天の岩戸
須佐之男命(素戔嗚尊)が天に上ってきて天照大御神(天照大神)とやりあう物語は、誓約神話(紀では第六段)と須佐之男命の乱行(以下、紀では第七段)、天石屋籠り、天安河の河原の神集いから構成される
須佐之男命は、伊耶那岐命(伊奘諾尊)に「神やらひにやらひ」、すなわち、この国から出て行けといわれた。 そこで、天照大御神に挨拶してから行こうと言って、天に上ってきた。 山川国土は鳴り轟き揺れ動いた。 天照大御神は驚き、高天原を乗っ取ろうとやってきたのであろうと言って、髪を解いて男装の髷をつけて武装し、大地を踏みしめて雄叫びをあげて待ち受けた。 須佐之男命は、反逆心などなく、母の国へ行くことになった顛末を話しに参上したのだと言った。 清く赤い心は何によってわかるかが話題になり、それぞれ誓約をして子を生めばいいと言った
そこで、天の安の河を中にして誓約をすることになる。 まず、天照大御神が須佐之男命の帯刀している十拳剣とつかのつるぎをもらって三つに打ち折って、「ぬなとももゆらに天の真名井に振りすすぎ、さがみに噛みて吹き棄つる気吹の狭霧に」三柱の神が生まれた。 須佐之男命は天照大御神の珠をもらい受けて、同じやり方で左の髷に巻いた八尺の勾玉の五百つの御統の珠の分から一柱、右の髷の分から一柱、髪飾りの分から一柱、左手の分から一柱、右手の分から一柱、都合五柱の神が生まれたそこで天照大御神は須佐之男命に、後で生まれた五柱の男神はもともと自分の珠から生まれたから自分の子で、先に生まれた三柱の女神は、もともと須佐之男命の剣から生まれたから須佐之男命の子であると言って判断した
すると須佐之男命は天照大御神に、自分の心が清く明るいから自分は女の子を得たしたがって自分が誓約に勝ったと言って、調子に乗って高天原でいろいろな悪さをする。 田の畔を壊し、溝を埋め、新嘗祭を行う御殿に糞をし散らかした。 それでも天照大御神は、彼に悪意があるわけではないと温情をもって解釈していく。 しかし、最後に忌服屋の事件が起こる。 天照大御神は服織女に神の衣を織らせていたところ、屋根の棟に穴をあけて天斑馬を逆剥ぎに剥いで落とし入れた。 そのため、服織女は見驚いて、梭に陰部を突いて死んでしまった。 天照大御神はそれを見て恐れおののいて、天の石屋の戸を開けて籠ってしまった。 おかげで高天原も葦原中国も真っ暗になって、毎日毎日夜ばかりになった。 たくさんの神々の声がうるさく響き、たくさんの災いごとがどんどん起こった
八百万神(八十万神)は、天安河原(天安河辺)に参集した。 そこで、役割分担して天照大御神に戻ってきてもらおうとする。 作戦は、(1)思金神(思兼神)に思わせる、(2)常世の長鳴鳥を鳴かせる、(3)天津麻羅(天糠戸、天抜戸)と伊斯許理度売命(石凝姥、石凝戸辺)に鏡を作らせる、(4)玉祖命(豊玉、天明玉)に五百個の御統の玉を作らせる、(5)天児屋命と布刀玉命(太玉命)に太占の占いをさせる、(6)榊に供え物をして布刀玉命が捧げ持つ、(7)天児屋命が祝詞を寿ぐ、(8)天手力男神(手力雄神)が戸の脇に隠れ立つ、(9)天宇受売命(天鈿女命)が神憑りして裸踊りをする、というものであった。 そうしたものだから、高天原はぐらぐら揺れ、八百万の神たちは笑いあった
天照大御神はいぶかしがって天の石屋の戸を細く開けて独り言をする絶大な自分が籠れば天の原、ひいては葦原中国も真っ暗だと思うのに、どうして天宇受売命は歌舞し、八百万の神は皆笑っているのだろうか、と天宇受売命は、あなたよりも貴い神さまがいらっしゃるからですよと言いつつ、天児屋命と布刀玉命が鏡を差し出して姿を映させたので、天照大御神はいよいよ不思議に思って身を乗り出したそこで、天手力男神がその手を取って引き出し、布刀玉命が尻くめ縄を後ろに引き渡し、これよりうちには還り入ってはなりません、と言い放った。 こうして、天照大御神はお出ましになって、高天原も葦原中国も自動的に照り明るくなったそして、八百万の神々は協議して、速須佐之男命にたくさんの賠償金を課し、髯と手足の爪を切り、お祓いをして追い払った。 以上が話のあらすじである