる映像が駆け巡ろうとて、その音が癒してくれそうな気がするから……。  風薬を飲んだ後は、きっと怖くて楽しい夢(=脳の暴走が映し出す映像)が見られれるので楽しみなのである、さらに色が付くと大いに満足 する。  しかし後ろめたい雑念があるので、発病していないときっと駄目である。  まだ外は真っ暗である、部屋の気温は10℃。  真っ先にコーヒーを炒れ、ミルクを電炉で温めかけてから顔を洗う。  未だ暖かさを曳きずっている顔や頭、手足がだんだん冷気に触れ体が引き締まる。  ポットに直に楔濾紙(カリタ)を乗っけてお湯を注ぐ。  生き物との遭遇の際しては、ボイスコイルの発熱を伴う音楽への渇望が興らないのだ。  だから荒野に向かい、釣りに行く神聖な朝は音楽がない。  オーブントースターで餅を焼きながら、リンゴを剥く。  バッグにポット、おにぎり、タッパのリンゴ、釣り道具などを詰めて出撃する。  すでに明るく広い道路は、一瞬静かで ある。  東の山の端が黄金に輝き、横殴りの光彩を発射する。  ふっと力が抜けた世界が広がる。  天空は、抜けるように穏やかに澄み切って掃いたように清々している。  河原を歩く、ゴロゴロした大きな石と砂礫の連続で歩きにくい。  懊悩や懈怠、酸化が弾き出され拡散しつつ霧散する、体に引っ張られて脳裏が澄明になっていく。  四肢がすっかり自分のでなく、勝手に力を込つつ踏みだし侵攻し、その反射をひたすら受けているだけなのだと言う、ふつふつと嬉しい気分がわき上が る。  ゴツゴツした河原が変わらぬ優しさで押し返してくれる。  静寂に覆われた平原に黒点となって侵攻していく、しかし染みが這っているようにも見える。  ときどききれいな砂地が出現する、水辺際をとぼとぼ辿 る。  水鳥が驚いて飛び立つ、鷺だろうか?!。

1998年2月3日火曜日

流木が何かの遺骸のように点在する。  薪に適当なものを物色しつつ侵攻する、大きくて持てないのはずるずる曳きずって行く、曳きずれないのは後から取って返す。  袋からザラザラの麩が主成分の甘い匂いの粉末をボウルに空けて適当に水(たいてい4:1の分量比)を入れかき混ぜる。  あっという間に水分が行き渡り粘りとまとまりが生まれ る。  手の指の甲の方で軽く押さえて空気を抜く、これだけで粘りがつくので塩梅が結構大切なのだ。  いったん付いた粘りは元に戻せない。  これは、水底や宙で少しづつ徐々にバラバラになり拡散して敵を誘引するのである。  これだけでいい場合もあるが、さらにスティックに入ったグルテンとマッシュ(ジャガイモ)の混合粉末(発酵ホワイト、…など)を水(1:1の比が基準)でさっと溶く。  5分ぐらい放って置くとまとまる。  そのまま取って大豆大にして滴状になるように針に付け、だんだん解けだしても最後まで針に残ったままそうなるようにする。  これも加圧により粘りと重量が増す、溶けないものは食欲をそそらないので駄目なのだ。    そんなこんなで楽しい準備が進む。  竿や椅子を組み立てる。  すでに浮子と重り、棚(針と浮子間の距離)の調整は先日のままであるので、パチンコ玉大の拡散弾と大豆大の団子を2つの針にそれぞれ付け る。  先ず団子を作ってその中に針を入れて丸め、同心円の真ん中をハリスが通るようにしながらくるくるよじる。  針の上を掴んで起てた竿を少し撓ませてそっと放つ、あくまでそっと放ち送り出す、でないと団子が置き去りにされちまう。  重りが沈み浮子が引っ張られ次第にゆっくり立つ。  パチンコ玉が解けるにつれて浮子がゆるりと少しづつ浮上するのが、水面に突出している細いプラスチックの極彩色の7段模様で解 る。  じつは、針が水底を這っていたり、ゆっくりした水流があるのでこの動きはもっと複雑になる。  ここに核心と要諦が秘められていて軍事機密なのだ。  針が水底を這っているのは、収餌衝動を促進あるいはそれを、より容易にするためにほかならない。  オイカワ(ハヤ)や真ブナ(ギンブナ)、鯉などは、水と一緒に吸い込んで餌を食べる。  宙に浮かぶ固まりは不自然なのだ、パン喰い競争のようにじれったいのだ。  じっと目を凝らしていると、水面を走るさざ波で目眩がする、大地がグーッと航海をしている錯覚が起こる。  ”ふっ”と浮子が浮かび上がったり、”ピリッ!、ピリッ!”と身震いしたり、”モヤモヤッ”と牽制したりするが、じっと我慢する。  ”チクッ!”、”ツンッ!!”と俊敏に数mm沈むのを見逃さずに、『ハッシ、……!!』と間髪を入れずに肩から真っ直ぐ伸びる右手を強く握 る。  これで竿先は1mほど煽られて上顎に針が食い込む。  浮子がキリモミしながら斜めに走り潜水する、強い力で竿が倒される、その前に遅れを取らずに起てなければならない。  棒倒しと同じく寝そべってしまった竿は、撓りをうしないラインがあっけなく切れてしまう。  浮子が沈黙を続けたりふてくされる時や景色に飽きた時は、気分転換に流木を集めて火を着け る。

1998年2月4日水曜日

熱線が芯から温めてくれる。  木が焦げながら”バキ!バキ!”割れ、遍歴をさまざまな匂いで一気に吐き出す、青竹が蟹のように”シュワ、シュワ”泡を吹き”パーン!”、”ボン!”とだしぬけに破裂 する。  風に煽られ真っ赤な炉心がぼうぼうと喝采を叫ぶ。  平らな石に乗っけておいた”玄米茶 おーぃお茶”から、蒸気が上がる、火傷をしないようにタオルで掴んで、『ぐびっ!』と飲む。  静寂の河原は、はればれとした歓声に満ちている。  午後から、CDの探索に出かける。  またしてもブラームスに直行 する。  今日は、ハンバーグに決めていた。  ビールのケースに乗っかって、カウンターに皿を綺麗に積み上げている白いエプロン?!を巻いた華奢な活動者を眺めてしまう。  重量感のあるめまぐるしく身軽に動き回る、髪を垂らした”ブラームス”君?!もい た。  ”和風ハンバーグ”は、思ったとおりの逸品であった、カラリッ!としたバネのあるブツにグイッ!と冷ややかなナイフを差し込むと、”ツツッ!”、とキラキラしたものが溢れ出す。  絶妙の喚起と温厚をしっかり食す。  広くて厚い皿の中でこんがりよく熱が通った大ぶりのジャガイモが叫ぶ、『俺様を喰ってみれ!』、皮ごとあっという間にやっつけてしまった、微かなえぐみと歯ごたえに精妙な至境を思い知 る。  ブロッコリーが歯ごたえ充分でフォーックをグサリと射したら逃げられた、椅子の上に。 (−.”−;)  久しぶりに美味しいもんを堪能し立ち上がれなかっ た。  うっかり、あの”DUG”コ-ヒーを所望するのを失した。  きっと毎日食べても飽きさせない、パワーが秘められているに違いない。  お皿まで欲しくなってしまっ た。 (≠これを食べる)  ワールドミュージックのCDを4枚、ブルーマウンテンを持って橋を渡る。  暖かいまぶしいキラキラの斜光を浴びつつジンジンしながら坂を登 る。 SALIF KEITA/ "FOLON" THE PAST/ CIDM 1187/(アフロポップ) ♪ ♪  Youssou N'Dour/ EYES OPEN/CK 48714/(アフロポップ)  ♪ ♪ ♪、MORY KANTE/ TATEBOLA/ DME18 、D'GARY & JIKE/ "HOROMBE"/ LBLC2515を聴く、なぜこんなに惹かれるのかわからない。  活字も音楽もめいめいがかってにその資質、情念で感じるところがおもしろい。

1998年2月5日木曜日 

夕方、玄関で口笛を吹く。  いつもは、『ミャ…*…*…』小さい打ち振るえる声が還ってくる。  跳び上がるようにコロコロした茶と黒、白の毛に覆われた溌剌としたお方が駆けてく る。  北の垣根の向こうの駐車場の方からであったり、西の近所の植木鉢の棚の下から這い出て来ることも、西の道路の向こうの垣根を潜り広い道を横切って来ることもある。  少し間を置いて力を込めて口笛を吹く。  何かがゴソゴソ這い出て来ることも、転げてくることもない。  いっぺんに重い気持ちに沈む、昨夜のことを振り返ってみる。  ゴロゴロを少し力を入れ過ぎて念入りにやったのがいかんかったのか?!。  内股をぐりぐりしたときの歓声は、実は悲痛であったのか?!。  友達が引き止めているのか?!、一緒に大好きなゴロゴロをやっているのか?!。  夜遊びが過ぎて午睡が長引いているのか?!。  机の下を覗いたり、窓から笛を吹いてみたりする。  窓を少し空けておく、寒い。  しばらくして、『スッ……!スッ……!』聞き覚えのある、優しい音がしたと想ったら、インターラックの上段のゲートを潜るお姿があっ た。  (;_;)……。  『トンッ!』と軽やかに床に飛び降り、見上げて『……ャ』掠れた声でなんか言った。  いつもと何ら変わるところがない。  ゴロゴロをしながら体中を診 る。  左右に突出した白い弾力に跳んだお髭がいっそう精悍になったぐらいで微かな野獣の匂いも大丈夫であった。  さわった瞬間、毛先がヒンヤリした。  頬をゴシゴシされると歓ぶが、必ずグイッ!とふんぞり返って人物の手を舐めようとするのでずっと続けるのは骨が折れ る。  後ろ首から背、腹を順に揉んでやる。  挨拶が終わると真っ先にミルクをペチャペチャやる。  ホットパネルの上で人物の足の甲に頭を乗っけて眠る、ゴロゴロした鼓動がくすぐったくこの上なく快感で ある。  靴下を繕ったり、ゆっくり引っ掻いたり、押しやったりする。  広げた本から焦点がずれたまま、『……ぁ』、動けない。  SUUPER RAID BAND DE BAMAKO/ LBLC 2500と、BRICE WASSY/ N'GA FUNK "KOUH MUSIC"/ L71294 を聴く。  西アフリカの果てしない地平をたゆたう、永遠の安らぎを想う。

1998年2月7日土曜日 

昨日頭痛で憂鬱な半日であった。  たぶんかぜの引き始めだろうと思い、右手側に直立する文庫本棚兼CD棚の再下段に、いつも置いているぺこちゃん(FUJIYA milky) の赤いケースを開き錠剤(かぜ薬)を4種類1コづつ取り出し、お茶で飲む。  これは、ホックを”パチンッ!”とはずして開くと、天面が全開する四角の小さな皮の財布を目に留め、ビルギットニルソンが『……かわいい財布ね〜*』と発せられた声の、余韻を後頭部に漂わせつつ暮れの夕暮れを航海した漂泊の結果獲得したもので ある。  3時間ほどで憂鬱と一緒に頭痛が霧散していた。  近所の電気ショップへ”ポストペット”を見に出かける、春の気配がよぎる風は、どこか懈怠が漂いしめやかであり頬を優しく掠め る。  民芸うどんの畳の壁のように広いベンチ椅子にもたれピンクのケースを空けて眺める。  裏の”PostPet2160字”を読む、句読点が皆無で読みにくいのでむっとする、まさか締め切りに間に合わなくなっちまって”べた打ち”のまま使ったんじゃないだろうけど、真相がそうだと (−.”−;)だな。  2度とすんなよ、『○藤スタパ君』(^ ^)  ビデオカード(Revolution 3D Accelerator) 2のBIOSを更新し た。  IE4.0x でいわゆるハングアップが、たま(マウスをキックした瞬間)に発生するので何とかしたいと思って情報を収集していたところ、ピッタリのサイトにあたった。  #9のテクニカルサポートを見つけてアクセスしたところ、『バイオスのバージョンを上げるがよい!……。』 との嬉しい教えが得られ、しかも今日、早速メイルで新しいBIOSが送られてきた。  ワクワク!、ドキドキ!しながら早速セットアップを始める。  (1) MS-DOS起動ディスクを作成する。  MS-DOSディスクを起動するのに必要なシステムファイル ( IO.SYS、MS-DOS.SYS、COMMAND.COM)やシステム起動(ブート)情報を記録する。  (2) システムファイルを転送する。  DOS プロンプトにて SYS.COM コマンドで転送する。  入力:c:>sys c: a: [Enter]キーを押す。  (3) メールで転送された2個のファイル( flash.exe、30305e1.rom)をフロッピーディスクへコピーする。  (4) このディスクからブートする。  (5) flashコマンドを実行する。  入力は、a:>flash 30305e1.rom  [Enter]キーを押すだけ。  (6) メッセージに従ってセットアップする。 (”Y”キーを押すだけしかすることがない。 (−.”−;)) (7) セットアップが終了したらHDDから再起動する。  これでおわり。 

1998年2月8日日曜日

『……ホッ!』  ビデオカードのユーティリティー (Hawk Eye) に3個ある”Status”タブの真ん中を選び更新されたことを確認する。  『……のBIOSの日付:01/15/98  BIOSのリビジョン:3.03.05 ……』が確かめられた。  残りのタブには、製品名、メモリー構成とか、実解像度、ドライババージョン、ディスクバージョン(最初は、これが紛らわしい)、……が隠されているのが確かめられ る。  さらに嬉しいことに佐川急便でマザーボード(P2L97)の日本語マニュアルも送られてきていたので、今度はこれのアップデートだ。  ほとんど同じやり方らしいが、『……アップデート中に問題が発生しても電源を切ってはいけません。 システムの起動ができなくなる……とか、……アップデートに成功したら……』と、ハラハラ、胸が締め付けられる ような、気を曳くことが書かれている。 (−.”−;) ASUSのサイト(P2L97 1)に最新バージョンがあるらしい。   ポストペットをセットアップして歓んだのもつかの間、”メールチェック”でエラーが出る、送信はうまく行われているらしいが、受信がいかんらしい。  ポストペットのペイジ((-."-;))を開き、不本意ながら”初心者の館”に入っていく、そこでプロバイダー別ネットワーク設定例があるのを発見 する。  試しに扉を押し、目指すプロバイダー Geocities(com)を見る。  【POPアカウント:○○○○@mail.geocoties.com(ジオシティーズ ジャパンとは設定が異なります)】が、違うらしいので例に倣って訂正したら、うれしやすっかり良くなった。  しかしどうやら、前からあるメイルアプリに”吸い込まれた”らしく、自分に出したメイルをもったまま、”しばらくお隠れ”になってしまっ た。  嫌いなおやつだとがんとして首を横に激しく振る、コロちゃんがいないと火が消えたみたいだぁ。  (;_;)  (^.^ ;)。  夕方、 =(・。.・)= が『…∽…∝…‰…*…、( ¨) 』見上げて催促するので窓を開けたら、どこへやらふっと行っちまった。  『ピュー!、ピュー!』、窓を開けて闇に向かって口笛で呼んでも還ってこない、5時間ほども経ってから南の窓を茶の影が動くので窓を曳く。  [[ =(・。.・)=]] 『……カサッ、……トンッ!』と音を伴い冷気の降る闇から戻ってきて、インターラックの上段を潜りタオルケットで足のクッションを綺麗にしてから飛び降り る。  (;_;)  いつか、それっきりっということになるんだろうか……、?!。  (;_;) 鼻が舐められないようにしっかり抱きかかえて、頬ずりをしてやった。  いつもの狂おしい野獣の証が微かに拡散する。 

1998年2月9日月曜日

早朝(5時頃だろうか?!)『ポト!、ポト!、……、トン!』なる床を直伝する音で第七銀河の100万光年の拠点で活躍の真っ最中に引き戻され る。  真っ暗闇の中になにやら活動を始めたお方がいらっしゃる。  =(・。.・)= が外に往きたいらしいので、隙間を開けたら『……ササッ!』と、躊躇することなく発進して闇に吸い込まれて往った。  ふて寝をする、隙間を開けていたらしめやかな、しっとりキリリッとした寂寥がそっと忍び込んで来るので閉める。  かぜ薬の卓効だろう、ふて寝で長編の疲れる夢を疾走する、昼頃に目が醒めた。  斜光を浴びて眩い陽に向かって西方へ向かう、春の気配を吸いながらゆっくりした坂道を下り橋を渡り喧噪の密集に溶け込む。  古典ジャズが静かにさらさら吹き抜けるブラームスで買ったばかりの”MUSIC MAGAZINE”の2月号を広げる。  レモンをチュッ!とやり広島牡蠣フライを食す、苦いコーヒーを堪能する。  すばらしい午後だ!。  今度は、やはり”ぽってりジュワッ”の和風ハンバーグにしよう。  ’97年間のベストアルバムが15ジャンルに分けて特集されている。  例によって評するものが評される構造が透けて見える。  上期と下期くらいが情報が新鮮でいいと想ってしまう。”BOB DYLAN/TIME OUT OF MIND”とか”AJAVA”、”ROBERT WYATT/SHLEEP”に目がいくが欲しいものが無い。  八○○駅北口のビルの5階のTOWER RECORDS でCDを物色しブルースを3枚、AFRO POP を一枚獲得し、”サンジェルマン”で”デニッシュクリームパフ”2個とアンドーナツ、ボールドーナツ、チョココロネット、ナン、アップルパイを獲得。  遅い夕食は、紅シャケの(塩)焼き。  オレンジとコーヒー、デニッシュクリームパフ。  CDの列を物色し活きの良さそうなのを引き抜く。  SENEGAL FLASH/ DAKAR/ 38907-2と、SENEGAL FLASH/ZIGUIUCHOR/ 38908-2 を回す。  たちまち土を蹴立てて跳躍する寂寥と闊達、澄明、優しさに圧倒され打ちのめされる。  なにより西洋音階なぞの重い鎖や無機的な構築が皆無だからして、ほんに根元的な安息が息も付かせぬ壮烈で駆け抜けるのです。  ポリリズムと目眩く荒々しい絢爛に息を飲んでしまう。  繰り返し聴くたびに精神が鎮静され屹立する。

1998年2月10日火曜日

”一太郎8 Office Edition/R2”¥3Kの申し込みをFAXで送った。  画面と反射が洗練されているかどうか?!、セットアップトラブルがあるかどうか?!にしか期待がもてなくなってい る。  ショートカットメニューが印刷できるといいなぁ〜。  =(・。.・)= チビちゃんが来ない。  早朝、生き物の気配で意識を回復し寝ぼけた朦朧とした夢路を曳きずった意識の中でふらふら立ち上がり、暗闇で窓を少し空けたら例によって『……トトッ!、∝…∽…ッ! 。』と黒い影が滑り出していった。  カーテンがふらっ!と揺れた。  それっきりその生き物に会っていない。  そのまま倒れ込むように眠った。  1/3日が過ぎ、カラッ風のカラカラと駆ける夕方、待ち人もとうとう来なかっ た。  無精髭の”モトクロス君”が珍しく昼間、電話で呼んだ。  『お〜ぃ!、インターネットはPCがあればできるのか?!。』 『(^o^)、プロバイダーに入る……あります。  CGI、SSI、接続……ソーネットがいい……。  うむ(^ ^)、いい質問だ!、雑誌に付録のCD−ROMから簡単にできます、俺がはじめた時は、電話でたどたどしい日本語の……に教えてもらったんだぁ。   (^.^ ;)  (^.^ ;)  やってあげます……。 ……9時!。』  巻き舌のコロコロ転がるキンキンしたように聞こえてしまうボイスの、大人の真摯な助っ人?!達は今頃どうしているんだろう……。  しばらくして彼女達の大人の声が還って来ることがピタリと止んだ。  そのころから教えてもらうことがなくなった。  画面が変わったため今はもうそんなことはないが、あの設定画面を開く度にあの明晰な圧倒的な機転と、たどたどしい他国の言語の語彙に悩む、声の背後から押し寄せた優しさを忘れたくない……。  てっきり日本から発せられていたと思っていたあのボイスは、海の向こうから発信していたのかも?!、と『ハッ…!』と する。  濃紺の吸い込まれるような高い天の下、夕闇の空風を切り裂き西方に向かって疾走する。  周りの景色が流れ、脳裏に希望めいたものや、捨棄を欲する懊悩が明滅 する。  しかし =(・。.・)= が還らないので、北風がキリキリ刺さる。  ブラームスがあるビルは、終わっていた(休み?!)。  途方にくれてすごすごとって返す。  とてもCDの探索の気分が起こらない。   悲嘆に向かって東方に疾走する、激しく呼吸をして忘れたいと念じる。  渺々と大気が流れ、眩しい銀の盆の月に向かって漕ぐ。  深青が微かに残った天空にキラ星が瞬く。  気持ちと裏腹の『パカーンッ!、…∝…∽!』と抜ける星月夜だ!。  棲み家にたどり着き、『∝……∽……∝、!!』口笛で呼んでみる。  『…………』 発表が無い。  机から離れ半身乗り出し時々呼んで見るが、10cm程空けた南窓からは、冷ややかな夜気が忍び込もうとするばかりである。  留守番電話のカウンターが回っている、どうやら”モトクロス君”は河の向こうにいる時に、ちょっと早めに来たらしい。  明日こそ……。

1998年2月11日水曜日 

いつものチェロのまったりとした響音で現世に出る。  ぐずぐずできると分かり切ってると有り難みがないので跳び起きる。  『∝∽……∝∽!!』窓を開けて =(・。.・)=を呼んでみる、静かだ!、反射がない。  外に出て呼んでみる。  昼間は、人影があるのでちょっと恥ずかしい。  コロコロしたものが転がるように駆けてくる姿は、目を凝らしてもない。  昼過ぎ出かけようと玄関に立ったら、ドアの向こうで声がする、『……ャ』。  開けるとちょっと後ずさって、きっとドアにくっついていたのだろう、スルリと入りトコトコ走 る。  冷蔵庫から生シャケを出し、3cmくらいづつに切って供する。  冷蔵庫の前に立つと足下に纏わり付き、けつまづきそうになる。  ジーンズによじ登ってなにやら発しながら、何があるのか?!、なにをやっているのか?!、懸命に見ようと する。  背中を頭から尻尾までなで下ろしてやる、尻尾をピンッ!と起てて前屈みになり、なにやら言いながら掌に横顔を擦り付ける。  強い力で押すので同じ力で支える。  右のお髭が2本切れていてチクチク痛いぞ!。  ひっくり返して床にゴロリンさせ柔らかい毛に覆われた白い腹をなでてやる、思いっきり四肢をピンッ!と伸ばしてピリピリさせる。  『そうか!、これなのかぁ…、(^ ^)、…*、』いつもの挨拶が終わると、床に置いた新聞紙に載った皿のミルクを”ペチャペチャ”飲み、”ガリガリッ!”魚を囓る。  机の下の暖かい座布団で丸くなる。  すっかり安心して西方に向かう。  風が顔だけにヒリヒリと擦り気持ちがいい。  まだ南を這っている光彩を見ながら、ヒューヒュー駆ける。  知らない人のひしめく荒涼とした石とガラス、鋼鉄の構造物を探索 する。  心を捉えるものがなにもない。  時々親密を持った表情が突然出現するが、なにもなかったように過ぎ去る。  天空が澄み渡り風が柔らかい、シャンと冷ややかだがどこかムズムズしたそそのかしが隠れてい る。

1998年2月13日金曜日

夕方、春風に吹かれ南側の高窓を少し開けてチビちゃんを待っていると、ベルが鳴った。  間違い電話か”山男”しか掛けてこないので、たぶん”モトクロス君”だろうと思ったら果たしてそうであっ た。  プロバイダーを決めるための相談かと思ったら、『お〜ぃ……、繋がることは繋がったんだが、なんか文字化けするんだぁ〜!。 ……』と言う。  冷蔵庫の近くの留守電(山東昭子の切り張りボイスのレセプションメセージが出るやつ)から机の電話に切り替え る。  『IE3.0xから一回繋がったインターネットがいろいろいじってたら文字化けするようになった。』と言う。  『……あぁ、それはよくあることできっと直るんだぁ〜!、重傷ではない!、大丈夫だ! 。』 ちょっと嬉しいがぐっとこらえて飄々と嘯く。  ダイヤルアップネットワークのサーバーの種類やら、TCP/IP設定やらを#1を立ち上げて画面を見ながら確かめ る。  しかしいじったのは、ネットワークの設定だけ、今は繋がらなくなっていると言う。  『Microsoftネットワーク クライアントとかダイヤルアップ アダプターが2つある?!、TCP/IPが無い?!、……。  おまえのはどうなってる……?!。』 一旦削除して再セットアップをやってるらしい。  『……をセットアップしたら……も勝手に入った、おまえのと同じになった、……電話を切って試してみ る。』 しばらくして”繋がったい”と教えてくれた。  それから便がない。  『おまえんとこは、どうやって見るんだぁ……?!。』  『検索ってのがあるからそこで漢字で三文字”太○風”か”む……ゃ”とキーワードを打ち込めばいいんだよっ! 。』 といった会話をしたがどうなったのか?!。  何かあったら電話をよこすだろう。  きょうも 、=(・。.・)=チビちゃんが来ない。  (−.”−;)  気合いが入らない、本を広げる気も起こらない。  燦たる横殴りの朝日を浴びて黄金に煌めき輝く、カレンダーの表紙(PROVENCE STEFFEN LIPP 1998)をぼんやり眺める。  『……ャ!、……ッ!、∝…… ∽……』、夜更け空中テーブルで激しい物音と声がした。

1998年2月14日土曜日 

西方の低気圧に向かって南風が吹きこんだのだろう、風に春の気配がたなびいている。  こんな日は気もそぞろ落ち着きを失う。  部屋の中で本を広げていても活字が起きあがらない。  ぼんやり外界の光を写す淡く滲んだ燦たる絢爛の光輝の潮騒の静謐なノックを眺めるうちにもぞもぞしてくる。  外に飛び出す、緩やかな坂の途中で上着を脱ぎながら西方に向かう。  欄干に足を掛け川面を渡る柔らかいキリッと新しい風を眺める。  川原を覆う草や葦、灌木、ニセアカシアは枯れたように見える。  瀬でざわめく白い流れをいつまでも眺めていたくな る。  いつもの洋食亭に座る、子牛のカツレツは今まで知ってる肉とはずいぶん違った新しい物であった。  YORUBA STREET PERCUSSION/ OMCD 016/ AFRO POPを聴く。  しわがれたコーラス、ボーカルとトーキングドラムの”ブン!、ブン!”と籠もった独特の語りが浸み渡る。  風邪気味で鈍く鬱陶しい脳が洗われ、ちょっと元気にな る。  続いてこれも最近入手したORCHESTRA BAOBAB/BAMBA/ STCD 3003/ AFRO POPを取り出す。  彼方から足下をうねり這い回る目眩く律動に心奪われ、明るいボイスに付きまとう寂寥とカラカラした闊達にすっかり引き込まれてしまう。  AFRICAN VOICES SONGS OF LIFE/ NARADA COLLECTION SERIES/ ND-63930/ AFRO POP を聴く。  自在に対位法的に高原を渡る緑風のように清々した、一切を捨棄したようなきっぱりした飄々とした爽快が駆けて行く。  =(・。.・)=チビちゃんが来ない。  近くの駐車場に探しに行くと、何匹かの野良猫が遊んでいた、何度か遊びに来た灰の三毛もいた。  空中テーブルにダンダラ模様の尻尾のオコジョが登場 する。  鼻先がちょっと汚れている、スルリと部屋に滑り込み、隣の部屋のチビちゃんの皿まで行き、ゆっくり一回りして退散していった。

1998年2月15日日曜日 

DEEP FOREST/ Comparsa/ SAN 488725-2、DEEP FOREST Boheme/ COL 478626-2、DEEP FORESTDeep Forest/ BK 57840をぶっ続けに聴いてみる。  だんだん醒めてくる。  でもまたいつか取り出して聴くだろう。  大きな期待を持たなければいいのだ。   =(・。.・)=チビちゃんが来ない。  呼んでも無駄だろうと思い、どうすることもできない。

1998年2月16日月曜日 

エレベーターで一階に降りて、薄暗い通路を少し歩きドアのガラス窓から中を覗く。  想ったとうり無精髭がいた、しかも兄弟で並んでいた。  しめしめ(^ ^)、がらんとした静謐なプロジェクトルームのワークステーション(SUN)のモニターの前で例によって、ふんぞり返っていた。  真剣な顔をしていたがそっと忍び寄り後ろに立つと、『……おっ!、……来たなぁ! 。』と、無骨な笑顔で振り向いた。  『うまくいった?!……』、『う……、繋がった〜ぁ。』、『俺んとこ見た?!……』、『見たけどナンやらいっぱいあって、よ〜わからんっ! 。』と言われてしまった。  これは、思い当たるところが充分あるが、”モトクロス君”の率直な感想であるだけに正直ひどく堪えた。  なんとかしなければいかんなぁ……。  『ポストペットと言うもんを知ってるか?!』 『アハハッ……、知ってるっ! 。』、 『エッ?!……』、『はじめから入っている……』、『ケッ!、……』 音を止めているらしいので、RealAudioのおもしろさのことを説明しようとしたが、面倒になりメールアドレスを紙に書き付けて貰い退散し た。  夕方、もしやと思いながら、垣根を跨いで乗り越え笹の植え込みの脇を通りかかると、『……ャッ!』と優しい声がした。  あぁ、……、何という歓び、 =(・。.・)=チビちゃんがいた。  ガサガサ這い出てきた。  灯りの下でゴロゴロをやって見せてくれる。  急きながらドアの鍵を開ける、『……ャ』=(^。 ^)= と叫んで走り込む。  明るい部屋で見るが何処も別状が無いようだ。  空っぽの皿と空色のプラスチック容器に牛乳と花鰹とイリコを入れる。  まず牛乳から勢いよく飲み始め、花鰹、イリコを食べはじめ た。  足下にぶつかるので頭から尻尾にかけて撫で下ろしてやる。  尻尾をピンッ!と立てゴロゴロ歓喜の波動を発しながら横顔をゴシゴシ掌に擦り付ける。  ザラザラした猫舌で舐められると、くすぐったくて、思わず『∝……∽……、ッ!』声を挙げ る。  ズンズンよじ登って顔を舐めようとした、今日はいつも以上に油断していたのでちょっと舐められた。  思いっきりのびをしてついでに爪を研ぐ。  たっぷり再会の交歓式を野獣のしきたりで交わし、すっかり満足 する。  ポケットに札を入れてパワーラークスへ駆けつけて、生食鰯を2パック調達する。  すぐにとって返し”よく切れる包丁”で輪切りにして供する。  ドロリとした血が流れる、ビタミンがたっぷりありそうだ。  四肢をズンと突っ立て『ンガ!、ンガ!』喰った、舌なめずりをして体をよじって毛繕いを始めた。  昼休みにオコジョを見かけた、なんと逃げ出したので、とっさに木片を投げつけてしまったところを、脱兎の ように道に飛び出し疾走するねこに振り向いた”……”に見られてしまった。 (−.”−;)  4日も =(・。.・)=チビちゃんが来ない訳が、オコジョとの縄張り争いであるらしいと察しを付けていたのだ。  4日間も近寄れないチビが可哀想だとその刹那感じたのだぁ……。  10cmほど外し た。  子どもの頃、野……を……したことが想い出される。  

1998年2月17日火曜日  

ホームページビルダー3.0の 体験版を雑誌DOS/V Power Report 2月号の付録からセットアップして使っている。  これに付いているリンクみるだー中のFTP(ファイル転送)が優れもので、もっぱら最近これに頼り切ってい る。  すべてアイコンで操作できる、なんと言ってもクライアントとサーバーの両HDDのファイルが画面にいっぱいに拡げられるのがいい。  おかげですべてのファイルを見渡しながらアップロードが出来、気のせいかもしれないが、いささか速く感じ る。  この”感じる”ところがすばらしいぃのだぁ〜*。  確かこのリンクみるだーのファイル転送は本体と違って、体験版の期限が切れても使えたような気がする……。  更にパーミッション(アクセス権)の変更が実に楽しくできるところがにくいのだ。  本人(Owner)、グループ(Group)、他人(Others)ごとに表示されたR、W、X(読み込み可能、書き込み〃、実行〃)のラジオボタン(□)にチェクを入れると下の方に、例えば『755』、『UNIX表示形式:rwxr−xr−x』と表示され確認ができ る。  さらに重宝する優れものとして、”複数のWWWサーバーをプロファイルで管理できる。 ”や、”PC上のサーバー上のディレクトリを同期して移動できる。 ” 特徴が ある。  これらのファイルとディレクトリ操作がオブジェクト選択、右クリックまたはショートカットキーで行える。  もはや(≒やっと)洗練されたと言っていいと思う。  ”モトクロス君”を訪ねる、『ポストペットが初めから入ってるって言ってたけど……?!、セットアップされてるってこと?!……』、『画面の下の方をクリックすると入れるだろう……。』と言う。  どうやら閲覧できるので嬉しいということらしい。  料金のことやアプリケーションの調達、不思議で魅力的なペット日記について話してやったが、どこまで解ってくれたことやら。  まあ興味が湧いてきたらしい気配があるようなので、進展を見守ることにした。  そのうち、ドカドカと上がり込み、『お……ぃ!、ペットのCDあるだろう……! 。』と何時耳にするかじっと待っていよう。  今日は、チビちゃんが待っててくれなかった、部屋に入るのを止めて駐車場の方に探しに行く。  砂利を敷き詰めた広い駐車場を歩いて行くうちに、車の影に動くものを見つけ た。  =(・。.・)=『……ャ』 掠れた反射があった。  付かず離れず2人?!で還る、隷属を種の伝統で頑として拒むコロコロした方が先導する。  この暖ったかさ、柔らかさ、しなやかさ、徹底した自由賛美、耽美信奉の不羈の王は人物を蹂躙 する。

1998年2月20日金曜日 

先々日、夕方棲み家に帰って例によって部屋に入る前に、すぐチビちゃんを駐車場の方に探しに行ったが見つからなかった。  ジャリに膝を付き車の下を見渡してみる、声がちぎれて飛ばされて来ないか?!、息を止めてみる。  何か反省することでもあればいいのだが……、重い足を曳きずり、うなだれてすごすごと部屋に帰り、机に向かってぼんやりしていると、少し開けた窓から『カタッ!、……、トン!!』と入ってきた。  コロコロした顔で『……〜*、〜ャ!』と叫びながら、そこらじゅうを闊歩する。  しっぽを激しく振りコロコロしたボディーを足に擦り付ける。  カーペットに腰を下ろしぐるぐる回る =(・。.・)= 股でそっと挟んで捕まえる。  掌にごわごわした顔を擦り付けて挨拶をくれる。  いつものようにゆっくり頭、背中、腹を撫でる、横顔をゴシゴシ掻いてやると目を細めて思いっきり首を伸ばして、『……もっと!』と言う。  机の下のホットパネルにのっかった、羊の毛がそっくり残っている、皮の座布団。  これに =(・。.・)= がのびのびと四肢を伸ばしている。  人物が机から離れるとむっくり起きあがり、大きく伸びをやってから、『……ャ』と言う。  冷蔵庫を開ける気配できっと近寄ってきて催促する。  でもまだ空色の"○"には、花鰹やイリコ、”フリスキー お魚いろいろ まぐろ味”があるのだ。  気まぐれやさん!……。  先日も夕方棲み家にたどり着き、 =(・。.・)= がいなかったので近所に探しに行った。  あきらめて帰りかけると、道路を横断するように2つの黒い影が突然飛び出した。  駐車場に敷き詰めたバラス(≒ジャリ)を蹴散らし矢のように縦横にすばやく疾走し駆け回った。  チビちゃんと灰の斑で同じくらいの大きさである。  じゃれ合うように、春を謳歌するカップルのように見えた。  人物の姿を認めてチビちゃんが近寄って来た、誘導するように棲み家に向かう。  先回りしてドアを少し開けて待ってると、激しく牽制しながらアタックする灰を引き離し、いつものように無事ドアに吸い込まれて着艦した。  ちょっと羨ましいあれは、何だったのだろう?!。  兄弟だろうか?!、燃えるような恋の対象なのか?!。  所帯?!を持つとあるいはその前提のランデブー?!を行うと、同棲は終わりになるかも知れない?!。 

1998年2月21日土曜日

輪切りの魚、ミルク、雪印 ”毎日骨太 ベビーチーズ”、イリコ、花鰹を空色の”○”に入れる。  今日は、駐車場に姿が無かった、仲良し駆けっこのすばやく地面を疾走する野獣はいなかった。  車の下に寝そべったりもしてないようだ。  口笛で呼んでみる、『∝……、∽……*、 ……♪』。  『……ャ』小さな消え入るような発表があり、近所のアパートの縁の下から茶と黒の頭が覗いた。  人物を認めて駆け出す。  『 …………* 』 =(・。.・)=  傘の影に決して入ることなく、平行して建物に沿った野獣の轍を駆ける。  開けたドアにスルリと駆け込む、全く音がしない。  いつも机の下から背伸びをして、人物が何をやっているか調べようと する。  とうとうH90cmの机の上に”パッ!”と音もなくしなやかな身のこなしでやってきて、両手を人物の胸のセーターに架けたり、種伝来の挨拶であるところの顔を舐めようと する。  不思議とキーボードを手で押さえたりしないで安心する。  顎を背に乗っけていると暖かくて『ゴロ〜∝∽!、∝∽……!』と『ドドド!、……! 』の混じった船に乗ったような、エンジン音と体全体の息づかいが顎の骨に直に伝わり波動がズンズン伝わる、『あぁ*……*』。   先日の夕刻、下に降りて行って無精髭の山男の話を聴く。  『今は何をやってるんや?!……、イワナはオフだし、大磯はとっくに飽きたんだろう?!……、そうか〜山菜かぁ?!……』 『ん……、山菜もいいがなんと言っても最近はキノコだな〜、……で売ってるのと全然っ違うっ!。  毒キノコ、これがもの凄く旨いなっ! 。』 『えっ!、今度持ってきてよ!…。  少し痺れるとか……?!。』 『いや死ぬなっ!。』 『死ぬならなぜ旨いと解る?!。』 『いや、今まで喰ったことのない天上的なうま味だ!、と言って悦んでいたが、そいつはそれっきり動かなくなった、と一緒にいたやつから聞いた 。』 『ん……、去年肋骨を折った、……バイクで転んでいつもより痛いなと思っ た。  んでたまたま病院の前を通りかかったので診てもらった、レントゲンを見て2本折れてますって……、治療はなーんもしない、やりようがない。  もうくっついたんじゃないかな?!。  例の池、行ってんのか?!、この前通りかかったら見えなかったぞ、ドーンと囲いが出来てたな…。』 『岩手、福島、……、2万5千分の1も使うな……』 『……いらないパソコンがあるだろ、あれ貰ってやるよ! 。』

1998年2月23日月曜日 

日曜日の早朝、とてつもなく早く目が醒めた、熱帯のむせ返るような情熱がたれ込める美味しいコーヒーがあるので、サンジェルマンの”クリームデニッシュパイ”とシナモンドーナツ、それにカリカリのベーコンエッグですばらしい朝食をしたいと思って布団に潜り込んでまだ数時間しか経っていない。  しばらくうとうとして、『トコッ!、トコッ!、……!』という音と、ズンズン足下を押さえる何者かの気配で、100万光年の第七銀河の向こうの遙か彼方の作戦地から突然任を解かれ呼び戻され る。  しばらくなんとも天国的なほどよい重みを感じ、朦朧とした半覚醒の無重力をさまよいつつ、見えない生き物の挙動を察知しようと耳をそば起てる。  やがて =(・。.・)= が『……ャ!、……ゥ!』掠れてしまった声で合図をくれる。  掃き出し窓のほうに顔を向けていつもの発表を行う。  布団から手を伸ばして10cmほど窓を曳く。  すかさず、しっとりキリリとしたひっそりしたものが忍び込んでくる。  カーテンがフワリと揺れて音もなく何かが滑り出す。  一切音を起てない。  窓を締めて一切の意欲を失い仰向けになったまま、そっと鐘を下ろす ように深淵にずんずん落ちていく。 

1998年2月24日火曜日

昼過ぎキラキラの横殴りの斜光を浴び、キリリとしてどこか春めいてむずむずする唆しを放つ風を切って坂道を下る。  とりとめのない頼りない憧れや諦観、気に入った一言半句を呼び起こし反芻し、それらを対位法的に展開・変化させながら遠くに霞んでそそり立つ青い山を見やりつつ長い道を滑り降り る。  春の予兆がやってきて首筋を撫でて通り過ぎる、欄干から下を覗くと薄茶褐色に濁った怒濤が蹴立てて流れていた。  よく観察すると水量が増えた訳でもないらしい。  遠くにオレンジの恐竜骨格がゆっくり伸びたり屈んだりしている、河原の地面を掘っているのが見え た。  近くで見ると見上げるように大きくそびえ、躊躇なく流れにザザッと踏み込み加速しつつ以外な早さで進むので、見ていて倦むことがない。  子どもの頃、いつもの学校からの帰り道、ちょっとした道の脇の空き地にその赤い鉄骨ばかりの野郎を見たときの、瞠目と憧れはいっこうに褪せることがない。  見たこともない大きなタイヤが後方に左右に3個づつ、しかもくっつきそうな間隔でドーンとあって、前輪はけっして左右に向きを変えることなく、図々しく曲がりたいほうに傾ぐという途方もなくあきれかえるような、勿体ぶったやつであっ た。  そいつが本当に力を発揮しているところは滅多に見れるもんでなかった。  2度ばかり遠くからそのチャンスに遭遇したことがあるが、左右に屹立させたマフラーから黒い煙を吹き出し喘いでい た。  憤怒と勤勉がひしひしと伝来してきた。  ゆっくりと斜に構えた” 【 ”を砂利道に押し当て、ジリジリ、ズンズン、ザクザク、有無を言わせず、黙々と正直に突き進んでいた。  砂礫と激しく激突を繰り返し紫の煙を噴出させつつ砂岩を削り破砕しつつ、鏡の ような平坦ものを残して推進していった。  届かない高いところにドアを持つ深い暗緑の運転席、グリースが鈍く光沢を放つ油圧系のシリンダーなどを、隅から隅まで学校の行き帰りに恍惚と眺めた。  背丈程の後輪タイヤを思いっきり蹴っ飛ばしたり、甲殻を大きな石で”ガン!ガン!” 叩いて回り音の変化を調べたりし た。  青褐色のグリスや”ドロッ!”としたオイルの匂いを嗅いだ。  ずいぶん長いこと道路脇の空き地に置き去りにされたそいつは、突然姿を消した、んが不思議なきっと外国のものであろう色合いのボディーと静と動を併せ持ちがっしりした外観に不釣り合いな、小さくなって遠くに見えながら喘いでいる姿はいっそう明晰にな る。  その深淵な暗赤をぎっしり詰め込まれて隙間なく劇的な意志が犇めきあっている。  一途な推進と甲殻に漂う悲壮感と果敢意欲は忘れがたいものであり、何かのはずみに”そよぐ”。  友達と交わしたであろう熱いしぶとい精一杯の論争などはことごとく霧散してしまい、かけらさえ甦ることはないが、グリスや”ドロッ!”としたオイルの 匂いと、小さくなって黒い排気を吹きだしながらゆっくり確かに邁進する光景は色褪せても、その印象と脳裏に去来・喚起されたものとともに、いっそう明晰に蘇生する。 ○井の地下に降り、”Virgin”の広いフロアーを歩き、JAZZ、ワールドミュージュックを物色する。  知り合いのCDに復刻盤で出会うと一瞬、時空を超えて時間が引き戻され目眩の ような悦びがある。  OUMOU SANGARE/ WOROTAN'/ 79470-2/ AFRO POPを獲得する。  夕方、暗くなって窓から  =(・。.・)=  が音もなく還ってくる。  心配をかけたかもしれぬことを恥じ、臆しているのだろうか!?。  野生動物の本能で、侵入の際の気配を隠し静謐さを保っているのだろうか!?。  人物を驚かそうと企み、嬉しさを隠しきれないでいる。  丸顔を傾いだ媚びなどは見あたらず、真っ直ぐに見上げる。  人物が気が付いた頃合いで、『……ミャッ』。  小さい声をあげる。  S.E.ROGIE/DEAD MEN DON'T SMOKE MARIJUANA/ CD RW46/AFROと、PAT METHENY GROUP/ LETTER FROM HOME/ 9 24245-2  をふっと思いつくまま引き抜き聴く。  新しいCDを後回しに、何とか後半の”UA”の”カピバラ・レストラン” が聴けた。

1998年2月26日木曜日 

珍しくチビちゃんが待っててくれた。  絹のような雨に打たれ棲み家に近づくと、『……ミャー…ッ!』消え入るような声が投げられる。  紅葉の下の本箱の上にちょこんと両手を揃えた正座のその姿があった。  小走りに走りつつ一緒に還る、『わぁ〜ぁ……ん!』、尻尾を起てて”パタ!、パタ!”振る。  冷蔵庫を開けると、きっと駆け寄ってきて纏わり付く。  冷凍の専用の魚をレンジで解凍する間、ゴロゴロをやる。  気が付くと・いつの間にか =(・。.・)= が机の上にいる。  『ゴロ〜*・ゴロ〜*』喉を鳴らしながら近寄り、顔を舐めようとするので背後に回り顎を乗っける。  そのうち腕の上に乗っかり寝そべってしまう。  結構な力で押しやったり、重量が腕に掛かるので疲れる。  丸顔の頭をグリ!グリ!してやる、頗るヨロコビの表情。  交歓を交わすときっとトコトコ自分のお皿に向かい”グァシグァシ”と魚を噛んだり、ミルクを”ペチャペチャ”やる。  決まってこの順序であり逆順になったことは、かってない。  しかしつき合ってやっているといった実感は無い、どうも人物が励まされている実感と恣意しか興らない。  やはり不羈の王は人物を蹂躙する。  ”UA”の”カピバラ・レストラン”のテープを聴く。  誰かの詩のようなものをたどたどしい難波の抑揚で読む。  歌手独特の力のある芯のある太い地声が心地よい。  ちょっと鼻が詰まっている。  (^.^) 伸びやかで次から次ぎへと”狂気の文明からの偉大な逃走”が繰り広げられる。  どっしりとした気品から好ましい放射能がパチパチ放電する。  ”一太郎8 Office Edition/R2”のセットアップを行った、#1PCとに送られてきたCD−ROMを突っ込む。  #1PCのDドライブにセットアップしているバリューパックの電子辞書ライブラリーがうまく機能しない、ちょっとした設定があったので後で調べてみよう。  郵送されてきたInternet Explorer 4.01のアップデートモジュール(SHELL32.DLL)をセットアップした。  これは、”Windows 終了時「しばらくお待ちください」画面で停止する問題”=J041047解決のための自己解凍型プログラム(≒500KB)で ある。  今までは('97/12〜)、ExitWin for Windows95で終了させていたが、やっとこれからはめでたく正規?!の終了が出来る。  EricClaptonのPilgrim(ピルグリム)をFMで聴いた、危うさと果敢な憂愁が静謐に放射される背、飛び散る紺青のしゃくり上げる ような、紫の山影に消え入る狼の遠吠えの ように喘ぐ情念に引きつけられる。  金曜日にでも出掛けて獲得しよう。 

 

 

 

 

御愛読ありがとう。

2  に続く。      fin.  


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